先週(2月17日週)の動き:NY金高値更新の8連騰、国内金価格は円高圧力で週足反落

先週(2月17日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は8週続伸した。総じて底堅い米経済を背景にFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げが遠のくとの観測が根強い一方で、トランプ政権による関税政策の方向性が固まらず、多くの産業セクターが対応に苦慮する状況の中で、不確実性の継続観測から金市場に逃避資金が向かう流れが続いている。また同時に地政学リスクを巡る不透明感も安全資産としてのゴールド買いを促している。

NY金、利益確定売りを消化し高値更新

こうした中で2月17日がプレジデンツデーの祭日で4営業日となったニューヨーク市場だったが、NY金は終値ベースで18日(2,949.00ドル)、20日(2,956.10ドル)の2営業日で過去最高値を更新し、取引時間中の高値も20日に一時2,973.40ドルまで買われ更新した。

最高値圏でもあり当然高値警戒の利益確定売りが出るものの、水準を切り下げたところは押し目買いが入り、前日の終値水準に値を戻す展開が続いている。前週までの2週間は週足の値幅が100ドル前後と荒れた展開となったが、連休明けの2月18日こそ1日の値幅が50ドルを超えたものの、その後3営業日は30ドルほどに落ち着いた。

結局、週末21日は前日に高値を更新したこともあり、NY時間には利益確定の売りが先行した。この日発表された米経済指標が景気減速を示す内容となったことから、警戒感が先行する形で米国株式市場がナスダック総合株指数の前日比2.20%を筆頭に主要株式指数が軒並み大きく下落。前日に最高値を更新していたNY金は売り買い交錯状態の中で利益確定売りに押され前日比2.90ドル安の2,953.20ドルで終了した。

先週(2月17日週)のNY金の週足は前週末比52.50ドル、1.8%高の8週連騰となった。レンジは2,904.90~2,973.40ドルと70ドル幅となったが、これは前述のように18日の高低差が大きかったことによる。

国内価格は円高が下げ要因に

一方、国内金価格は、NY金の最高値更新にもかかわらず、米ドル/円相場が米ドル安・円高に振れたことで相殺され上値の重い展開となった。大阪取引所の金先物価格(JPX金)の21日の終値は1万4260円で週足は前週末比145円、1.0%安で反落となった。週初からの円高の流れが週末にかけて一時149円割れまで見たことで、円高が大きな押し下げ要因となった。レンジは1万4138~1万4456円となった。

地政学リスクとしてのトランプ外交

年初からのNY金の上昇の背景に、トランプ米政権が掲げる関税など政策全般の米経済のみならず、世界経済への影響や各国との外交的軋轢(貿易戦争)の高まりなど不透明性がある。市場の先行き不透明性への警戒は、1月20日の2次政権正式発足後にさらに高まった。断続的に公表される政策が、関税であれば相手国の反応により内容が今後も変わりうる点で市場も対応を固められず、方向性が決められない状態が続いている。

そうした中で、先週(2月17日週)トランプ政権の政策に対する金市場の反応に変化が現れた。ウクライナ戦争の停戦協議に当たり、トランプ大統領がロシア寄りの対応を明らかにしたことによる。侵略者としてのロシアへの批判は封印し、ビジネスパートナーとしてロシアを捉え、「ウクライナ戦争」を「ロシアとウクライナ間の紛争」との位置付けに変更し、停戦協議を進めようとしている。報じられているように、その話し合いも当事国たるウクライナ抜きで進められている。

米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)へのウクライナの非加盟や領土面でのウクライナ側の譲歩をロシア側に打診し、その方向で事態は進行している。これが意味するのは従来の米国を頂点とする国際秩序の崩壊であり、いまやトランプ政権の外交方針が最大の地政学リスクという受け止め方に変わっている。

NY金が2,900ドルを超えて未踏の領域をひた走るのは、すでに世界貿易の阻害要因たる関税賦課の悪影響やインフレの再燃にリスクがとどまらないことを表している。世界政治の構造変化という大きな流れの中で、無国籍通貨であり、政治的にも無色の安全資産としてのゴールドの保有が広がっている。

金ETFへの記録的資金流入

こうした中で先週は、欧米投資マネーの金市場への流出入を計る指標の一つとして知られる金ETF(上場投信)の残高が急増したのが目を引いた。金ETFは欧米勢の解約売りが2024年7~9月期まで続き、10~12月期も12月単月では欧米勢は売り越していた。

金の国際的調査機関ワールド・ゴールド・カウンシルの調べによると、先週(2月17日週)は週間で52.4トン、金額ベースで50億ドル(約7750億円)の資金流入が見られたとしている。これは2022年3月第1週以来の規模となる。当時はロシアのウクライナ侵攻を受け、地政学リスクの上昇から安全資産としてのゴールドが買われ、金ETFへの資金流入が続き価格が急伸した経緯がある。

52.4トンの残高増の内、北米上場の銘柄が48.7トンを占めており、最大銘柄「SPDRゴールド・シェア[GLD]」への資金流入が大半を占めていたことがわかる。この銘柄は東証にも重複上場(1326)されている。ここまで金ETFに関しては音無しの構えとも言えた、米系を中心とした投資マネーの本格流入が始まった可能性がありそうだ。なお、先週末時点で金ETF全体の規模は重量換算3,326.3トンで2023年8月以来の規模となっている。

今週(2月25日週)の見通し:FRB高官よりトランプ発言、NY金2,950ドル前後の滞留、JPX金1万4200円を挟み上下200円のレンジ

前回のコラムでは、2月21日(金)発表のS&Pグローバルによる2月の米PMI(購買担当者景況指数)速報値とミシガン大学2月の消費者信頼感指数(確報値)に注目とした。結果はいずれも米経済の減速を示唆するものとなり、主要通貨に対する米ドル安と米長期金利の下落につながった。トランプ政権の政策に対する市場の警戒感が高まっているところに被る形で弱気の結果は、株式市場の下げにつながり、リスクオフ気運を高めている。

今週(2月25日週)はFRB高官の発言機会が少なくとも11人予定されている。このところ発表されている米経済指標の減速鈍化についてのそれぞれの発言がどうなるか。ただ、それよりも市場の関心はトランプ発言に向けられているのは否めない。

2月28日に発表される1月の米個人消費支出(PCE)統計では、変動の激しい食品とエネルギーを除いたPCEコア価格指数(デフレーター)は前年同月比2.6%上昇と予測されている。予想通りなら2024年6月以来の低水準となるが、先行して発表された1月の米生産者物価指数(PPI)の結果からある程度の織り込みが進んでいる。

一定のインフレが残る中で、米経済指標の悪化が続けば、市場は先行きのスタグフレーションへの警戒を強めることになりそうだ。景気減速とインフレが並立する環境はゴールド上昇と親和性が高い。

NY金は3,000ドル手前に売りが控えることから、2,950ドル前後を中心にした滞留相場。          JPX金は1万4200円を挟み上下200円のレンジ相場を想定する。