今年もまた桜が咲きました。桜は毎年急にドッと咲くので、花見や花見関連ビジネスのスケジュールは翻弄されます。ただでさえ桜を見ると、平安の歌人は平静心を失い、安吾は狂おしく怯えた訳ですから、加えてタイミングにまで気を弄ばれて、人の気持ちは愈々そぞろになります。一言に桜といっても色々あります。ソメイヨシノ、山桜、八重桜。若い桜、老いた桜。大きな桜、小さな桜。色の濃い桜、薄い桜。三分咲き、満開、葉桜。しかし私が一番大きな差を感じるのが、多くの本数がまとめて咲いている桜と、一本ぽつんと咲いている桜です。桜は狂おしいこそ桜だとも云えますが、山の中腹に一本だけ桃色を添えていたり、或いは通り沿いに一本だけ−かつてはその前を歩いて往来したであろう旅人の心をそっと和らげるように−咲いている桜も中々趣のあるものです。私はどちらかというと、このような控え目ながらしっかりと大きな風景の中に重要なアクセントを与えている桜が好きです。さはさりながら、そんな私も、狂おしい桜並木に一回は誘われて見に行くのでしょう。桜並木を造ったり、山一面に桜を植えた人は、冷静な気持ちで行なったのでしょうか?桜の花に弄ばれてうっかりやってしまったのでしょうか?それとも私のような人を見たい徒心から企てたのでしょうか?