アップル[AAPL]とバンク・オブ・アメリカ[BAC]の持ち高を圧縮
著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]は11月14日、SEC(米証券取引委員会)に9月末時点の上場株ポートフォリを報告するフォーム13Fを開示した。それによると、引き続き、保有株の上位であるアップル[AAPL]とバンク・オブ・アメリカ[BAC]の持ち高を圧縮する一方、新たにドミノ・ピザ[DPZ]とプール[POOL]を取得したことが明らかになった。
また、6月末時点で3954億ドルを保有していたフロア・アンド・デコア・ホールディングス[FND]を全て売却。9月末時点で保有する上場株式数は37銘柄と、3ヶ月前に比べて差し引き1銘柄増加した。投資残高は約2663億7890万ドルと、6月末に比べて135億9016万ドル減少した。
バークシャーは4四半期連続でアップル株を売却している。9月末時点で保有するアップル株(699億ドル)は、3ヶ月前の6月末(842億ドル)から4分の1に、3月末時点(1354億ドル)からは62%減、さらに2023年12月末(1743億ドル)から70%減少した。
バンク・オブ・アメリカ株については2024年夏から断続的に売却を進めている。世界金融危機後の2011年、バークシャーは50億ドルの優先株を購入し、バンク・オブ・アメリカ株への投資をスタートした。以降、保有を積み増し、バンク・オブ・アメリカ株はバークシャーにとってアップルに次ぐ保有上位銘柄であったが、今回の売却を経てアメリカン・エキスプレス[AXP]に次ぐ第3位保有株に後退した。
なお、アメリカン・エキスプレス、コカコーラ[KO]、シェブロン[CVX]については手つかずのままであったため、バフェットは明確な意図を持ってアップルとバンク・オブ・アメリカを売却している。バフェットは以前、「我々の事業の大部分は、今年は昨年より低い収益を報告するだろう」と語り、米国経済の「信じられないような時期」が終わりつつあると述べていた。
バフェット氏は今回、ドミノ・ピザとプールの2社の株式を新たに取得した。保有株式数はドミノ・ピザが128万株(発行済み株式の3.7%)、プールは40万4000株だった。個別に見れば大きなボリュームであるのは間違いないが、バークシャー全体のポートフォリオからすればごく一部であり、影響は限定的であると言えるだろう。
手元資金が過去最高の50兆円に、総資産に占める割合は25%
バークシャーが11月2日に発表した2024年7-9月期の四半期報告書によると、バークシャーが保有する手元現金(現預金と米短期債の保有額を合計した額)は、9月末時点で3252億ドルと過去最高を更新した。6月末時点の2769億ドルと比べ2割弱の増加、1年前(2023年9月末)比では倍増となった。1ドル153円で日本円に換算すると49兆7556億円となり、50兆円に迫る水準だ。
2024年5月に開催されたバークシャーの年次株主総会において、バフェット氏は「(現金を)使いたいのはやまやまだが、リスクがほとんどなく、私たちに大きな利益をもたらしてくれると思わなければ、使うことはないだろう」と述べていた。9月末時点でのバークシャーの総資産に占める現金ポジションの割合は、これまで最も高かった2005年第2四半期末時点を上回り、ほぼ25%となった。
米国経済は2000年のITバブル崩壊を経て、2003年以降、本格的な回復局面へ移行した。FRB(米連邦準備制度理事会)は2003年6月に利下げを打ち止めし、2004年6月から利上げを始めた局面であった。この過程においてもバークシャーは現金ポジションを積み上げていた。金融政策の変化に対して機敏な対応をとっていたことがうかがえる。
なお、四半期報告で開示された7-9月期の最終損益は262億ドルの黒字(前年同期は127億ドルの赤字)だった。米国会計基準では保有株式の評価損益を最終損益に反映する必要がある。決算発表資料によると、9月末時点のバークシャーの株式ポートフォリオは2716億ドルだ。このことから、バークシャーの最終損益は株価変動により大きくぶれる傾向にある。なお、投資評価損益などを除く営業利益は前年同期比6%減の100億ドルだった。
積み上がった現金ポジションの内訳は短期国債
バークシャーの手元現金が急速に増加している理由は単純だ。保有する株式の圧縮を進めているためである。第3四半期にバークシャーは差し引き346億ドルの株式を売り越した。4-6月期(755億ドルの売り越し)から額は半減したものの、8四半期連続の売り越しとなる。その大半は前述の通り、アップルとバンク・オブ・アメリカの売却によるものだ。
注目すべきは、その積み上がった現金ポジションの内訳だ。全体のうち現預金の割合が11%であるのに対し、89%を短期債で運用している。バフェットは以前、米国債の購入について唯一の問題は、「3ヶ月物の財務省短期証券で買うか6ヶ月物で買うかだ」と語っていた。年明けの「債務上限危機」やこれから3年間で15.5兆ドルが満期となる「米国債の大量償還」など、将来起こりうる市場の混乱に備え可能な限り短期で運用する方針なのだろう。
バークシャーは巨額の資金と確実なパフォーマンスで、市場の混乱や発作に即座に対応する手段を完備している。いつの時代もそうであるように、行き過ぎた株価の戻りは起こるものだ。そのような混乱が起きたとき、バフェット氏には現金を利用する準備が整っている。