先週の動き(11月18日週):NY金地政学リスクで5営業日連騰、週足1年8ヶ月ぶりの上昇率、国内金価格もつれ高に
地政学リスクの高まりを受け、ゴールドに資金流入
先週(11月18日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、米大統領選後の不透明感の消失から前週末にかけ6営業日続落(週足4.6%安、3年5ヶ月ぶりの下げ)で、ファンドの買い持ち(ロング)がネットで150トン余り集中的に売られた後、週初から5営業日続伸で大幅反発だった。ファンドのポジション整理が大きく進展し、値動きが軽くなったタイミングにウクライナを巡る地政学リスクが買い手掛かりとなった。
17日にバイデン米政権がウクライナに供与した長距離ミサイルをロシア本土への攻撃に使用することを容認したと伝えられ、19日にはウクライナがロシア本土の軍事基地を攻撃した。対してロシアのプーチン大統領は同日、核兵器の使用条件を示した核ドクトリン(核抑止力の国家政策指針)を改定。
さらにウクライナは、19日の米国製の長距離地対地ミサイルに続き、20日に英国製の長距離ミサイルを初めてロシア領内に向けて発射したと発表。北朝鮮軍兵士をウクライナ戦線に投入したことへの対応として英国が認めたとされる。21日にはウクライナ空軍はロシアが大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したと発表。核兵器を連想させるこの発表に緊張は一気に高まった。その後、ロシアのプーチン大統領は国営TVを通じ、同日にウクライナの防衛企業を標的に新型弾道ミサイルを発射したと明らかにした。
米国防省は、「核弾頭も搭載できる弾道ミサイルだったが、今回は通常弾頭で発射された」と発表した。また、発射前にロシア側から米国に通知があったことも明らかにした。ロシア側は「核」使用を連想させる弾道ミサイル発射に対する過度の反応を抑えるため、事前に通告したと見られるが、欧州諸国全般に警戒感が一気に高まったのは想像に難くない。欧州全域を射程に収めることから、ウクライナとロシアの戦闘が激化したとの印象を欧米投資家に与えたと考えられる。
安全資産とされる金(ゴールド)への逃避資金の流入は、そのままNY金の値動きに反映されることになった。先週(11月18日週)の週初から上昇を続け5連騰の22日NY金は、2,712.20ドルと約2週間ぶりに2,700ドル台を回復。この日は、発表された米欧の景況感の違いもあり対ユーロでドルが高騰。
ドル指数(DXY)は一時108.091と2年ぶりの水準まで上昇。米10年債利回り(米長期金利)も前週末に付けた約5ヶ月ぶりの水準(4.507%)に近い4.4%台で終了した。米ドル高、米長期金利上昇はNY金の売り材料だが、その中での逆行高は逃避需要の強さを表す。
週足は前週末比142.10ドル、5.53%高の反発となった。週足の上昇率としては2024年に入り最大で、2023年3月17日終了週の5.7%以来の高さとなった。当時は米地銀シリコン・バレー銀行(SVB)の経営破たんなど信用リスクの上昇を懸念する買いを集め上昇していた。
NY金の上昇を受け、国内金も2週間ぶりの高値
先週のNY金のレンジは、地政学リスクの高まりで2,568.50~2,718.20ドルまで拡大した。地政学リスクは流動的で予測できず数値化が難しい。したがって、運用プログラム(アルゴリズム)が利きにくく、ファンドの動きも展開に沿ってということになる。時間の経過とともにNY金は段階的に水準を切り上げた。
想定レンジを2,565.00~2,630.00としていたのは、短期筋のファンドの手じまい売りが前週までで重量換算150トンにも上ったことで、売り一巡で2,600ドル台での値固めの展開を読んでいたことによる。一気にプレッシャーの次元を引き上げたロシアの動きは想定外だった。
一方、NY金のレンジ拡大を受け国内金価格のレンジも拡大した。大阪取引所の金先物価格(JPX金)の22日の終値は1万3,458円と2週間ぶりの高値となった。週足は、前週末比531円、4.1%高とこちらも大幅反発ということに。
米ドル/円相場が154円台で安定して推移したことから、NY金の上昇をダイレクトに反映した。想定レンジを1万2,750~1万3,150円としていたが、実際には1万2,750~1万3,458円と上限が300円ほど上振れしたのは、NY金のレンジ上振れと同じ理由となる。
11月米欧PMI速報値の格差拡大、ドル指数2年ぶり高水準
先週のレポートで注目点として挙げていた米欧のPMIについて、米PMI総合指数の速報値は55.3と、2022年4月以来2年7ヶ月ぶりの高水準に達した。10月は54.1だった。PMIは50が拡大と縮小の節目となる。
FRBによる利下げ見通しとトランプ次期米政権による企業優遇策への期待が追い風となり数値を押し上げている。10~12月期にも経済成長が加速している兆候と受け止められた。その一方で、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利下げは見送りとの見方が増えることで金市場にはマイナス要因となる。
一方、11月ユーロ圏PMI総合指数速報値は、48.1と、10月の50.0から大幅に低下し10ヶ月ぶりの低水準で、好不況の分かれ目となる50を割り込んだ。サービス業PMIが51.6から49.2に低下し縮小に転じたほか、製造業PMIも46.0から45.2へと一段と縮小した。欧州中銀(ECB)の今後の利下げ幅は拡大するとの見通しにつながった。
この日、ユーロは対ドルで一時1.0333ドルと、2022年11月30日以来2年ぶりの安値を付け、先に取り挙げたようにドル指数は2年ぶりの108ポイント台に上昇した。PMIの結果から米欧の格差が広がっていることが分かる。
今週(11月25日週)の見通し:27日(水)米10月個人消費支出(PCE)統計に注目、想定レンジ NY金2,660.00~2,725.00ドル、JPX金1万3,100~1万3,560円
今週のNY金は、本来の金融経済環境の見通しに沿った動きに戻ることになりそうだ。前週に140ドル余り駆け上がったことで、ウクライナを巡るリスクは一定の織り込みが進み一巡したと見る。ウクライナ情勢に新たな動きがあれば、その都度評価した動きになろう。
こうした中で注目されるのは27日(水)の米10月個人消費支出(PCE)統計がある。その中で基調的なインフレを判断する上で指標となるPCEコア価格指数(デフレーター)に注目したい。先行して発表された米10月生産者物価指数(PPI)などから根強いインフレ圧力を示すと見込まれている。そうなれば、12月FOMC利下げ見送り観測を強める可能性がありそうだ。FRBの政策見通しという点では、26日(火)発表の11月開催分のFOMC議事要旨にも注目したい。
こうした中で今週の想定レンジはNY金が2,660.00~2,725.00ドルと先週の反動安的な自律反落を想定している。国内JPX金については、先週末のNY金上昇を映した夜間取引にて付けた高値1万3,560円を上限に下限を1万3,100円とし、1万3,100~1万3,560円を想定している。