トランプ2.0の始まり

世界で最も強い権力を持っている米国大統領選において、トランプ氏が勝利宣言を行いました。これによりトランプ2.0の始まりとなります。トランプ氏の勝利宣言により、マーケットの不確実性が低下し、11月6日(日本時間の夕方)には米国株指数の先物は軒並み上昇しています。米国経済は世界のGDPの1/4の規模を超えており、いろいろな形で今回の結果は世界経済に多大な影響を与えます。 

米国の大統領選挙の結果を受けて、今後の米国株市場に与える影響を考えてみたいと思います。大統領選挙の結果は、直接株式市場には影響を与えません。新しい大統領の経済、財政政策の結果が、企業業績に影響を与え、それが最終的に株価に影響を与えることになります。 

トランプ氏の税制改革の規模感とは

トランプ氏の公約である、税制改革案についてみてみましょう。税制改革の内容はというと、トランプ氏が2017年に成立した「減税と雇用法(TCJA)」の主要な税率引き下げなどを恒久化する方針です。 これには、個人所得税の引き下げ維持や、標準控除の増加が含まれます。加えて、法人税を現在の21%から15%へ引き下げる提案をしています。これらの政策により、短期的には経済成長を促進する可能性がありますが、長期的には財政赤字が増加し、最終的には10年間で約5.8兆ドルの財政赤字を引き起こすと予測されています。 

その赤字分を穴埋めするために、トランプ氏は関税の引き上げを公約に掲げています。特に中国からの輸入品を含む多くの外国製品に対し10~20%の関税を追加することを想定しています。これにより10年間で約3.7兆ドルの関税収入を期待しています。一方、輸入減少などの影響により、実際の純増収は約2.8兆ドル程度になるのではないかと見積もられています。 

トランプ政権復活によりインフレリスクが浮上

トランプ政権が株式市場に与えるリスクについて最初に触れておきましょう。それはアメリカ国内で減税を行うに当たっての、関税引き上げによる最終的な影響です。関税は実質的に「輸入品に対する税金」であり、輸入コストや製造コストが上昇します。最終的にこのコストは消費者に転嫁され、輸入品の価格が上がります。つまり、トランプ氏の政策は、インフレ圧力を高める可能性が高いことです。このところトランプ氏の人気が高まるにつれ、市場金利が上昇していたのは、米国経済が堅調であったことに加え、トランプ氏勝利の確率が高まったことによるものだと思います。

加えて、大幅な関税の引き上げは、日本を含む貿易相手国との関係悪化を招きやすくなるでしょう。特に、中国などから報復関税が課される可能性が高く、結果として米国製品の輸出が減少し、輸出産業に影響が及びます。

また、貿易摩擦がエスカレートすると、世界経済に悪影響を与える恐れもあります。本来ですと、アメリカでは利下げが行われるのですから、米ドル安方向へ向かうと思われていました。しかし、貿易摩擦が起きるということで、米ドル高になる可能性が高くなります。

また、米国企業は多くの場合、グローバルなサプライチェーンを通じて製品を生産しています。関税引き上げにより、企業は輸入コストが増加し、結果として製造コストが上昇します。一部の企業は生産拠点を米国内に戻す選択肢も検討するかもしれませんが、これは長期的かつコストのかかるプロセスです。

また、サプライチェーンの再編成には時間がかかるため、短期的にはコストが企業にとって大きな負担となる可能性があります。これらを踏まえると、関税の引き上げは一部の産業には利益をもたらし得るものの、広範な影響が予想されるため、経済全体に対する慎重な評価が求められる政策です。 この辺りのリスクは今すぐ浮上するものではありませんが、中長期的にじわじわと米国経済を襲うかもしれないリスクとして押さえておくべきポイントです。

トランプ新政権で規制緩和の恩恵を受ける5つの主な業界

S&P500のターゲット、2024年末6,000ポイント達成の確率が高まる理由

今後の米国株の市場の動向について考えてみたいと思います。私は2024年9月24日に、「S&P500が2024年の年末に6,000ポイントに達成する」というレポートを公開しました。トランプ新政権の誕生により年末6,000ポイント達成の確率が高まってきました。その理由の一つは、規制緩和期待です。トランプ氏は大統領就任後、規制緩和を積極的に行っていくと考えられます。ビジネス寄りの政策を持つ共和党のトランプ氏は、2016年に大統領になった際、様々な業界の規制緩和を行ってきました。 それをバイデン氏は規制を強化する方針を取りました。

トランプ氏は、再度金融業界に規制緩和を行う見込み

トランプ氏の規制緩和の恩恵を受ける業界の一つに金融業界があります。米国では2008年のリーマンショック後、金融システムの改革、将来の金融危機を防ぐために「ドッドフランク法」が制定されました。これにより消費者保護のため、金融機関ではコンプライアンスの人員を増やすなど、非ビジネス部門のコストがかさみました。トランプ氏はそんな金融業界の緩和を行なったのですが、その後バイデン氏は規制を厳しくしたのです。ですから、トランプ氏は大統領就任後に再度金融業界の規制緩和を行うでしょう。 

恩恵を受ける企業としては、大手商業銀行のJPモルガン・チェース[JPM]、ゴールドマン・サックス[GS]、シティグループ[C]、地銀のユー・エス・バンコープ[USB]、フィンテック企業のペイパル・ホールディングス[PYPL]、ブロック[SQ]などが考えられます。

エネルギー政策:輸出促進の強化と再生可能エネルギーや送電網の整備も注目

トランプ政権が復活した場合、エネルギー政策も注目を浴び、石油・天然ガス業界も規制緩和の恩恵を受けるでしょう。トランプ氏は、エネルギー業界でも規制緩和を強く推し進め、化石燃料、石油、特に天然ガスの輸出の促進に 焦点を当てると考えられます。それは、エネルギー独立性を強調して、経済的な成長を加速させるという狙いがあるからです。トランプ氏はLNG液化天然ガスを輸出したいと思っていますので、再び大規模な掘削活動が活性化する可能性もあります。 

国内のシェールガス・オイル関連銘柄としてオクシデンタル・ペトロリアム[OXY]、コノコ・フィリップス[COP]、また石油・ガス業界の採掘や油田サービスを行っているシュルンベルジェ[SLB]やハリバートン[HAL]といった企業も注目されるでしょう。 

エネルギー政策は重要な議題ということで、再生可能エネルギーや送電網の整備も注目されると思います。データセンターの電力供給不足が問題となっている今、コンステレーション・エネジー[CEG]、ネクステラ・エネジー[NEE]などが引き続き投資妙味があると思います。また、原子力発電関連ではグローバルXのグローバルX ウラニウムETF[URA](※)があります。

(※)ベンチマーク:ソラクティブ・グローバル・ウラニウム&原子力コンポーネント・トータルリターン・インデックス

通信業界や暗号資産業界に対しても規制緩和の可能性

通信業界も規制が厳しい業界です。規制は主に、「公平な競争の促進」、「消費者保護」、「ネットワークの信頼性維持」、「インフラの発展」を目的としています。トランプ新政権の誕生後、この業界の規制も緩和されるとみられており、AT&T[T]、ベライゾン・コミュニケーションズ[VZ]などが恩恵を受けるとみられています。

証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長は、暗号資産に対して批判的でした。彼の任期期間は2026年なのですが、トランプ政権が誕生すると彼は自ら退任を表明するとみられています。ゲンスラー氏は、暗号資産系企業に対して、いろいろな理由を挙げて訴訟を提起してきましたが、トランプ氏は、暗号資産に対する規制も大きく緩和すると予測されています。共和党のSECの委員長が就任した場合、これまでの訴訟は取り下げられる可能性が高いと考えられており、暗号資産は強気の展開が期待できます。

テクノロジー企業関連の訴訟、和解の方向へ

投資家の皆さんの最大の関心事はGAFAMに代表されるグローバルテクノロジー企業ではないかと思います。 第二次トランプ政権の誕生は、GAFAM企業に取っては有難い展開になると考えられます。 バイデン氏が、2021年に連邦取引委員会(FTC)にリナ・カーン氏を就任させて以来、GAFAMといって巨大テクノロジー企業に規制を強化する取り組みを行ってきました。

トランプ氏は、再度大統領に就任した直後にはカーン氏を解任する、またはカーン氏が自分の意思で辞任するとみられており、これによりGAFAM企業に対する政府の対応は緩和的になるだろうと予測されています。現在テクノロジー企業については訴訟が多数行われていますが、すでに提訴された案件については、共和党政権では和解の方向で進めていくのではないかと言われています。

当面株式市場はトランプ政権の誕生を好感する展開となるでしょう。