昨日はペイオフ全面解禁見直しについて反論を書きましたが、(昨日も書いたように)企業の決済性資金を銀行の倒産から隔離することはいいことです。今日はこの決済性資金の問題をちょっと考えてみたいと思います。例えば或る企業の財務部が、信用リスクといったものにとても神経質で、余剰資金の運用も銀行預金にしないで日本国債を買っていたとします。そしてその国債を資金化する際は、国債をマーケットで売る、即ち或る証券会社に買って貰う訳ですが、この企業は証券会社の信用リスクは取りたくないので、国債の受け渡しと現金の受け取りを同時決済します。しかし、最後に現金が入金される先は、企業が持っている銀行口座です。現金が入金された直後にその銀行が倒産すると、企業はその金額だけ銀行に対する一般債権者になるだけです。即ち、信用リスクに対してとても神経質に対応していても、結果的に取っているリスクは国債、即ち国の信用リスクではなくて、銀行のリスクだったりする訳です。これが決済性資金の問題点です。この部分はリスクを遮断した方がいいのは当然です。今の動きは、この議論をネタにして、ペイオフ自体の延期を正当化しようとしているように見えます。それが問題だと、私は思っています。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
-
ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。