ハイテク主導の株安と、対照的な動きを見せた暗号資産

先週(8月17日週)の米国株式市場は、金利の乱高下に翻弄される一週間となりました。S&P500種指数は前週比1.43%安の7,674.37ポイントと、7月17日以来の下げ幅を記録し、11セクターのうち8セクターが下落する展開でした。特にハイテク株の下げがきつく、S&P500の情報技術セクターは3.21%安、ナスダック100も2.45%安の29,308.86ポイントとなりました。

成長株、とりわけハイテク株は将来の利益を織り込んで買われている面が強いため、金利の動きに敏感に反応しやすいという事情があります。一方で、8月21日(金)の株式市場の終わりには、ビットコインは77,000ドルを超えて、週初から約20%上昇となり、株式と暗号資産の明暗が分かれた一週間でもありました。

超長期債利回りの上昇と財務省の国債買い戻しオペ

週初から軟調だった株式市場ですが、下げ足を速めるきっかけとなったのは、米30年国債利回りがほぼ20年ぶりの高水準まで上昇したことでした。同様の動きは日本、ドイツ、英国、フランスでも見られ、超長期債利回りが軒並み上昇しました。8月という「夏枯れ」の時期で市場参加者が少なく流動性が薄いことが、値動きを増幅させた面もあります。

そうした中、米財務省は8月19日(水)、残存期間10~20年および20~30年の国債を対象とする買い戻しオペの規模を、1回当たり20億ドルから「少なくとも」40億ドルへ倍増すると発表しました。国債の買い戻し自体は新しい政策ではありませんが、長期金利が急上昇する局面で規模拡大が発表されたため、市場では財務省が金利上昇を抑えようとしているとの見方が広がりました。

これは、中央銀行が短期金利を動かす一方、財務省が長期国債の需給に働きかけるという意味となります。ただ、市場参加者の需給によって長期金利が形成されることを重視するウォーシュFRB(米連邦準備制度理事会)議長の考え方とは、微妙な緊張関係を生む可能性があります。財務省による市場介入が常態化すれば、FRBの独立性だけでなく、金融政策と国債管理政策の境界が曖昧になるとの懸念も強まりかねません。

長期金利を高止まりさせる「3つの構造要因」

発表当日には一定の効果が見られ、長期金利はいったん低下しました。しかし、その効果は長続きせず、翌日には利回りの低下が一服しました。ベッセント米財務長官が買い戻し額を40億ドル以上へ拡大する可能性を示しても、金利上昇圧力は収まりませんでした。これは、国債の買い戻しが短期的な需給を改善することはできても、長期金利を押し上げている根本的な要因までは解消できないことを示しています。

現在の長期金利上昇には、主に3つの要因があると考えられます。第1は、40兆ドルに達した米政府債務と、今後も続く財政赤字への懸念です。第2は、イラン情勢の緊迫化による原油供給の混乱と、インフレ再燃への警戒です。第3は、ハイパースケーラーによるAI関連設備投資の急増です。巨額の設備投資は経済成長を押し上げる一方、資金需要を強め、金利を高止まりさせる要因にもなります。

厄介なのは、これら3つの問題がいずれも短期間では解決しにくいことです。財務省の買い戻しによって一時的に金利上昇を抑えることはできても、政府債務、原油供給、AI設備投資という構造的な要因が残る限り、長期金利が大きく低下するとは考えにくいでしょう。当面は高い長期金利が続くことを前提に、株式のバリュエーションや企業の資金調達コストを評価する必要があります。

MOVE指数から探る株式市場の調整シナリオは?

もっとも、バンク・オブ・アメリカが算出する債券市場のボラティリティ指数「MOVE指数」は、足元で70をわずかに上回る水準にとどまっています。コロナ禍やインフレ高進局面、2024年の米大統領選挙、関税摩擦、さらに2026年のイラン情勢を巡る緊張が高まった際には、いずれも100を超えていました。したがって、MOVE指数が明確な上昇基調に転じない限り、債券市場の不安定化が株式市場を本格的に圧迫する可能性は低いとみています。

株式市場の上昇トレンドも、現時点では崩れていません。S&P500は月末にかけて底堅く推移する可能性がある一方、歴史的な季節性を踏まえると、2026年秋には調整局面を迎える可能性があります。

ただし、9~10月、あるいは中間選挙にかけて調整が起きたとしても、下落幅は最大で5~7%程度にとどまると予想しています。ハイテク株がすでに相応の調整を経験していることもあり、今回は相場全体が大きく崩れるというより、過熱感を解消するための比較的穏やかな調整になるとみています。

今週(8月24日週)の注目材料、重要経済指標とエヌビディア決算

今週(8月24日週)は25日(火)に新築住宅販売件数、消費者信頼感指数、26日(水)にはPCE(個人消費支出)価格指数、GDP改定値など重要な経済指標の発表が続きます。長期金利の動向とあわせて、インフレ関連指標が市場心理を左右する場面が続きそうです。

今週最大のマーケットでの注目イベントは、日本時間27日(木)朝のエヌビディア[NVDA]の決算発表です。今回の決算は、エヌビディア一社だけでなく、AI・半導体相場全体の持続性を測る重要な試金石になります。市場予想では、売上高は約922億ドル、調整後EPSは2.09ドルと、引き続き極めて高い成長が見込まれています。

ただし、今回も単に市場予想を上回るだけでは不十分でしょう。焦点は、Blackwellの供給拡大、次世代Rubinへの移行、中国向け売上の見通し、そしてAIデータセンター投資がどこまで持続するかです。投資家の目はこれまで以上に厳しくなっています。エヌビディアの業績そのものは好調でも、株価はすでに高成長を相当程度織り込んでいます。そのため、決算の良し悪し以上に、会社側が示す次四半期の売上高見通しと粗利益率が株価を左右するでしょう。