先週(8月24日週)の米国株式市場は、S&P500指数が0.49%高、ナスダック100指数が0.43%高となりました。
週の後半には、ウォーシュFRB(米連邦準備制度理事会)議長のタカ派的な発言を受けて金利が上昇し、ハイテク株を中心に売りが出たものの、週間では主要指数がプラスを維持しました。相場を取り巻く環境には確かに懸念材料があります。しかし、企業業績、AI投資、そして市場の需給という三つの柱が、米国株をしっかりと支えています。
根強いインフレ圧力が招く金利上昇への警戒
最大の懸念は、やはり金利です。ウォーシュ議長はジャクソンホールでの就任後初の講演で、インフレ率が2%の目標を上回っている以上、FRBが現在最も重視すべきなのは物価であると明言しました。夏場のCPI(消費者物価指数)とPCE(個人消費支出)価格指数が予想を下回ったことは認めながらも、基調的なインフレが十分に改善したとは言えないと強調しました。
さらに、PCEを構成する財・サービスのうち、過去12ヶ月の値上がり率が3%を超える品目の比率は54%に達しています。パンデミック後のピークである約77%からは低下したものの、パンデミック前20年間の32%を依然として大きく上回っています。インフレは沈静化の方向にありますが、FRBが安心できる水準にはまだ達していないということです。
市場はこの発言を素直にタカ派と受け止めました。講演後、米2年国債利回りは約7ベーシスポイント(0.07%)上昇し、9月の利上げ確率は講演前の約30%から50%強へ上昇。金利上昇に弱いテクノロジー株が売られ、ナスダックの売りを誘いました。エヌビディア[NVDA]も4.6%下落し、8月27日に好決算を受けて上昇した半分を失いました(「【米国株】エヌビディア好決算で株価上昇、AI需要はさらに加速、成長の上限は『需要』ではなく『供給』に」記事参照)。
高い金利が株価のバリュエーションを圧迫するという教科書的な構図は変わっていません。9月の雇用統計、消費者物価指数、生産者物価指数の内容次第では、相場の変動率が一時的に高まる可能性があります。
堅調な実体経済に裏打ちされた企業業績、ブロードコム[AVGO]などの決算にも注目
しかし、ウォーシュ議長の発言には、株式市場にとって重要なもう1つの側面があります。
それは米国経済そのものが強いという評価です。同議長は、実質個人消費はショックがあったにもかかわらず健全で、労働市場は安定し、完全雇用と整合的だと述べました。民間国内最終需要は2026年に入って年率3%近いペースで増加しています。さらに、企業の設備投資は急速に拡大しており、2026年の設備投資増加の半分以上はAI関連の構築によるものとみられます。つまり、金利が高いのは経済が弱いからではなく、経済と需要が予想以上に強く、物価上昇圧力が残っているからです。
株価を最終的に決めるのは企業業績です。S&P500採用企業の97%が4-6月期決算を発表した時点で、業績の伸びは前年同期比52%と、コロナ禍からの回復局面だった2021年4-6月期以来の高い伸びとなりました。多少の利上げや長期金利の上昇があっても、それを上回るペースで利益が増え続けるなら、株価は上昇できます。
とりわけAI関連では、エヌビディアの決算がAI需要の持続性に対する懸念を和らげました。AI向けデータセンター投資は単なる期待ではなく、半導体、ネットワーク、サーバー、電力設備へと実際の設備投資として広がっています。
今週(8月31日週)はブロードコム[AVGO]、デル・テクノロジーズ[DELL]、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ[HPE]、シエナ[CIEN]の決算が予定されており、AI投資の裾野の広がりを確認する機会となります。
実体的な成長フェーズに入ったAI設備投資
エヌビディアの株価が好決算の翌日(8月28日)に下落したことだけを見て、AI相場が終わったと考えるのは早計です。決算前までに期待が高まり、利益確定売りが出るのは大型成長株では珍しくありません。
重要なのは一日の株価反応ではなく、顧客企業がAIへの投資計画を縮小しているか、そして、エヌビディアの売り上げが市場予想を上回る成長を続けられるかです。現時点では、大手テクノロジー企業のキャッシュフローは潤沢で、AI投資を支える財務余力も大きいと言えます。ウォーシュ議長自身が、2026年の設備投資増加の半分以上をAI関連が占めると指摘したことは、AIが株式市場だけの物語ではなく、米国経済の成長を動かす実体的な投資になっていることを示しています。
市場の健全性を示すセクター・ローテーション
もう1つ見逃せないのが、相場内部のローテーションです。8月は半導体株が売られる局面があり、ナスダックは上値の重い展開となりました。一方で、これまで売られてきたソフトウエア株や消費関連株などに資金が向かい、S&P500全体は大きく崩れませんでした。8月28日(金)も情報技術セクターが1.3%下落する一方、一般消費財セクターは1.7%上昇しました。
資金が株式市場から逃げているのではなく、市場の中で次の投資先を探して移動しています。特定の大型テクノロジー株だけでなく、より多くの銘柄が上昇に参加することは、相場の基盤が広がっている証拠であり、健全な動きと評価できます。
9月相場、短期的な調整は長期投資の好機
9月は歴史的に株価が弱くなりやすい月です。利上げの可能性、関税や地政学リスクも軽視できません。短期的には5%程度の調整が起きても不思議ではないでしょう。
ただし、大切なことは、季節性が相場の方向を必ず決める法則ではないということです。多くの投資家が9月の下落を警戒し、十分な現金を保有している場合、少しの下落でも押し目買いが入りやすくなります。ETFへの資金流入が続き、VIX指数も落ち着いていることから、需給面で売り手が一方的に優位になったとは言えません。インフレと金利は相場の上値を抑えますが、経済、企業業績、AI設備投資、良好な需給はそれ以上に強いと言えます。
投資家に必要なのは、金利に関係する発言のたびに保有株を売ることではなく、業績の伸びが続く企業を選び、調整局面を長期投資の機会として利用することです。僕は引き続き、短期的な揺れを伴いながらも、米国株は中長期的に上値を目指すと考えています。
