長く資産運用の基本とされてきたのが、SAA、すなわち戦略的資産配分です。株式を何%、債券を何%、不動産を何%とあらかじめ決め、市場変動で比率がずれれば元に戻す。個人投資家にとっても、「株式60%、債券40%」といった考え方はなじみ深いものです。

しかし、大手機関投資家の世界では、この発想が変わりつつあります。米国最大規模の公的年金であるCalPERSは、従来のSAAに代えて、2026年7月1日からトータル・ポートフォリオ・アプローチ、TPAを導入しました。これは、個々の投資を「株式」「債券」「不動産」「プライベート資産」といった資産クラスごとに評価するのではなく、ポートフォリオ全体のリスク、リターン、流動性、分散効果にどう貢献するかで判断する考え方です。

この変化の背景には、資産クラスの名前だけでは本当のリスクを捉えにくくなっている現実があります。たとえば、株式、REIT、プライベートエクイティ、ハイイールド債は、分類上は別の資産です。しかし、景気拡大局面では一緒に上昇し、景気後退や信用不安が高まる局面では同時に下落することがあります。つまり、違う名前の商品を持っていても、実際には同じリスクに偏っている場合があります。

逆に、同じ債券という資産クラスの中でも、短期国債、長期国債、社債、物価連動債では値動きの理由が異なります。金利上昇に弱いものもあれば、信用不安に弱いもの、インフレに反応しやすいものもあります。重要なのは、「何という資産クラスか」ではなく、「どのような局面で、何に反応して動くのか」を見ることです。

これは個人投資家にとっても重要な含意を持ちます。米国株、日本株、世界株投信を複数持っていれば分散しているように見えますが、実態としては株式リスクに大きく偏っているかもしれません。反対に、国債、例えば円建ての個人向け国債は期待リターンこそ低くても、株価急落時の流動性や心理的安定という役割を果たします。

異なる資産クラスであっても、市場環境によっては同じ方向に動きやすくなったり、逆に値動きが分かれたりすることがあります。こうした相関関係の変化や、その背景にある景気、金利、インフレなどの要因を理解することは、当初想定していた分散効果が保たれているかを確認し、必要に応じて資産配分を見直す判断材料になります。

もちろん、個人投資家がCalPERSのように高度なリスク分析を行う必要はありません。大切なのは、固定比率を守ること自体を目的にするのではなく、それぞれの資産をなぜ保有し、ポートフォリオ全体の中でどのような役割を期待しているのかを考えることです。資産配分はあくまで出発点です。TPAの考え方は、個人投資家にとっても、運用を「何を何%持つか」という固定比率だけで捉えず、全体のリスク、流動性、分散効果のバランスから見直すうえで、その考え方は一つの参考になるでしょう。