CAPEの再検証で相場天井の見方を修正
6月19日の「ストラテジーレポート『今回の大相場は2027年夏に天井を打つ公算』」で、「今回の大相場は2027年夏に天井を打つ公算が大きい」という見方を示したが、天井の時期はもっと後ずれしそうな感じだ。早くも前言撤回、意見修正させてください。この変わり身の速さが僕の持ち味だ。「意見を変えないのは死者と馬鹿だけである」(ジェームズ・ラッセル・ローウェル)。
見方を修正する理由は2つある。第一に、CAPE(シラーPER)のデータ修正だ。前回はITバブル時のパターン - CAPEが40倍を超えた月から約1年でCAPEがピークを打ち、その3ヶ月後に株価が天井をつけたことを現在の相場に当てはめた。CAPEが40倍台に乗せた5月を起点とすると、2027年7月に天井をつける計算になると。
ところが、僕がダウンロードしたシラー教授のオリジナルデータを精査すると、直近のEPS(一株当たり利益)に未確定の補間値が含まれており、欠損を補正した最新値は39倍台にとどまる。CAPEはまだ40倍台に達していなかったのである。加えて、足元の米国企業のEPSモメンタムは強い。分母が伸びる局面では、株価が上昇してもCAPEの上昇は緩やかになる。ITバブル期のピークである44倍に達するには、なお相応の時間を要するだろう。
さらに付け加えたいテクニカルな問題がある。それはCAPEの分母が「過去10年の実質EPSの移動平均」だという点である。移動平均であるから、毎月、10年前の古い値がひとつ抜け、直近の新しい値がひとつ入る。この10年の利益成長が急激だったため、抜けていく古い値は120程度のEPSであり、入ってくるのは300近いEPSだ。入替の倍率は2.4倍。ITバブルのピーク時ですら1.6倍だったから、歪みの度合いは当時より格段に大きい。
この点はあまり指摘されていないが、この構造が意味するところは結構、重要である。仮に今後、企業収益が伸びを止め、現在の水準で横ばいになったとしても、分母の10年平均は機械的に年率8%以上のペースで上昇し続ける。計算上、足元のEPSが半分近くまで減益にならない限り、分母の上昇は止まらないのである。つまり株価が年8%上がってもCAPEは1ミリも動かない(企業収益が伸びを止め、現在の水準で横ばいになったとしても、である)。ここからCAPEがITバブル期のピークである44倍に達するには、1年で株価が2割超上昇する必要がある計算になる。
もうひとつ言えば、成長率が高いほど10年平均は足元の収益から下方に乖離するため、現在の39倍という水準自体、当時の44倍と単純比較すれば割高に「見えすぎて」いる。実際、直近利益に対する実質PER(株価収益率)で測れば、現在は約25倍と、2000年ピーク時の約30倍をなお下回る。無論、この分母の急伸自体がAI投資による循環的な利益膨張の反映だとすれば、話は別である。シラー教授が10年平均という平滑化を施した意図もそこにある。だが少なくとも、CAPEという時計の針が44倍を指すまでの距離は、額面の数字が示すよりずっと長い、ということは言えるだろう。
FRB利上げ後ずれがAI・半導体株の追い風に
修正理由の第二点目に移ろう。FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ時期である。前回は早ければ9月、遅くとも年内に利上げが開始され、ITバブル時と同様、そこから9ヶ月程度で株価がピークアウトするという仮説を置いた。この前提も崩れつつある。6月の米雇用統計は非農業部門雇用者数が5.7万人増と市場予想を大きく下回り、4・5月分も計7.4万人下方修正された。一方で賃金上昇率は前年比3.5%と過熱感はなく、失業率は4.2%と低位安定。強すぎず、弱すぎず、である。市場が織り込む9月利上げの確率も、この統計を受けて低下した。ウォーシュFRB議長も先週のECB(欧州中央銀行)フォーラムで先行きの政策の方向性を一切示唆せず、判断を保留した。議長がAIによる生産性向上のディスインフレ効果に繰り返しオープンな姿勢を示している点も見逃せない。年内利上げの可能性は後退したと見る。利上げがなければ、「利上げ開始から9ヶ月」というもう一つの根拠もワークしない。
かつて盛んに喧伝された言葉を借りれば、いまの米国経済はゴルディロックス(適温経済)である。熱すぎればFRBが引き締めに動き、冷たすぎれば企業業績が崩れる。そのどちらでもない適温こそ、実は株高が最も長続きする最高の条件なのだ。
「熱狂」はなお続く―ピークは想定より先へ
足元では日経平均の上値追いが一服し、出遅れていたTOPIXが追いつく形で拡大したNT倍率の修正が起きつつある。それは相場の過熱を冷ましながら上昇を持続させる健全な調整である。米国では利上げ観測が一服し、日本では物色の裾野が広がる。上昇相場の寿命を延ばす条件が、日米同時に整いつつある。
無論、これからも、ハイパースケーラーのデータセンター投資は過剰なのではないか、メモリー価格は値崩れするのではないか等々、様々な疑念が蒸し返されて、そのたびにAI・半導体株は調整を迫られるだろう。しかし、それは相場がピークへと向かう過程で常に起こることだ。
6月19日のレポートでは「CAPEの推移とFEDの利上げ - この2つのパターンから考えて、2027年夏に今回の大相場が天井を打つ公算が高いと考える。ただ、逆に言えば、この『熱狂』があと1年以上は続く可能性もまた高いということだ。」と述べた。今回のレポートでこの見方を修正したい。「熱狂」が続く時期は、あと1年どころではないだろう。
ただし、この文章のあとに書いた一文、すなわち、「投資家は恐怖を感じながら、この先も『熱狂』の中を相場とともに駆け抜けていかなければならない」には修正は不要である。
