データインフラの全領域をカバーするファブレス企業
マーベル・テクノロジー[MRVL]は、データセンターの成長に不可欠なデータインフラストラクチャに特化したファブレス(=工場を持たない)半導体企業です。製品は、高速スイッチ、光インターコネクト、デジタル信号プロセッサ、カスタムASIC、データ処理ユニット、ストレージコントローラなど多岐にわたり、ネットワーク、高速相互接続、カスタムAIチップ、ストレージという、データインフラストラクチャのすべての領域をカバーしています。
【1】ネットワーク
同社は、データ通信の基盤となるネットワーク製品を幅広く展開しています。特に、ブロードコム[AVGO]と並ぶ超高速スイッチングASIC(特定用途向け集積回路)市場に注力しており、Teralynx(テラリンクス)シリーズは、AIクラスタのバックボーンとなる51.2Tbps(テラビット/秒)を超える超高帯域幅のスイッチングを実現しています。
【2】コネクティビティ(相互接続)
高速なデータ伝送を可能にする相互接続技術は同社最大の強みです。DSP(デジタル信号処理)チップは、400G、800G、さらに次世代の1.6Tといった超高速光通信における信号補正と品質維持に不可欠となっており、高いシェアを獲得しています。2021年にInphi(インファイ)を買収して以来、DSP売上高は約5倍に成長したと報告されています。チップとチップ間の高速・大容量通信を実現するSerDes(シリアライザ/デシリアライザ)IPも提供しています。
【3】カスタムAIチップ
ハイパースケーラー向けに、カスタムAIシリコンを設計・製造しています。成長著しいAI分野において、大手クラウドプロバイダーの戦略的なパートナーとなっています。
【4】ストレージ(データの保管)
高性能なエンタープライズ向けSSDコントローラを提供し、AIやビッグデータが要求する大量データの高速アクセスを支えています。
このように、クラウドデータセンターで、CPU間の通信を高速化したり、大容量データの処理を最適化したりするために必要となるデータインフラを一通りラインナップしています。同業の多くは特化型で、例えば、クレド・テクノロジー・グループ・ホールディング[CRDO]は接続ケーブル、アステラ・ラボ[ALAB]はPCIeとメモリバッファに特化しています。顧客のシステム構成に合わせて最適なソリューションを提供できる点が競争力となっています。
データセンター向けが成長
創業は1995年。ストレージ向けICのメーカーとして始まり、ネットワークやセキュリティ、プロセッサ分野へと事業を広げ、データインフラ企業としての基盤を築いてきました。そして近年は、クラウドとAI需要の拡大を背景にデータセンターの構造が大きく変わってきたことが、新たな成長をもたらしています。特にクラウド市場が急拡大したこの十数年間は、高速SerDesやイーサネットスイッチを中心としたネットワーク技術を磨き、クラウド向けに最適化された半導体を提供することで、主要クラウドとの強い関係を築いてきました。AWSを提供するアマゾン・ドットコム[AMZN]とOneDriveを提供するマイクロソフト[MSFT]は同社の主要顧客です。
そしてAI市場が急拡大する現在は、高速通信技術やストレージ処理技術が強みとなり、AIインフラ企業としての存在感を高めています。同社の売上は7割がデータセンター向けとなっています。データセンター向けの売上高は足元2026年1月期第3四半期にも38%の増加を記録するなど成長をけん引しています。同社では、データセンター向けのTAM(総獲得可能市場)を940億ドルと推定、年間35%の成長を見込んでいます。
その中心となるのが、カスタムXPU(=カスタムAIチップ)です。カスタムXPUは、GPU、TPU、NPU、AIアクセラレータ、ASICベースAIチップなど、AI計算を担うプロセッサです。同社ではカスタムXPUのTAMを554億ドルと推定。年率53%という驚異的な勢いでの成長を予想しています。同社は現在18件のカスタムXPU案件(ソケット)を持っており、2028年までに20%のシェア獲得を目指すとしています。さらに、50件以上の追加機会があり、それらを合わせると750億ドル規模にまで広がるとされています。
AI時代に入り、クラウド事業者が自社専用のAIチップ(カスタムXPU)を求める中、同社の中心事業はネットワークからXPUに移っていくことになります。
セレスティアルAIの買収:フォトニックファブリック技術を獲得
一方、高速計算を支えるネットワーク技術も進化しており、AI時代への突入とともに新たな市場が始まっています。AIデータセンターでは、膨大なデータを高速にやり取りする必要があり、接続技術の性能がクラスタ全体のスピードを決めるため、ネットワーク技術で競争力を高めることは重要です。同社はこれまで電気信号ベースの通信技術でデータセンターを支えてきましたが、高速接続の競争力を大きく高めるPhotonic Fabric(フォトニックファブリック)技術を獲得しました。
2025年12月2日、同社はCelestial AI(セレスティアルAI)を32億5000万ドルで買収することを発表しました(2026年第1四半期に完了予定)。セレスティアルAIは、フォトニックファブリックと呼ばれる光インターコネクトハードウェアの開発に注力する企業です。セレスティアルAIのフォトニックファブリックは、電気信号の代わりに光インターコネクトを使用することで、データ接続速度を大幅に向上させます。GPU同士の膨大な通信量を光で処理するために設計されており、従来の銅線ベースの相互接続では対応が難しくなってきた帯域幅、遅延、距離、電力効率、熱安定性の問題を解決します。XPU同士が猛烈な勢いでやり取りするAI時代において必要となる技術です。
光インターコネクト市場は2025年時点で約200億ドル規模に達し、2030年にかけて350億ドル~400億ドル規模へ成長すると予想されています。フォトニックファブリックを含む光によるスケールアップ接続は、まだ市場としては小さいものの成長率が非常に高く、年率30%を超える伸びが見込まれています。AIモデルの大型化を背景に、光スケールアップ接続の需要は構造的に増加していきます。つまり、同社はこれから長期的な成長が期待できる領域に早い段階で入ったことになります。
競合との差別化:電気と光を統合した接続プラットフォームを提供できる
ネットワーク半導体分野の最大手ブロードコムも、XPU-CPOと呼ばれる光アタッチメントの実演を行い、光を使ったスケールアップ接続に踏み込んでいます。ただし現時点では光I/O(電気信号を光に変換する部分)の強化にとどまり、量産段階には至っていません。技術デモを成功させていますが、AIクラスタ全体を支える包括的な光スケールアップアーキテクチャを自社で提供できるわけではありません。
一方、セレスティアルAIのフォトニックファブリックは、光I/Oだけでなく、光スイッチ、光NIC、光チップレット、さらにはメモリセマンティクスを扱う制御層まで含めた統合的なプラットフォームとして機能します。電気と光を統合した接続プラットフォームをクラスタ全体で提供できる点は明確な差別化要素となります。
また、ブロードコムは、スイッチやSerDesが圧倒的に強く、その分野での高収益を維持したい企業なので、まだ市場規模が小さい光スケールアップ市場で全面展開を選ぶ可能性は現時点では低いと思います。
中長期的な力強い成長ストーリーは健在
業績は好調。第3四半期には過去最高の売上を記録し、売上・利益ともに市場予想を上回りました。キャッシュフローも良好です。また財務状況も改善しています。車載イーサネット事業の売却による現金流入が大きく、第3四半期末時点の現金および現金同等物は27億1000万ドルと過去12ヶ月でほぼ4倍に増加しました。有利子負債は44億7000万ドルでした。利益成長により負債対EBITDA比率は1.47倍、純負債対EBITDA比率は0.58倍と健全な水準となっています。
株主還元も行っており、この第3四半期には、3億ドルの自社株買いを実施し、配当で5100万ドルを株主還元しました。9ヶ月間では自社株買いで18億4000万ドル、配当で1億5430万ドルを支払っています。配当は配当利回りが0.2%台と低く増配もされていませんが、自社株買いは積極的に行われています。自社株買い枠は、2024年の追加承認で+30億ドル、2025年9月の追加承認で+50億ドルと拡大され、今期18億ドルを買ったあとでも、2025年11月1日時点で、約57億ドルの自社株買い枠が残っています。
注目すべきは、今後成長の勢いが増す見通しであることです。同社は2028年1月期までの成長見通しも出しており、そこで、「2026年1月期は前年比45%、2027年1月期は25%、2028年1月期は前年比40%の成長見通し」が示されています。今期の業績にサプライズはなかったものの、この見通しを受け、株価は急騰、10%以上の上昇で反応しました。AIとクラウドデータセンターの構築は、始まったばかりの長期的なトレンドです。クラウド事業者向けに急拡大するカスタムXPU事業、今後GPU間通信のボトルネックを解消する次世代接続として採用拡大が期待される光接続が同社の成長を勢いづける可能性があります。
株価は、決算説明会で中期的な成長率を発表した後急騰し、その後その窓を埋めるように下落、というボラティリティの高い展開となっています。急落は、アマゾン・ドットコムやマイクロソフト向けのカスタムAIチップ事業契約を失う可能性を踏まえたアナリストによる格下げが要因と見られます。短期的には不透明感が残りますが、この懸念は「確定した受注失注」ではなく、「検討段階の報道」に基づくものであり、マーベル自身の技術競争力が突然低下したわけではありません。むしろフォトニックファブリックを含む光インターコネクトや次世代カスタムXPUに向けた案件パイプラインは拡大しており、会社計画で示された高い売上成長率が実現すれば、中期的には業績とともに株価の回復が期待できます。AIデータセンター投資が継続する限り、同社の中核事業には構造的な追い風が存在します。
