会社概要:3つのセグメントで事業を展開し、航空宇宙・防衛業界をリード
RTX[RTX]は、米国デラウェア州に設立された航空宇宙・防衛関連の持株会社。業界をリードする3つのセグメント、「コリンズ・エアロスペース(Collins Aerospace)」「プラット・アンド・ホイットニー(Pratt & Whitney)」「レイセオン(Raytheon)」を擁し、商用航空機向けのエンジンや機体システム、防衛・宇宙向けのレーダーやミサイルなどを幅広く提供しています。
同社は、ユナイテッド・テクノロジーズ(UTC)を源流とし、2020年に昇降機部門と空調機器部門をスピンオフ後、防衛大手のレイセオンと合併して誕生しました。統合によりUTC側の航空エンジン事業(プラット・アンド・ホイットニー)と航空機装備事業(コリンズ・エアロスペース)、レイセオン側の防衛・宇宙電子システム事業が統合され、「商業航空」と「防衛・宇宙」を両輪とする巨大航空宇宙企業グループとなりました。
バランスの取れた安定性高い事業構成
展開する事業は、「コリンズ・エアロスペース」「プラット・アンド・ホイットニー」「レイセオン」の3つで構成されています。
【1】コリンズ・エアロスペース(Collins Aerospace)
航空機への初期搭載(OE:オリジナル・エクイップメント)と、その後のアフターサービスが収益源です。電源から着陸装置、通信・航法システム、アビオニクス、座席など多岐にわたる装備品を提供し、その後数十年にわたってスペアパーツ供給やオーバーホール、技術サポート、デジタルサービスで収益を積み上げる構造です。
2024年度における事業売上は製品売上約203億ドル、サービス売上約57億ドルと、サービスの比率も高く、景気変動に比較的強い構造と言えます。航空需要の正常化と、グローバルな旅客数の回復・機体稼働率の上昇が強く後押ししており、利益率も改善しています。
最近では、日本航空(JAL)(9201)との10年契約(ボーイング787向けMRO:メンテナンス、修理、オーバーホール)を獲得し、長期のメンテナンス収益が積みあがりました。
【2】プラット・アンド・ホイットニー(Pratt & Whitney)
商業用・軍用・ビジネスジェット・ヘリコプター向けの航空エンジンを供給する世界的メーカーで、省燃費で静粛性に優れたギアード・ターボファン(GTF)エンジンファミリーや、F-35戦闘機向けF135エンジンなどを手掛けます。エンジンの販売に加え、その後のMRO契約による収益モデルとなっています。
【3】レイセオン(Raytheon)
防衛省や各国政府との長期契約に基づき、レーダーやミサイル、防空システム、宇宙センサー、指揮統制システムなどを提供しています。1件ごとの契約規模が大きく、開発・試験を経てやっと量産・維持整備に移行するため、プロジェクト全体で長期的な収益が見込める収益モデルとなっています。
パトリオットやSPY-6レーダー、AMRAAM(アムラーム)など、プラットフォームとして長期に運用される装備では、アップグレードやサービス収入も重要な柱となっています。
「商業航空+防衛+アフターサービス」による安定性高い収益基盤
これら3つの事業の売上構成比は順に、約35%、35%、33%とバランスしています(消去その他約-3%)。また市場別でも商業航空と防衛でバランス良く構成され、さらにアフターサービスによって、景気変動に左右されにくい構造となっています。
商業航空は旅客需要の回復や新型機の増産を背景に装備品・エンジンの需要が堅調です。一方、防衛分野では各国の防衛費増額を背景にミサイルやレーダー、F-35向けエンジンなどの長期契約が増加しています。加えて、収益安定性を強固にしているのがアフターサービスです。航空エンジンや機体システムは、一度納入されると数十年にわたって整備・部品交換が必要になるため、高利益率の安定収益が立ちます。
GEエアロスペース(ゼネラルエレクトリック)[GE]やロールス・ロイスといった同業では、防衛分野は一割程度で、売上の大部分が、商業航空エンジンの販売とそのアフターサービスであるのに対し、同社は「商業航空(エンジン+装備品)+防衛(ミサイル・レーダー)+それらのアフターサービス」と、収益源が多様化しています。防衛が支える構造によって、民間航空が落ち込んだ2020~2021年でも、同社では防衛部門が下支えし、業績は落ち込みませんでした。
最近の事業環境は、防衛分野、商業分野いずれも追い風が吹いており、受注残(バックログ)は過去最高の2510億ドルに達しました。内訳は商業航空1480億ドル、防衛1030億ドルと、商業航空の長期契約も堅調ではあるものの、ここ数四半期は特に防衛分野が拡大しています。
注目:米国防総省が進めるミサイル生産倍増計画:政策が支える受注拡大
防衛分野では、軍需を担うレイセオンの受注は第3四半期だけで60億ドルを超え、プログラム単位で数十億ドル規模の契約が相次いでいます。防衛受注拡大の背景には、米国防総省がミサイル・弾薬の生産能力を大幅に引き上げようとしている政策環境があります。国防総省は中国やロシアとの緊張を踏まえ、パトリオット迎撃ミサイルや、SM-6艦対空ミサイル、長距離対艦ミサイルなどについて、生産能力の倍増やそれ以上の拡大を検討していることが複数の報道で明らかになっています。国防総省内では「軍需品加速協議会」が設置され、生産ラインの増強、サプライチェーンの拡大、納期短縮に向けた取り組みが本格化しています。
実際、最近の大型受注を見ても軍需が牽引しています。レイセオンではミサイル・防空システムで複数の大型契約を受注しており、AMRAAM(アムラーム)で21億ドル、パトリオット用のGEM-T(アップグレード型ミサイル)で25億ドル、次世代パトリオットと呼ばれるLTAMDSで15億ドル、携行式防空ミサイルStinger(スティンガー)で5億ドルと、複数の大型契約を獲得しています。
顧客は米空軍・海軍・陸軍に加え、NATO加盟国や中欧・アジアの同盟国まで広がっています。さらに9月末には対ドローン迎撃システム「Coyote(コヨーテ)」に関して、米陸軍から50億ドルの大型契約を新規獲得しました。Coyoteは、低コスト・使い捨て型の無人機迎撃システムで、Ku帯レーダーなどと統合した「C-UAS(対無人機防衛)」分野で需要が急増しています。同契約は2033年まで続く長期枠契約となっており、中期的な売上・利益を押し上げます。これら受注獲得により、レイセオンの受注残は720億ドルに達しており、book-to-bill(受注/売上比)は2.27倍と大きく受注超過となっています。なお、12ヶ月ベースでも1.43倍と、安定して受注超過が続いています。
また、プラット・アンド・ホイットニーでも米軍および同盟国と、F-35戦闘機向けF135エンジンのLot 18のエンジンとスペア品を供給する契約(28億ドル)を獲得しています。軍需は規模が大きく、1件の契約で数十億ドル規模となることから業績へのインパクトが大きく、中期的な業績拡大を後押しします。
レイセオンでは、急拡大する弾薬・ミサイル需要に応えるため、今年だけで約3億ドル規模のキャパシティ増強投資を行いました。これにより生産能力は50%増加する見込みです。プラット・アンド・ホイットニーでも、GTFエンジン整備の処理能力を高めるため、整備拠点やサプライチェーン強化に投資を継続しています。
商業航空はアフターサービス契約も順調に増加
一方、商業航空分野では、コロナ後の旅客需要の回復に加えて、エアライン各社が燃費効率の高い新型機への更新を急いでいることが追い風となっています。商業航空事業は、コリンズ・エアロスペースとプラット・アンド・ホイットニーの2部門が担いますが、いずれも、新造機向け(OE)装備品・エンジン、アフターマーケット(整備・スペア)の双方で良好な受注動向が確認されています。新造機向けでは、エアバスA320neoファミリーやボーイング787など、世界的に生産レートが引き上げられている機種が多く、これに伴いコリンズの機体システムや客室内装、電源・空調関連装置の受注が着実に積み上がっています。
また、プラット・アンド・ホイットニーでは、ギアード・ターボファン(GTF)エンジンの納入契約が引き続き堅調です。燃費性能・静粛性に優れるGTFはA320neoの主要エンジンとして国際的に採用が拡大しています。粉末金属の点検問題による短期的な影響はあるものの、更新機材向けの需要は依然として強いとのこと。
前述のとおり、最近では第3四半期に、日本航空(JAL)(9201)と10年にわたるMRO(メンテナンス、修理、オーバーホール)契約を獲得しました。ボーイング787型機50機以上を対象に、空調・電源システムやフリートヘルスモニタリングなどのサポートを提供するもので、安定したサービス収入が見込まれます。
総合評価:最高受注残に裏付けられた明るい見通し、財務改善、一貫した株主還元を評価
業績は好調。商業航空の回復と防衛分野の大型受注が同時に寄与し、売上・利益ともに2桁成長を達成。アフターサービスも拡大しており、安定性も高められています。将来収益源となる受注残は過去最高に積みあがっており、中期的な成長確度も非常に高い状態です。なお、政府閉鎖の影響については、回収面などに遅れが出る可能性も考えられるところですが、需要や予算自体が減るわけではないので、タイミングの問題として考えていいと思います。
財務状況も改善しており、強いキャッシュフローを背景に債務削減が進みました。なお、S&Pからは投資適格級のBBB+格付けを与えられています。一方で株主還元も行っており、この9ヶ月間には、26億6000万ドルを配当で、5000万ドルを自社株買いで還元しました。配当利回りは1.5%程度と高くはありませんが、増配を中心とした株主還元姿勢は一貫しており、強いキャッシュフローと財務基盤を背景に今後も持続的な還元が期待できます。
防衛分野では政策の追い風、商業航空分野では更新需要の追い風と、事業環境は良好で受注残は過去最高に積みあがっており、成長の確度が高まっています。またアフターサービスも順調に拡大しており、安定したキャッシュフローの創出が続くことが期待できます。足元のバリュエーションは高いですが、長期的な魅力は十分に残されていると思います。
