11月の振り返り=「高市円安」、一時は年初来円安値の158円に迫る

11月下旬はじりじり円高に戻す=「高市円安」ポジションの手仕舞いが影響か

2025年11月の米ドル/円は、10月の高市政権誕生を前後して広がった米ドル高・円安がさらに続き、一時は年初来高値の158円に迫る動きとなりました。ただ、日本の通貨当局による円安阻止介入への警戒や、12月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げ観測などをきっかけに円安が一服すると、下旬は小幅ながら米ドル安・円高に戻す展開となりました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2025年9月~)
出所:マネックストレーダーFX

2025年11月の米ドル/円は、月足チャートで見ると陽線(米ドル高・円安)となりましたが、前年までは陰線(米ドル安・円高)が続いており、その主因は年末にかけての円売りポジションの手仕舞いと考えられました(図表2参照)。今回の11月は陽線となりましたが、月末にかけてジリジリと米ドル安・円高に戻す展開となったのは、10月の高市政権誕生を前後して急拡大した、いわゆる「高市円安」に伴う円売りポジションの手仕舞いの影響がやはり大きかったのではないでしょうか。

【図表2】米ドル/円の月足チャート(2021年~)
出所:マネックストレーダーFX

介入や米利下げ観測など円高リスクが浮上=円売りポジションの利益確定へ

10月4日の自民党総裁選挙で高市新総裁誕生となると、米ドル/円は一気に150円を大きく超える動きとなりました。ただ、この「高市円安」は、日米金利差(米ドル優位・円劣位)からは大きくかい離したものでした(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円と日米2年債利回り差(2025年9月~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

そうした中で、高市総理の経済ブレーンの一人から、「円安を阻止するために介入を強化する必要がある」といった発言が上がりました。日本の通貨当局は2022~2024年に断続的に米ドル売り・円買い介入を行いましたが、介入が行われた日はほぼすべて5円程度と大きく円高へ戻すこととなりました。これは円売りポジションからすると大きな損失を被るリスクでしょう。

また、FOMC関係者から相次ぎ12月の利下げを支持する発言が出たことで日米金利差がさらに縮小する可能性が広がったことも、同じように円売りポジションにとってはリスクと感じられたのではないでしょうか。

ヘッジファンドの取引を反映するCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋のポジションを見ると、年末にかけてポジションを手仕舞う傾向が確認できます(図表4参照)。それはここ数年の円安トレンドの中では、円売りポジションの手仕舞いに伴う円買い戻しにより円高を後押しすることとなりました。

【図表4】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

2025年の場合、10月中旬までの時点では、この投機筋の円ポジションは買い越しとなっていましたが、その後一段と円安が広がったことなどを考えると円買いポジションは解消され、むしろ円売りに転換した可能性も高いでしょう。そうした円売りポジションについて、円買い介入や米金利低下といった円高リスクの浮上を受けて、年末までに少しでも円安水準にある中で年内の利益を確定する動きが出始めたということではないでしょうか。

2025年12月の注目点=日本版「トラス・ショック」懸念や世界的株高反転リスク

日米金融政策発表は米ドル安・円高後押しする可能性

2025年12月は、米国の金融政策発表が10日、そして日本の金融政策発表が19日に予定されています。このうち米国については、政府機能の一部停止、「シャットダウン」の長期化により遅れていた経済指標の発表が徐々に再開される中、3回連続のFOMC利下げの可能性が高いとの見方が有力になってきたようです。

また日本についても、いわゆる「アベノミクス」継承を自認し金融緩和を支持する高市総理の誕生で浮上した利上げ先送りとの見方が、ここに来て徐々に後退してきた観があります。このような日米金融政策は、基本的にはさらなる円売りポジションの手仕舞いで米ドル安・円高を後押しする可能性があるのではないでしょうか。

高市政権は「責任ある積極財政」を来年度予算案までに示せるか

円安を再燃させる可能性のある要因のひとつは、日本の財政リスクへの懸念でしょう。2025年10月から拡大した「高市円安」は、日米金利差では全く説明できないものであり、ある程度説明が可能と見られたのは日本の長期金利上昇です(図表5参照)。

これは、日本の財政リスクへの懸念に伴う資本流出が円安と長期金利上昇をもたらしていることを示す可能性として受け止められていますが、このうち長期金利の上昇はまだくすぶり続けています。

【図表5】米ドル/円と日本の長期金利(2025年9月~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

高市政権は2025年11月に「責任ある積極財政」として、「コロナ・ショック」以降最大規模の経済対策を発表しましたが、「責任ある」の部分に対して納得しない金融市場は、2022年に英国で起こった通貨、株、債券のトリプル安、いわゆる「トラス・ショック」の日本版シナリオを想定した動きをなお続けているとの見方もあります。

このため高市政権としては、12月下旬の来年度予算案の閣議決定までに、「責任ある積極財政」を明確にすることで、日本版「トラス・ショック」を回避できるかどうかが、円安再燃回避の観点で重要になる可能性があるでしょう。

世界的株高はまだ続くのかそれとも=関税の最高裁判決も要注意

円安が日本からの資本流出による影響が大きいなら、海外からそれを上回る資本流出が起こることで、例えば米ドル安の結果として円高の流れに変わるといった視点もあるでしょう。

米国が主導した世界的な株高は、2025年11月に入り一時株安へ転換した可能性が浮上しました。ただ2025年12月FOMC利下げの可能性や、トランプ米大統領が「ハト派」の次期FRB(米連邦準備制度理事会)議長を指名する可能性などへの期待をおもな手掛かりに、その後は再び反発の兆しも見せています(図表6参照)。

【図表6】日経平均とナスダック総合指数(2025年1月~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

NYダウに対するナスダック総合指数の相対株価は、すでに2000年のITバブル以上の割高になるなど、世界的な株高が「バブル」の可能性を示す指標もあります(図表7参照)。そうした中でも米利下げ期待などを手掛かりとして、株高がまだ続くかもしれません。トランプ米大統領の関税政策に対する最高裁判決が「違憲」となることなどがきっかけとなり、ついに「バブル破裂」に向かうようなら、それを受けた米ドル急落で円安から円高へ転換する可能性はあるでしょう。

【図表7】NYダウに対するナスダック総合指数の相対株価(1990年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

例年以上に波乱含みの12月=予想レンジは150~160円

以上のように見ると、2025年12月は例年以上に波乱含みの可能性があるのではないでしょうか。日本版「トラス・ショック」は回避できるか、世界的株高の「バブル」はまだ続くのか、それともついに「バブル破裂」が始まるのか。そうした視点から、12月の米ドル/円は150~160円で予想します。

今週(12月1日週)の米ドル/円の予想レンジは154~158円

12月第1週は、5日の11月米雇用統計発表が16日に先送りされたものの、ISM(米供給管理協会)関連など11月の経済指標発表が始まります。また、「シャットダウン」で遅れていた経済指標の発表も再開されることから、足下10~12月期の米景気を見極めていくことになるでしょう。

トランプ米大統領の関税政策に対する最高裁判決など突発的な要因がなければ、前週までの円売りポジション手仕舞いが米ドル/円の上値を抑える展開が続きそうなので、12月第1週の米ドル/円は154~158円で予想します。