地政学リスクの行方

・現地時間の8月18日、ウクライナのゼレンスキー大統領と欧州首脳がホワイトハウスに集まり、ウクライナ停戦のための会談が行われた。この会談はウクライナの将来だけでなく、ヨーロッパ全体の安定に影響を及ぼす重要なものである。しかし、米国株式市場への直接的な影響としては、中国やインフレ関連のニュースと比べると限定的である。ただし、地政学的リスクが一つ減るという意味では市場にとってプラスである。

8月11日週の米国株市場動向:小型株指数が大型株の上昇率を上回る

・8月14日、S&P500は2025年に入ってから17回目の史上最高値を更新。翌8月15日にはNYダウも取引時間中に最高値を更新した。この上昇の背景には、インフレの減速を示すCPI(消費者物価指数)の発表があり、9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げ期待が高まったことがある。また、小型株を代表するラッセル2000が先週(8月11日週)3%上昇、大型株の上昇率を上回った。さらにユナイテッドヘルス・グループ[UNH]の株価急騰により、NYダウが初めて45,000ドル台に到達。過去20年間を見てももっとも割安なレベルにあるとして、バフェット氏が約23兆円のユナイテッドヘルス・グループ株を新規に取得したと伝えられている。

・先週(8月11日週)の株式市場は、表面的には大きな動きはなかったものの、水面下では資金のローテーションが起きていた。これまで上昇してきた銘柄から出遅れていた銘柄へ資金が流れる動きがあった。セクター別にみると、S&P500が最高値を更新する中で、テクノロジーや通信サービスなど、4つのセクターだけが上昇。エネルギーや生活必需品、不動産、ヘルスケアなどは横ばいから下落傾向にあった。これまでの「勝ち組」セクターがひと休みする一方で、これまで売られていたセクターや銘柄が買われていた。

今週(8月18日週)の注目ポイント:パウエルFRB議長の基調講演、9月FOMCで利下げを行うか

・今週(8月18日週)の注目点はジャクソンホール経済シンポジウムである。8月22日(金)にはパウエルFRB議長の基調講演が行われる。その前日の8月21日(木)には、製造業・サービス業の動向を示す経済指標(PMI)が発表されることにも注目である。この指標は米国の経済成長速度、インフレ圧力、雇用状況に関する手がかりとなるデータであり、パウエル議長の発言にも影響を与える可能性がある。もしPMIがインフレ圧力の継続や雇用状況の安定を示せば、パウエル議長の発言が「タカ派」的になる可能性がある。現時点では、9月FOMCでの利下げ確率は83%であるが、まだ多くの経済指標の発表が控えており、予断を許さない状況である。

S&P500の第2四半期決算動向:現時点で事前予想を上回り11%の増益/今週の決算は小売業の大型株に注目

・第2四半期の決算がほぼ終了し、S&P500社のうち460社の決算発表が完了した。事前予想は前年同期比2.5%の増益だったのに対し、実際は11%の増益となり、予想を8.5ポイント上回る結果となった。特に決算発表をまだ終えていないエヌビディア[NVDA]をのぞくマグニフィセントシックスについては、第2四半期のEPSが前年比26%増加し、事前予想の12%を大きく上回った。また、マグニフィセントシックスは2026年の設備投資額を29%引き上げ、円換算で68兆円もの投資を行うと発表。株式市場におけるAIテーマの好調は続くだろう。

・今週行われる決算発表では、ターゲット[TGT]やウォルマート[WMT]などの小売業界の大型銘柄に注目したい。同じ小売業界でも、株価の動きにばらつきがある。8月21日に予定されているウォルマートの決算発表では、関税による消費者行動の変化や粗利益への影響が考えられる。今回の決算発表の内容よりも、今後の見通し、ガイダンスが注目される。ウォルマートもAI投資を積極的に行っており、ベンチャー企業への投資や従業員向けAIアプリの導入によってシフト作成時間が90分から30分に短縮するなど、業務効率化の成果が出始めている。