創業1833年、医薬品卸の米国最大手企業
マケッソン[MCK]は医薬品卸の米国最大手企業です。医薬品メーカーから医薬品を仕入れ、薬局や病院に販売するのが主な事業で、薬局や病院の業務効率向上を支援する医療情報管理システムなども提供しています。医薬品卸会社は、製薬会社やPBM(医薬品給付会社)が持たない流通業務を担います。米国では、マケッソン(同社)、センコラ[COR]、カーディナル・ヘルス[CAH]の3社による寡占市場となっており、この3社で、医薬品流通の90%以上を担っています。同社は、国内最大手企業として知られ、2025年3月期における売上は3590億ドル、時価総額は900億ドルを誇ります。
創業は1833年。医薬品と化学薬品の卸売会社として始まり、19世紀末には全米の薬局や病院に販売網を広げていきました。20世紀に入ると勢いを増し、小規模な企業の買収を繰り返すことで全米をカバーする供給網を構築しました。また一方では医療機器やソフトウェアの提供も開始。特に1970年代以降は医療情報管理システム分野にも注力し、患者記録と保険処理ソフトウェアを提供するHBO社を買収したことで(1999年)、医療情報技術分野での地位も固められました。21世紀に入ると買収によって海外展開を加速しますが、現在海外売上は全体の4%程度に過ぎず、最近では海外事業の売却を進め、米国国内事業への集中を図っています。特に力を入れているのは、腫瘍学とバイオ医薬品事業です。
最大の注目点:成長見込まれる高度医薬品セグメントに注力
同社では、腫瘍学領域において、専門知識とテクノロジーを組み合わせたがん治療を支援するソリューションを提供しています。がん患者の記録をまとめたデータベースに全ての関係者がアクセスしてパーソナライズできる電子健康記録システム「iKnowMed」、エビデンスに基づくがん治療のための意思決定支援ツール「ClearValuePlus」などがあります。またこれらを組み合わせた「Ontada(オンタダ)」は、患者に応じた効果的な治療薬などの情報を提供するサービスで、世界のトップ15のライフサイエンス企業も利用しています。
腫瘍学領域は、「米国腫瘍学ネットワーク」という地域がん治療コミュニティの存在によって発展しています。地域の腫瘍専門医による広大なネットワークで、がん治療データを共有し活用することでがん治療を発展させようというものです。医師はがん治療に役立てることができ、同社は地域の腫瘍専門医の治療と検査のパターンデータを得られ、ソリューションを強化できます。データが充実すれば参加する医療提供者も増え、引き付け効果が高まるという好循環が生まれ、顧客を囲い込む戦略となっています。
米国腫瘍学ネットワークは年々拡大しており、現在、31州の645の施設で合計2,700を超える医療提供者で構成されます。医療提供者数は過去3年で725増えました。2025年6月には同社がフロリダがん専門機関を買収したことで530増える予定です。参加する医療提供者が増えるほど、がん治療薬の販売量も増え、同社は「がん治療薬卸の堀」を築きながら、売上も伸ばしていくことができます。
選択と集中、さらに進展:医療外科用品事業をスピンオフ
同社では、この腫瘍学に経営資源を集中させるべく、事業整理を進めています。
医療・外科ソリューションをスピンオフ
2025年6月、医療外科用品(手袋、針、注射器、創傷ケア製品など)を販売する医療・外科ソリューションをスピンオフすることが発表されました。売上に占める割合はたった3%で、この3年間売上が伸びていない部門です。
海外事業を縮小
同社は英国やフランスなど米国外にも事業展開してきましたが、2021年に欧州からの撤退を発表。以降2023年までに大部分を売却しました。残るノルウェーについても事業評価が進められており、欧州からは完全撤退する可能性が高いです。また、カナダのドラッグストア事業も一部売却を完了し、米国での事業に集中する構えです。2025年3月期における海外事業の売上構成比は4%でした。
これは高成長の腫瘍学市場に集中できるようにする前向きな動きです。なお注力分野は、腫瘍学領域だけでなく、他の高度な専門分野も含んでおり、4月には、眼科および網膜の一般管理サービスを提供するPRISM Visionを買収しました。
主力事業支える効率化ツール:処方箋技術ソリューションRxTS事業に注目
一方で、主力事業ではありませんが、注目されるのが「処方箋技術ソリューション(RxTS)」事業です。医薬品卸事業を支える面を持っており、顧客である薬局の業務効率化を支援するソリューションを提供しています。同社では、早くから流通用のバーコードスキャン、薬局のロボット工学、RFIDタグなどの業務効率化システムを採用し足場を築いてきました。今ではほとんどの電子カルテシステム、5万を超える薬局、ほとんどの薬局給付管理者、健康保険、95万の医療提供者と接続しています。医療提供者の数は3年間で75万から95万に増加しています。
売上構成比はたった1.5%しかありません。しかし利益の17%を構成していることは注目に値します。利益率はこの3年間で12.9%→17.5%に上昇し、利益の年間成長率は、売上成長率11%に対して29%と大きく成長しており、利益を支える面でも注目されます。
堅実なキャッシュフロー基盤、強力な自社株買いによる1株当たりの価値向上を評価
業績は堅調で、少なくとも15年間にわたって売上成長が続いています。売上成長率は過去10年間で年平均7%、この3年間においては11%で成長を続けています。経済環境に左右されず需要が常に存在する医薬品卸事業によって、安定的に稼ぐことができており、さらにがん領域をはじめとする高度医療領域が全体の成長を後押ししています。
卸売業らしく粗利益率は4%程度と低いですが、業界を寡占する巨大な事業規模と巨大な取扱高によるスケールメリット、効率化が図られた流通システムによって利益成長が続いています。がん領域やバイオ医薬品など成長領域への投資も効果を結んでおり、投下資本利益率は26%に達しこの5年間で2倍以上に上昇しています。顧客囲い込み作戦ともいえる米国腫瘍学ネットワークは拡大が続いており、競争力となるデータベースも拡大、顧客となる医療提供者も順調に増加しており、これは将来の医薬品販売につながります。
医薬卸という堅実で安定的なビジネスにより、キャッシュフローも長年にわたってプラスで推移しており、過去3年間においては毎年平均45億ドルがフリーキャッシュフローとして残されてきました。なお、2025年3月期においては、営業キャッシュフローが前年比41%増の60億8500万ドル、フリーキャッシュフローは65%増の52億2600万ドルでした。
強力な株主還元、17年連続増配の実績
稼ぎ出したキャッシュは惜しみなく株主に還元されています。過去3年間で見ると108億ドルが株主に還元されました。フリーキャッシュフローの大半が還元されたことになります。株主還元は自社株買いメインで、108億ドルのうち98億ドルが自社株買いでした。なお、2025年3月期には31.5億ドルを自社株買いで、3.5億ドルを配当で還元。2026年3月期には約25億ドルの自社株買いが予定されています。自社株買いによって同社の発行済み株式数はこの1年間だけで4%減少し、3年間で14%、10年間で46%減少しました。
強力な自社株買いによって株式数が減ることで、1株当たりの価値は上昇を続けています。1株当たり利益は2桁成長が維持され、1株当たり配当も連続増配が続いています。株式数が減れば1株当たり配当を増やしても配当総額は増えません。この原理もあって同社は17年連続増配の実績を持っており、しかも平均15%という大幅増配を実現しています。配当利回り自体は低く、魅力は感じられませんが、強力な自社株買いによる一株当たり価値の向上効果が期待されます。
一方、自社株買いにより自己株は274億ドルに達しました。これによって自己資本はマイナス22億ドルとなっています。自己資本がマイナスであることは、一見債務超過に見えますが、自己株(金庫株)は売却が可能で資金にすることも可能であり、金庫株を使った株式交換による企業買収も可能であることから、倒産などが懸念される内容ではありません。
S&P GlobalからはBBB+信用格付けを受けるなど、堅実なキャッシュフローも踏まえて健全な財務基盤を持っていると言えます。S&P500に採用されており、Fortune 500社ランキングトップ10の常連で2025年では第9位という、いわゆるブルーチップ銘柄であり、株主還元のレベルやS&P500を大きく上回る株価リターンを合わせると長期投資家にとって魅力的な銘柄と思います。

