2025年6月第1週の米国株式市場は、労働市場の底堅さとAIを中心とした大型テクノロジー株の上昇を背景に、堅調な推移となりました。6月6日(金)にはS&P500が再び6,000ポイント台を回復し、4月初旬の関税ショック以降で初めての心理的節目を上抜けたのです。

政治リスクや金利政策に対する警戒感は依然として残っていますが、明確な悪材料が出なかったことが、投資家心理を支える展開となりました。

雇用統計が支えた週末の上昇、史上最高値まであと2.5%の水準に

6月6日に発表された5月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が市場予想の13万人を上回る13万9,000人の増加となりました。4月の17万7,000人(改定値)からはやや鈍化したものの、労働市場の堅調さを示す内容です。失業率も4.2%と、3ヶ月連続で安定した水準を維持しています。この結果を受け、主要株価指数はそろって上昇しました。

先週(6月2日週)のS&P500は+1.5%、ナスダック100は+1.97%高と、いずれも堅調な推移となりました。これにより、S&P500は2025年2月19日に記録した史上最高値まで、あとわずか2.5%の水準に迫っています。

米中通商交渉に市場の反応は?

5月30日にトランプ米大統領は、中国が「合意を完全に破った」と発言したことに対し、6月2日に中国商務省は、米国による対応が「5月中旬のジュネーブ合意を重大に毀損するものである」として、厳しい論調で非難を表明しました。そのため、両国間の緊張が再燃しました。

とはいえ、マーケットの反応は限定的でした。4月の「10%一般関税+中国向け30%特別関税」体制がすでに織り込まれているとの見方が広がっており、以前恐れられていたほど悪くなく、リセッションリスクも低下しています。

AI関連インフラ投資が加速、メタ・プラットフォームズ[META]は原子力と提携

メタ・プラットフォームズ[META]は6月3日、イリノイ州の原子力発電所と20年間の電力供給契約を締結したと発表しました。目的は、AIモデル構築における「クリーンかつ安定した電源の確保」であり、メタ・プラットフォームズのAIインフラ投資戦略の一環とされています。

同社は2025年の設備投資見通しを最大720億ドルへ引き上げており、電力供給体制の整備が課題となっています。風力や太陽光と比べ、原子力は天候に依存せず、安定供給が可能であることから、大規模データセンターとの親和性が高いと期待されています。

セクター別ではエネルギーとテクノロジーが堅調、消費関連は明暗分かれる

セクター別では、エネルギーおよびテクノロジーが市場をけん引した一方、素材や消費関連にはばらつきが見られました。特に大手ディスカウント小売チェーンのダラー・ゼネラル[DG]は好決算を受けて15.9%上昇した一方、同業のダラー・ツリー[DLTR]は8.4%下落。ヨガなどのスポーツウエアで知られるルルレモン・アスレティカ[LULU]は決算後の失望売りで約20%下落するなど、個別企業の業績に対する敏感な反応が目立ちました。

半導体関連株では、オン・セミコンダクター・コーポレーション[ON]が6.1%上昇。引き続きAI需要と先端チップの供給制約がテーマとなっています。

トランプ氏とマスク氏の対立で市場に影、テスラ[TSLA]への影響は?

先週、SNS上では、世界で最も権力を持つ政治家であるトランプ米大統領と世界で最も資金力を有すイーロン・マスク氏との間で激しい言論戦が展開されました。共和党が推進する大型歳出法案に対し、マスク氏は「国家を破綻させる法案」と非難。これに対しトランプ米大統領は、EV補助金の削除に不満を抱いているとの見解を示しました。

両者の応酬は市場にも波及し、テスラ[TSLA]株は6月5日(木)1日で14.3%下落。トランプ米大統領のメディア企業であるトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ[DJT]株も8%下落しました。マーケットでは、政府契約への影響や、テスラの政策支援の後退リスクが懸念されました。

しかし、マスク氏とトランプ氏の関係悪化については、多くの市場関係者が一時的な政治的ノイズとして受け止めており、テスラの長期的な成長ストーリーが揺らいでいるわけではありません。というのも、マスク氏が率いるテスラやスペースXといった企業の中核技術そのものが否定されたわけではないからです。

テスラに関しては、電動化と自動運転、そしてAIとの融合によって形成される今後10年の成長ビジョンに変化はなく、一時的な発言や政治的対立が企業の技術的優位を損なうものではないという見方が依然として優勢です。

また、政府調達の再入札が行われれば、テスラが再び有利なポジションに立つ可能性も残されています。中間選挙に向かっての政治的な駆け引きがある中、短期的な混乱があっても、アメリカの民間企業のイノベーションの力はそれを上回ると見る向きもあります。

なお、2025年6月12日にテスラはついに待望のロボタクシーサービスをテキサス州オースティンでお披露目する見通しとなっています(※)。マスク氏とトランプ米大統領との激しい政治的応酬が続く中、この発表はAIとモビリティの未来に対する投資家の期待と懸念が交錯する場面となっています。

短期的にはマスク氏とトランプ氏の対立がテスラ株のバリュエーションに圧力をかけることが予想されますが、中長期的に見ると、物理AIにおける自動運転技術は、米国のAI主導権戦略において中核を成すものであり、ホワイトハウスが明確に反対に回る可能性は限定的と見る向きが多いようです。

(※)ロボタクシーサービスのお披露目は、6月22日の実施予定に変更されました。

利下げ観測は後退、金利上昇が進行

6月6日の米雇用統計の結果を受けて、金利市場では年内の利下げ期待がやや後退しています。6月6日時点での9月までの利下げ確率は、前日の95%から68%へと大きく低下しました。これを受けて、10年国債利回りは11.5ベーシスポイント上昇し、4.507%となりました。労働市場の堅調さが確認されたことで、FRB(米連邦準備制度理事会)は当面、金利据え置きの姿勢を継続するとの見方が強まっています。

今週(6月9日週)はアップルの開発者会議(WWDC)と消費者物価指数(CPI)に注目

今週は、テスラのロボタクシー開始予定に加えて、アップル[AAPL]の開発者会議(WWDC)が開催される予定です。新たなAI戦略やハードウェア発表が期待されており、株価下支えの材料となるか注目されます。

経済指標では、6月11日(水)に発表予定の消費者物価指数(CPI)が最大の注目材料です。現在の労働市場の強さとインフレ水準を踏まえると、FRBは当面、政策金利を据え置く可能性が高いと見られています。その他にも、NFIB中小企業楽観指数、PPI(生産者物価指数)、ミシガン大学の消費者信頼感指数など、経済指標の発表が相次ぐ見通しです。