「プラチナNISA」と銘打った65歳以上の高齢者向けNISA制度の創設について、金融庁が検討に入ったとの報道がありました。プラチナNISAは、現行のNISAとは別枠で創設され、投資対象商品に毎月分配型の投資信託が加わるようです。

毎月分配型の投資信託は高齢者のニーズが大きく、現状、課税口座でしか投資できないにも関わらず資金流入が堅調です。NISAで投資できるようにして欲しいという要望も大きかったのだと予想されます。

今回は、現行のNISAで投資対象外となっている「毎月分配型」の弱点に触れた上で、高齢者のNISA活用法を一緒に考えていきます。

投資信託の分配金には「普通分配金」と「元本払戻金」の2種類がある

投資信託の分配金は、「配当等収益」「有価証券売買等利益」「分配準備積立金」「収益調整金」の合計額から、運用会社が分配方針や基準価額の水準などを判断して金額を決めます。その後、ファンドに組み入れられている株や債券などの一部を売却・現金化し、分配金として支払われます。

投資信託の分配金には、普通分配金と元本払戻金(特別分配金)の2種類があります。普通分配金は投資によって得られた運用益から支払われる分配金。それに対して、元本払戻金は元本の一部を取り崩して支払う分配金です。

【図表1】普通分配金と特別分配金の違い
出所:(株)Money&You作成

毎月分配型の投資信託は、毎月で分配金を出すことを定めています。運用成果がしっかり出ているならば、上のケースに該当し、投資元本が減ることなく分配金がもらえます。しかし、運用成果が今ひとつの場合は、利益で足りない部分は元本を取り崩し、元本払戻金として分配されています。

私のもとへご相談に来られるお客様や講演会の参加者の方から、図表1の下のケースに該当している場合に、「マイページの毎月分配型の投資信託の残高が、市場環境は好調なのにどんどん減っているのですが、なぜでしょうか」と聞かれることがよくあります。

プロの投資家であっても、毎月損をせず、長期間にわたり一定の運用益をあげ続けていくことは難しい場合があります。毎月分配型の投資信託は、投資家(受益者)の元本を取り崩して分配金を出しているケースもあると言えるでしょう。

毎月分配型のメリット・デメリットとは?

毎月受け取る分配金は公的年金の上乗せの位置づけ

毎月分配型の投資信託のメリットは、定期的に分配金を受け取れることにあります。

「老後は築いた資産を取り崩せばいい」と簡単に言う専門家も多いのですが、人間の感情面を甘く見てはいけません。損をしていれば売却しにくいし、儲かっていてもなんだかもったいない気がして、やはり売却しにくいものでしょう。

そのため、投資家が売却のタイミングを考えず、定期的に分配金を受け取れるのは大きなメリットと考えられます。高齢者にとっては、毎月受け取る分配金は公的年金の上乗せとなり、生活費に充てやすくなります。

毎月分配型の4つのデメリット

デメリット1:複利効果を生かしにくい
複利効果は、運用で得た利益を再投資することで、利益が新たな利益を生む効果のことです。複利効果は、お金を増やすために味方にすべきものですが、毎月分配型の投資信託の場合、分配金を受け取ってしまうので複利効果が生かせません。また、元本払戻金を支払うことで元本がその分減ります。元本が減れば、その分増える力も減りますので、資産形成には向きません。

デメリット2:購入時手数料がかかることがある
お取引先の金融機関によって、毎月分配型の投資信託の購入時手数料は、購入金額の1~3%かかる場合があります。例えば、100万円を毎月分配型の投資信託に投資したら、1万円~3万円の購入時手数料がかかることになります。
(※)ネット証券等では、毎月分配型の投資信託の販売手数料もノーロード(無料)としています。

デメリット3:信託報酬が高い
毎月分配型の投資信託は、保有中にかかる信託報酬も年1.5~2%とインデックス型などと比較すると高めに設定されていることがあります。

信託報酬は、運用状況の良し悪しに関わらず、投資家が必ず負担するものです。大きな運用益が出ていたら、高額な信託報酬は納得がいくかもしれません。しかし、運用状況によっては、元本を取り崩して分配している状態が続く時があります。そうした状況では、信託報酬を払い続けながら、元本を取り崩している場合があります。

デメリット4:課税口座の場合、普通分配金に毎回税金がかかる
毎月分配型の投資信託を課税口座(特定口座または一般口座)で購入した場合、普通分配金が支払われるたびに20.315%の税金がかかります。

高齢者が低コストかつ節税しながら定期的に取り崩す3つのポイント

このようにメリット・デメリットを見ると、お金を増やしたい資産形成層にとって、毎月分配型の投資信託へ投資する必要性は非常に低いことがわかります。資産を増やすフェーズではなく、資産を使っていく・減らしていくフェーズである高齢者であれば、ニーズが大きくなるのも理解できます。とはいえ、高齢者にとっても高い手数料や税金を支払っている状況はマイナス要素となるでしょう。

低コストでかつ税金をなくしながら、定期的に取り崩していきたいならば、

1.現行のNISAを活用
2.低コストの「インデックス型」「バランス型」の投資信託に投資
3.定期売却(資産取り崩し)を実行

の3点セットが良いでしょう。

資産取り崩し期は、収益率の配列リスク(収益率の順序リスク)に注意

資産取り崩しには、毎月一定額ずつ取り崩す「定額取り崩し」と、毎月資産の◯%ずつ取り崩す「定率取り崩し」があります。

定額取り崩しは、取り崩す金額が一定なのでわかりやすく、生活費の目途が立てやすい反面、資産の減りが早いのがデメリットです。一方、定率取り崩しは、定額取り崩しよりも資産が長持ちしますが、受け取れる金額が年々減ります。運用環境によっても資産残高が変わるので、その時にならないと取り崩す金額がわからないというデメリットもあります。

どちらも運用しながら取り崩すことで資産寿命を延ばすことができるのですが、ひとつ注意しておきたいことがあります。それは、運用の結果が必ずしも一定とは限らないことです。

投資に絶対はありませんので、「毎年◯%で運用できる」という保証がありません。運用成果を年単位で見れば、大きく値上がりする年もあれば、少ししか値上がりしない年もあるでしょう。値下がりする年もあるはずです。値上がりする年・値下がりする年がどの順番で起こるかによっても、資産残高の推移が変わってきます。

「定額取り崩し」の場合

図表2のグラフは2000万円の資産から年160万円を取り崩して(定額取り崩し)、残ったお金を運用した場合の資産残高の推移を示したものです。横軸の「1年目:10%」などとあるのが、毎年の運用成果(収益率)です。パターン①とパターン②では収益率の推移の順序を逆にしてあります。

【図表2】定額取り崩しによる資産残高の変化
著書『50代から考える お金の減らし方』(成美堂出版)より抜粋

パターン1もパターン2も、10年間の平均収益率は同じ4%ですが、10年間で資産総額に507万円もの差が生じています。この原因は、前半の資産残高が大きい時期にあります。パターン1のように、資産残高が大きい時期に収益率が高い場合は、160万円を取り崩しても資産残高が元どおりどころか、それ以上に回復しています。

しかし、パターン2のように、資産残高が大きい時期に収益率が低かったり、マイナスだったりすると、資産残高が大きく減ってしまいます。パターン2の場合、後半に収益率が高くなりますが、すでに資産残高が大きく減ってしまったあとに収益率が多少高くなったところで、それほど資産は回復しません。その結果が、507万円の差につながっているのです。

つまり、毎年の収益率がどんな順番でやってくるかによって、資産残高が大きく変わってしまうというわけです。これを「収益率の配列リスク(収益率の順序リスク)」と言います。資産形成のときには気にしなくてよかったリスクが、資産取り崩し期には存在します。

「定率取り崩し」の場合

一方、定率取り崩しの場合は、前半の収益率が高くても後半の収益率が高くても、一定期間の平均収益率が同じならば、一定期間後の資産総額は同じになります。

【図表3】定率取り崩しによる資産残高の変化
著書『50代から考える お金の減らし方』(成美堂出版)より抜粋

資産の取り崩しは「前半定率・後半定額」がおすすめ

収益率の配列リスク(収益率の順序リスク)を緩和しつつ、それぞれのデメリットを補完する方法として、資産が多いうちは定率で取り崩し、少なくなったタイミングから定額で取り崩す「前半定率・後半定額」という方法をおすすめします。

【図表4】資産の取り崩しは前半定額・後半定率で取り崩し
著書「50代から考える お金の減らし方」(成美堂出版)より抜粋

老後前半の元気なうちに定率取り崩しを行うことで、お金をたくさん取り崩して使うことができます。その後、定率取り崩しでは受け取れる金額が減る老後後半に定額取り崩しに切り替えることで、受け取ることができる金額を維持しながら、「取り崩し資産」を最後まで使い切ることが可能です。

プラチナNISAで毎月分配型に投資する場合の商品の選び方

プラチナNISAに話を戻しましょう。創設の話がもし実現したら、プラチナNISAで毎月分配型の投資信託へ投資できることになります。

毎月分配型の投資信託は、見方を変えれば、自動的に「定期売却」がセットされた商品と見なすことができます。現状「定額取り崩し型」しかありませんが、「定率取り崩し型」「前半定率・後半定額型」など商品の幅が広がる可能性もあります。

おそらく、プラチナNISAでは、ラインアップされる商品について、手数料の制限が入ることが予想されます。「購入時手数料がかからない」「信託報酬が一定水準以下」などです。

「信託報酬が一定水準以下」とあったとしても、商品によって高低はあるでしょう。よって、もし投資する場合は、信託報酬及び実質コスト(投資家が最終的に負担するコスト)ができる限り低いものを選ぶのが鉄則です。信託報酬自体が安く抑えられていても、その他の手数料がかかり、想定以上の負担をしている場合があるからです。

また、信託報酬控除後のリターンがプラスのものを選びましょう。運用でしっかりと利益を出せていれば、元本払戻金が支払われることが少なくなり、その分資産寿命も延びます。信託報酬を控除したあとのリターンがプラス、それもプラスがなるべく大きいものがベターです。運用成績がプラスであっても、信託報酬を差し引くとマイナスになってしまう商品への投資は避けた方がよいでしょう。