8月末に金融庁が「令和8年度税制改正要望」を公表しました。そこには、NISA(少額投資非課税制度)についての改正要望も含まれています。まだ要望段階なのでそれほど気にしなくてもよいのですが、報道等で目にする機会も多いと思います。今回はどんな項目について議論されているかを整理します(2025年8月末時点の情報を元にまとめています)。
現在のNISA概要と改正要望3点
下図は現在のNISAの概要をまとめたものです。
このうち改正要望として挙がっているのが、次の3つです。
【改正要望①】こども支援の一環としての、つみたて投資枠における対象年齢等の見直し
1つ目は、「こども支援の一環としての、つみたて投資枠における対象年齢等の見直し」。こちらはこども家庭庁との共同要望となっています。
2024年からスタートした新NISAは、日本に住む18歳以上の人が対象で、未成年者は利用できません。今回、「つみたて投資枠」については対象年齢を引き下げる、つまり未成年者も利用できるようにしようという要望が出されました。
セミナーなどで、「各種手当やお年玉などの一部を、子ども名義の口座で投資したいのですが、どこでどう始めればよいですか」という質問をいただくことがあります。以前「子どもの教育資金、親の口座で準備する?未成年口座を使う?」のコラムでご紹介したように、現状では「保護者のNISA口座で投資し一部を教育費にあてる」か、「お子さん名義の未成年口座(課税口座)を開設して投資を行う」という2つの選択肢になります。今回の改正が決まると、お子さんのNISA口座で投資が可能になります。
【改正要望②】対象商品の拡充
2つ目は「対象商品の拡充」です。税制改正要望には、具体的な対象商品名の記載はありません。ただ、「NISAに関する有識者会議中間とりまとめ」(*)では、「つみたて投資枠」について
・投資初心者を含め、多くの投資家は自身の関心や理解度に応じて、地域別(例えば、ヨーロッパ、アジア)の投資商品を主体的に選択できるものと考えられることから、指数の対象地域が相応の地理的又は経済的な広がりをもっていることを前提に、地域別の株式指数単体の商品をつみたて投資枠の対象とすることも検討する余地がある。
・資産形成を始めたばかりの層や、安定的なキャッシュフローを重視する高齢層など、より低リスクでの運用を望む者が安定的な資産形成をより行いやすくなるよう、株式に比べてリスクが低く、より安定的なキャッシュフローが望めるアセットクラスをつみたて投資枠の対象商品に含めることも検討されるべき。
といった記載があります。こうしたことから、「つみたて投資枠」については、「新しいタイプの指数(アジア株指数、欧州株指数など)を加える」「現在は『成長投資枠』だけで認められているリスクの低い債券に投資する投信を認める」といったことなどが検討されているようです。「つみたて投資枠」「成長投資枠」ともに対象外となっている毎月分配型投信については、対象に含めるか否かは現時点では不明です。
【改正要望③】投資商品の入替をしやすくするための、非課税保有限度額の当年中の復活
3つ目は「投資商品の入替をしやすくするための、非課税保有限度額の当年中の復活」です。
NISAでは上場株式や投資信託などを売却すると、翌年に枠が復活する仕組みになっています。今回の改正要望は、翌年まで待たずに「当年中」に枠が復活・再利用できるようにしようというものです。
ただし、復活する枠は買ったときの金額(簿価)で計算されるのは従来通りです。例えば、累計で400万円分投資した投信が600万円になっていたとします。この時に600万円分の投信を売っても、復活するのは簿価である400万円となります。
また、NISAで1年間に投資できるのは「年間投資枠(つみたて枠120万円・成長枠240万円)」と「生涯投資枠1800万円のうち空いている額」のいずれか低い方となります。生涯投資枠については、今回の改正要望が決まれば、「当年中」に売却分の枠は復活しますが、「年間投資枠」は従来の360万円(つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円)のままです。頻繁に売買できるようにはなりません。
最後に繰り返しになりますが、これらの項目はまだ要望段階であり、決定事項ではありません。決定した段階で、改めて詳細はまとめたいと思います。
*参考
「NISAに関する有識者会議」中間とりまとめのポイント
https://www.fsa.go.jp/singi/nisa_kaigi/siryou/20250829/02.pdf
