医薬品部門と医療機器部門の2部門に集中して事業を展開
ジョンソン・エンド・ジョンソン[JNJ]は、世界的な医薬品および医療機器を展開する持ち株会社です。世界60ヶ国以上に250以上のグループ企業を有し、医薬品、医療機器を展開しています。幅広い治療領域をカバーしているのが特徴で、年間売上高10億ドルを超える製品を26(医薬品14、医療機器12)保有するブロックバスター企業です。また4割が海外売上となっており、全体として事業ポートフォリオはリスク分散が効いています。2024年度の年間売上高は890億ドル、時価総額は3700億ドルで、ダウ・ジョーンズ工業平均株価の構成銘柄です。
以前は、バンドエイドやリステリンなどを展開するコンシューマー事業がありましたが、2023年にケンビュー(Kenvue)[KVUE]という新上場会社に分割しました。現在は、「Innovative Medicine(医薬品部門)」と「MedTech(医療機器部門)」の2つの部門に集中して事業を展開しています。医薬品部門が65%、医療機器部門が35%という売上高構成となっています(2024年度)。
【1】医薬品部門
「がん」「免疫疾患」「精神・神経疾患(中枢神経・疼痛)」「感染症・ワクチン」「代謝・循環器疾患」「肺高血圧症」の6つの疾患領域に焦点を当て、研究開発を進めています。医薬品部門で最も売上高が大きいのはがん領域で、2024年度においては部門売上(569億6400万ドル)の37%を構成しました。特に「Darzalex(ダラザレックス:ダラツムマブ)」が主役でその売上高は117億ドルに及びます。次に大きいのは免疫疾患領域で、「ステラーラ」(2024年度売上高104億ドル)を主力として部門売上の31%を構成しました。ただ、「ステラーラ」は特許切れを迎えたので2025年以降の構成比は縮小する見通しです。
【2】医療機器部門
心臓血管、整形外科、外科、および眼科治療で使用される幅広い製品を提供しています。特に、心臓血管分野に注力しており、2022年にアビオメッドを、2024年にShockwave Medicalを買収しました。アビオメッドは人工心臓製品を手掛ける企業で、Shockwave Medicalは末梢血管、冠動脈、心臓弁疾患の患者における石灰化プラークを治療する血管内結石破砕術(IVL)技術を持つ企業です。
開発中の医薬品のうち21が登録段階、40が第3相試験進行中
同社は業界最大規模の研究開発を行うことでよく知られており、2024年度にも売上高の19%に相当する172億ドルを研究開発に投資しました。4月15日現在、106の医薬品が開発中で、このうち21が登録段階、40が第3相試験の段階にあります。豊富なパイプラインから毎年複数の承認を得ることができており、2024年には27件の承認を得ました。一方、大ヒット薬となった「ステラーラ」が特許切れを迎え、売上は減少し始めました。
「ステラーラ」は2009年に導入された免疫疾患治療薬で、適応を拡大しながら成長を遂げ、その売上高は2023年に108億6000万ドル、2024年には103億6000万ドルを記録しました(2024年度の医薬品全体売上高の18%)。特許切れを迎え、バイオシミラー(後続品)が登場したことで、「ステラーラ」の売上高は2025年第1四半期に前年と比べて34%減少しました。通年では25%減少すると予想されています。
ヒット薬の特許切れを補う豊かなラインナップとパイプライン
大ヒット薬の「ステラーラ」が売上減となることで全体の成長見通しが毀損するとの懸念は杞憂に終わる可能性が高いです。なぜなら同社のヒット薬は「ステラーラ」だけではなく、適応拡大で成長している薬が豊富に存在するからです。最も大きいのが、多発性骨髄腫(血液のがん)治療薬の「ダラザレックス」で、2024年の売上高は前年比20%増の116億7000万ドルとなりました。2025年度に入っても好調で引き続き20%成長を記録しています。
また「ステラーラ」が属する免疫疾患領域では、「Tremfya(トレムフィア)」が成長しています。「トレムフィア」は2017年に発売した乾癬治療薬で、2024年度の売上高は17%増の37億ドルでした。潰瘍性大腸炎やクローン病など「ステラーラ」の対応疾患にも適応を拡大してきたのが注目され、「ステラーラ」の特許切れによるマイナス影響の軽減に貢献することが期待されます。
免疫疾患の領域では、「ニポカリマブ」が全身性重症筋無力症の治療に関してブレイクスルーセラピー(画期的新薬)に指定され、2025年1月に承認を申請しました。また尋常性乾癬の経口投与薬「イコトロキンラ」も2025年5月第3相試験で良い結果が出たことが公表されています。いずれもブロックバスター薬になるポテンシャルがあるとされています。
まだ他にもブロックバスター薬になるポテンシャルを持つ薬は存在しており、同社によると、最近承認を受けた、あるいは承認待ちの新薬の中には、10年後までに年間売上高が50億ドルを超える可能性を持つ薬が10品目存在するとしています。
Intra-Cellularの買収
その中には、買収によって獲得したものもあります。最近第1四半期に146億ドルで買収したIntra-Cellular Therapiesの抗精神病薬「Caplyta(カプリタ)」です。「カプリタ」は統合失調症および双極性障害の治療薬としてFDA(米食品医薬品局)の承認を受けており、さらに大うつ病性障害(MDD)の承認のため追加新薬申請(sNDA)が提出されています。
もともと同社にも「インヴェガ」という薬がありますが、双極性うつ病を対象とする「カプリタ」を手に入れたことで、より広範囲の市場に参入することができ、神経・精神科治療薬市場における存在感が高められたと言えます。「カプリタ」の売上高は50億ドルを超える可能性があるとのこと。この分野の売上高は大きく、例えば、イーライリリー・アンド・カンパニー[LLY]の「ジプレキサ」50億ドルやアストラゼネカ[AZN]の「セロクエル」58億ドル、2024年発売の大塚製薬(大塚ホールディングス)(4578)の「レックスルティ」も18億ドルの売上高を記録しており、このことを考えても実現可能性は高いと感じられます。
業績:マイナス影響あったが、市場予想を超える好業績
2025年12月期第1四半期(1~3月)の業績は、医薬品、医療機器いずれも堅調に推移し、市場予想を超える結果となりました。売上高は前年同期比2.4%増の218億9300万ドル、純利益は3.4倍の109億9900万ドル、1株当たり利益(EPS)も3.4倍の4.54ドルとなりました。これには、訴訟関連の計上(タルクの和解提案に関連する70億ドルの戻し入れ)があり、この特別項目を調整した調整後ベースでの純利益は1.9%増の67億600万ドル、EPSは2.2%増の2.77ドルでした。「ステラーラ」のLOE(独占販売期間満了)やメディケア・パートD(処方薬保険)の変更など、マイナス影響がありましたが、その多様化されたポートフォリオによって成長を維持することができました。
【1】医薬品部門の売上高
2.3%増の138億7300万ドルとなりました(為替の影響などを除いた営業ベースでは4.2%増)。
最大のがん治療薬は56億7800万ドルと、前年から17.9%もの成長を記録しました。特に主力の多発性骨髄腫治療薬「ダラザレックス」は20.2%増の32億3700万ドルと貢献しました。次に伸びたのは代謝・循環器疾患治療薬で、22.3%増の10億1300万ドルとなりました。
一方、次の4つの治療領域は減少しました。医薬品部門で2番目に大きい免疫疾患治療薬は、「ステラーラ」の減少により12.7%減の37億700万ドルと大幅減となりました。「ステラーラ」の売上高は16億2500万ドルと33.7%減少。「ステラーラ」のLOE(独占販売期間満了)によるマイナスインパクトは8.1ポイントあったとされ、年間では25%以上減少するとみられています。このほか、精神・神経疾患治療薬は8.6%減の16億4700万ドル、肺高血圧症治療薬は2.2%減の10億2500万ドル、感染症治療薬は2.2%減の8億200万ドルとなりました。
【2】メドテック(医療機器)部門の売上高
2.5%増の80億2000万ドルとなりました(為替の影響除くと4.1%増)。
治療領域別では、心血管疾患が16.4%増の21億300万ドルと大幅増となりました。これは2024年のShockwave Medicalの買収効果が寄与しています。一方、整形外科は4.2%減の22億4100万ドル、医療外科は0.8%減の23億9600万ドル、眼科は1.7%増の12億7900万ドルでした。同社は、医療機器事業において年率5~7%で成長し、2030年までに450億ドルになるとしています。
通期計画を上方修正
Intra-Cellular Therapiesの買収による統合失調症治療薬「カプリタ」の売上寄与を反映し、同社は2025年の売上高予想を7億ドル引き上げました。売上高(為替の影響やCOVID-19ワクチンを除く営業ベース)は909億~917億ドルから916億~924億ドルに引き上げられ、成長率は2.5~3.5%から3.3~4.3%増に拡大する見通しとなりました。
一方、利益面は買収による影響で、調整後EPS(営業ベース)は5.2~7.2%増の10.50~10.70ドルと、従来予想から若干引き下げられました(従来予想は7.7~9.7%増の10.75~10.95ドル)。
なお報告ベースでは、1月の892億~900億ドルから910億~918億ドルに引き上げられ、売上高成長率は0.5~1.4%から2.5~3.4%に拡大する見通しとなりました。EPSは10.50~10.70ドルと前回予想から据え置きでした。
逆風に打ち勝つだけの事業基盤、キャッシュ創出力と健全財務、一貫した株主還元を評価
多角化された製品展開、豊富なパイプラインと順調なFDA承認獲得によって、業績は堅調に推移しています。医薬品部門では「ステラーラ」が売上を縮小させていく見通しですが、「ダラザレックス」が引き続き力強く成長していることや、「ステラーラ」の対応疾患にも適応を拡大してきた「トレムフィア」も成長していること、またブロックバスターになり得る新薬が豊富に存在することを考慮すると、長期的な見通しは明るいです。
逆風:タルク製品の集団訴訟と3度目の破産申請却下
一方、「カプリタ」の取得により通期計画は引き上げられましたが、中国、カナダ、メキシコからの関税関連費用を約4億ドルとしており、これは短期的とは思いますが逆風となると予想されます。
また、同社はタルクを使用した製品、主にベビーパウダーの発がん性をめぐる集団訴訟問題を抱えています。訴訟では、同社のタルク製品にはアスベストが含まれ、それが多くの女性が卵巣がんを発症する原因となったと主張されています(同社は一貫して安全問題を否定)。最近の動きでは、3度目の破産申請が却下されました。同社では訴訟をLTL、LLT、レッドリバーなど子会社にスピンアウトし、その会社名で破産申請を3度行っていました。これは引き続き財務に影響を与える可能性があるネガティブ材料です。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは時価総額が3700億ドルで、毎年200億ドル近いフリーキャッシュフローを生み出し、AAAの債券格付けを付与されている非常に財務の強い企業です。そのような企業が子会社とは言え破産申請すれば、「悪意ある戦術」と批判されるのは仕方ないかもしれません。
キャッシュフローは20年間プラスで推移
多様化された製品展開によってキャッシュ創出力も安定的で、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフローいずれも少なくとも20年間プラスで推移しています。2024年には200億ドルのフリーキャッシュフローが生み出されました。118億ドルの年間配当を十分カバーしてなお余ります。こうした強いキャッシュフローによって健全な財務基盤が維持されており、2025年3月末時点では、負債523億ドルに対して現金を388億ドル保有しており、純負債は135億ドルで、これは自己資本の17%に過ぎません。自己資本比率は40.1%と業界でも高く、S&Pからは最高の「AAA」格付けを獲得しています。
フリーキャッシュフローと強い財務基盤は、成長投資と株主還元の源泉となっています。過去5年においてはフリーキャッシュフローの60%以上が株主還元に充てられてきました。配当は最近、1.24ドルから1.30ドルへと4.8%増額しています。
現在は、関税政策による影響をはじめ不確実性が高まっており、難しい状況ですが、このブルーチップ銘柄を購入するチャンスである可能性があります。多様化した医薬・医療機器製品と26ものブロックバスター薬、そして豊富なパイプラインと売上高50億ドル超のポテンシャルを持つ薬があります。それを源泉としてキャッシュを生み出し、強い財務基盤を維持しながら成長と株主還元を両立させることができています。この好循環を評価したいと思います。

