先週(5月5日週)の動き:関税交渉の見通しでNY金は乱高下、米中協議に関心集まる 国内金価格は円安がサポート要因に
先週(5月5日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、米国による対外関税交渉の見通しに対する楽観および悲観的見通しに応じ、上下に大きく振れる流れが続いた。NY金は週初めの5月5日、6日の2営業日で計179.50ドルの上昇。一方、その後5月7日、8日の2営業日で計116.80ドル安という展開となった。
週初めの5月6日は、トランプ米大統領が関税引き上げを回避したい貿易相手国に対し、「関税水準を決めるのは自分だ」と述べたと伝わった。時間のかかる交渉は無駄だと言わんばかりの発言に市場は警戒感を強めNY金は買いが優勢になった。米国は中国と貿易しなくても「失うものは何もない」とも述べ、リスクオフ(リスク資産回避)センチメントが高まりNY金は買われた。
一方、週後半の5月8日には米英が2国間の貿易協定締結で合意したと発表。米国と協議を行っている他の国も近く同様に合意できる可能性があるとの楽観論が広がった。トランプ政権の関税措置で引き起こされた世界的な緊張が緩和に向かう兆しと受け止められ、株式などのリスク資産に資金がシフトする一方でNY金は売りが先行した。
ただし、週末の5月10日と12日の2日間、にスイスのジュネーブにて米中による初の高官レベルによる関税交渉が開催されることから、週末5月9日にかけては方向感の出ない展開となった。
5月9日のNY金は、アジア時間から前日の終値(3,306.00ドル)を挟んで方向感なく上下に推移し、いったんは3,270ドル水準まで売られたが、NY時間の終盤に買い戻され3,344.00ドルで終了。週を通して大荒れ相場が続いたものの、週足では前週末比100.70ドル、3.1%の反発となった。レンジは3,229.50~3,448.20ドルで上下の振幅は218.70ドルと、前週(4月28日週)の154.40ドルより拡大した。
FOMC、インフレと失業率上昇リスクを指摘し様子見
市場の関心は関税交渉に集約されているが、先週(5月5日週)は5月6日~7日の日程でFOMC(米連邦公開市場委員会)が開かれた。政策金利は大方の予想通り4.25~4.50%に据え置かれた。
終了後の記者会見にて、パウエルFRB(米連準備制度理事会)議長は、想定外に高率となったトランプ関税を受け、不確実性が高まり物価上昇、経済成長の鈍化、そして失業率の上昇につながる可能性が高いとした。その上で、関税発動の影響がどのように表れるのかを見る必要があり、また経済が堅調に推移し労働市場も安定していることから、政策スタンスは(利下げせず)据え置きを維持できるとした。また、パウエル議長は「FOMCの全員が様子見の姿勢を支持した」と述べた。
その後も週末5月10日にかけてFRB高官による同様の発言が続いた。ニューヨーク地区連銀のウィリアムズ総裁は5月9日に「安定した期待インフレ率は近代の中央銀行の基盤だ」と話し、特に不確実性が高い際に期待インフレ率を安定させることの重要性を強調した5月10日にはクーグラーFRB理事、クックFRB理事も同様の見解を示した。なおニューヨーク地区連銀の調査では一般の期待インフレ率は上昇しつつある。さらにミシガン大学やコンファレンスボードの消費者調査でもこのところ上昇傾向を示している経緯がある。
FOMCの声明文と議長発言に対する市場の反応は限定的なものとなった。これは明らかになった内容が想定内にとどまったことによる。
国内金価格は円安効果もあり最高値更新
こうした状況を受け、国内金価格は連休明けの3営業日のみだったが、最高値の更新を含み高値圏での推移となった。前週の日銀の政策決定会合にて当面の利上げ観測が後退したことから、米ドル/円相場が円安方向に進んだことが押し上げ要因となった。
大阪取引所の金先物価格(JPX金)は、5月8日に一時1万5843円と4月22日の取引時間中の高値(1万5811円)を更新した。ただし、終値ベースでの高値更新には至らなかった。米ドル/円相場が週末にかけて146円超まで円安が進んだことで、NY金の下げが一定程度相殺された。
5月9日のJPX金の終値は1万5618円で週足は前週末比330円、2.16%の反発となった。レンジは1万5106~1万5584円で値幅は737円と4週間ぶりの大きさとなった。なお10%の税込みで表示される標準的な店頭小売価格は5月8日に1万7259円と過去最高値を更新している。
今週(5月12日週)の見通し:米中関税協議の結果と市場の評価、5月13日(火)発表の4月米CPI(消費者物価指数)に注目[NY金3,180~3,400ドル、JPX金1万5100~1万5600円]
米中初の高官レベルの関税交渉は踏み込んだ内容に
5月10~11日にスイスのジュネーブで開かれた米中初の高官レベルでの関税交渉の結果が焦点となる。すでに日本時間5月12日の早朝時点で貿易戦争の緩和に向けて「大きな進展」(ベッセント米財務長官)があったと伝えられている。中国側も「新たな経済対話の枠組みを設けることで合意した」(何副首相)と表明している。詳細はスイス時間の12日に公表する(ベッセント財務長官)とされ、中国国営新華社は、共同声明を発表する見通しを伝えている。今回は初会合ということもあり、双方ともに相手側のスタンスを探るというもので、緊張緩和の糸口となり継続協議の道筋をつける内容と思われたが、報じられるところでは踏み込んだものとなったようだ。
この報道を受けて、5月12日アジア時間のNY金は売りが先行し前週末比63.00ドル安の3,281.00ドルで取引を開始し、日本時間12時時点までで一時3,247.30ドルまで売られ、その後押し目買いに3,295.50ドルまで見て3,280ドル台となっている。予想外とも言える米中協議の進展観測を受け、リスクオンセンチメントの広がりの中でNY金には売りが広がっている。
足元ではまず米中共同宣言の内容がどのようなものになるのかがポイントになる。関税率の引き下げに関し具体的な数字の公表や関税を課する品目の見直しなど、踏み込んだものとなると、NY金は3,200ドル割れを試すところまで売られる可能性がありそうだ。ただし一定水準の円安は維持されると見られ、国内金価格は、下げは緩和されるとみられる。
関税発動の価格転嫁の影響が出始める可能性
今週(5月12日週)の経済指標として注目されるのは、5月13日(火)の4月の米CPI(消費者物価指数)がある。前月比で3月は9ヶ月ぶりの低い伸びだったが、関税発動の価格転嫁の影響が出始める可能性があり、4月は伸びが加速したと見込まれている。期待インフレ率を巡っては5月16日発表の5月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)にも注目したい。
関税交渉という政治要因につき予想は難しいが、NY金については3,180~3,400ドル、JPX金は1万5100~1万5600円といずれもレンジは広がりそうだ。
米中協議が安定的に継続となれば、材料としては一巡することもありそうだ。