先週(2月10日)の週の動き:トランプ関税を巡る警戒、逃避需要を集めNY金も国内金価格も最高値更新続く
先週(2月10日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は7週続伸した。金市場では、米関税政策発動の不透明感と、各国の今後の反応を懸念して、逃避資金を集める前週からの流れが続いた。
貿易戦争を警戒、NY金取引時間中・終値ともに最高値更新
2月10日、トランプ大統領は鉄鋼・アルミニウム製品に対する25%の追加関税を適用する大統領令に署名。同時に主要供給国のカナダ、メキシコ、ブラジルなどへの適用除外措置と無関税枠を撤回した。その上で、今後は自動車・半導体・医薬品の関税引き上げを検討するとも明らかにした。
2月13日には米国の輸入品に関税を課している全ての国に相互関税を課すと発表。さらに同日、自動車に対する関税措置を4月2日をめどに発動させる方針を明らかにした。
米国を中心にした世界的な貿易戦争を印象付け、NY金の上値追いが続いた。5営業日中2営業日で取引時間中および終値ベースでそれぞれ過去最高値を更新した。取引時間中の高値は11日に2,968.50ドル、終値ベースでは13日2,945.40ドルとなった。
1月米CPIは予想比上振れ、小売売上高は下振れ
このところ、ともすると主要な米経済指標の結果が市場に与える影響も薄れがちだったが、先週(2月10日週)は後半にかけて発表された米経済指標が予想比上振れ、また下振れとなり、相応の影響を金市場に与えた。
まず2月12日発表の1月の米CPI上昇率は前月比で0.5%と市場予想の0.3%を上回った。2023年8月以来、約1年半ぶりの大幅な伸びとなる。前年同月比では3.0%と4ヶ月連続で伸びが加速した。市場予想は2.9%だった。共に予想を上回り、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げを急がない姿勢が裏付けられた。
CPIの結果は、過去数ヶ月2%の目標に向け物価が下がりにくい状況が示されてきたが、それよりもむしろ上向いている現状を明らかにしたといえる。広範囲にわたって関税を課す方針を示しているトランプ大統領だが、やはりインフレ高進につながる可能性がある。2月7日に発表されたミシガン大学の消費者信頼感指数(速報値)では1年後のインフレ予想が前月の3.3%から4.3%と1%も跳ね上がり、2023年11月以来の高水準となっていた。消費者もインフレへの警戒感を強めている。
さらに2月14日発表の1月米小売売上高は前月比0.9%減と市場予想(0.2%減)を大きく下回る想定以上の落ち込みとなった。2024年12月分は上方修正され0.7%増とされたこともあり、2023年3月以来の大きな減少となった。歴史的な寒波や年始に発生したロサンゼルスの大規模な山火事が影響したとの指摘があるが、消費減速の可能性も意識された。高止まりする金利が経済に与える影響への警戒も高まりつつある。
FRBは様子見スタンス維持
それでもFRBが早期に利下げに転じるとの見方は少ない。足元ではCPIの結果から利下げは年末12月との見方が増えている。この点で先週は上院下院と2日間にわたり半期に1度の議会証言に臨んだパウエルFRB議長だが、CPIを受け「好ましい数値が1、2回出たり悪い数値が1、2回出たりしても、われわれは一喜一憂しない」とした(下院金融サービス委員会)。
こうした中でNY金は2月17日がプレジデンツデーの祭日となる3連休を前に、14日の取引は、最高値圏にあることから利益確定売りが優勢となった。NY時間午前の中頃にややまとまった売りが出ると下げ足を速め、2,900ドルに接近し終値は2,900.70ドルとなった。それでも週足は前週末比13.1ドル、0.45%高の7週続伸となった。レンジは2,886.50~2,968.50ドルと100ドルを超えた前週には及ばないものの、82ドル幅と高値圏特有ともいえる荒れた展開となった。
NY金の上昇に円安の後押し、歴史的上昇続く国内金価格
一方、先週(2月10日週)の国内金価格もNY金の高値更新を映す形で最高値更新となった。2月11日が祝日の関係で4営業日のうち2営業日で最高値を更新した。米ドル/円相場の週足レンジが151.23~154.80円(ファクトセット)となったが、NY金の2,900ドル中盤の水準と154円台の円安が重なった12、13日に連日最高値を更新した。
大阪取引所の金先物価格(JPX金)は13日に取引時間中(1万4522円)、終値(1万4451円)の双方ともに最高値を更新した。10%の税込みで表記される店頭小売の標準的な価格も、同じ13日に1万5909円と最高値を更新している。
JPX金の14日の終値は1万4405円で週足は前週末比370円、2.64%高で4週続伸となった。レンジは先週のタイトルに「マクロ型上昇」と表記したが、複合要因によるNY金の上昇に、円安が加わり国内金価格の歴史的上昇が続いている。
中国人民銀行、国内保険会社の金保有を認可
前々週の話だが触れておきたいのが中国関連のニュース。毎月現地時間7日夕刻に中国人民銀行(中央銀行)は外貨準備統計の前月の状況を発表している。その発表に金準備についての発表が含まれるため、注目されている。1月は約5トン増え保有量は約2,284トンとなった。
今回、人民銀行は付随して興味深い発表をした。国内大手保険会社10社に資産の最大1%を金に投資することを認めるというものだ。米ブルームバーグ通信が報じるところでは、現地の証券会社の試算では最大2000億元(約4兆1700億円)になるとされる。時価から計算すると約300トンの現物買い余力が生まれることになる。時間を掛けて買い進めると見られるが、相応に需給を締めることになるだろう。今回はテストケースで、状況を見て枠を増やす可能性がありそうだ。
なお金の国際的広報調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(略称WGC、本部ロンドン)のデータでは、2024年10~12月期の世界の現物投資需要(地金と金貨)の総量が325トンなので、それに匹敵する規模となる。
今週(2月17日)の週の見通し:2月の米PMI速報値とミシガン大学2月消費者信頼感指数確報値に注目 NY金2,870~2,950ドル、JPX金1万4100~1万4500円を想定
今週は2月19日(水)に1月のFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事要旨が発表される。さらにFRB高官の発言機会も多く予定されている。ただ、先週パウエル議長の議会証言があった後でもあり、金市場の手掛かり材料になるものは少ないとみられる。
主要な米経済指標の発表も限られる。住宅関連指標よりも、いずれも2月21日(金)のS&Pグローバルの2月の米PMI(購買担当者景況指数)速報値とミシガン大学2月の消費者信頼感指数(確報値)に注目している。
2月5日に発表された1月のISM非製造業景況指数は52.8と前月の54.0から予想外の低下となった。市場は54.3への上昇を読んでいた。2月のPMIはどうなったか。前述のとおりミシガン大指数については速報値で1年後の期待インフレ率が前月の3.3%から4.4%に1%も跳ね上がっていた経緯がある。
こうした中でトランプ政権による関税を巡る動きは、具体的な内容発表まで沈静化するとみられ、NY金およびJPX金ともに高値追いは一服し高値圏でのレンジ相場に移行するとみる。
NY金は2,900ドルを挟み2,870~2,950ドル、JPX金は1万4100~1万4500円のレンジを想定する。