先週(11月11日週)の動き:NY金週足は3年4ヶ月ぶりの大幅下落(4.6%安)、JPX金週足は円安で相殺され約2.5%安

先週(11月11日週)のニューヨーク市場の金先物価格(NY金)は週を通して連日下げに見舞われた。前週末11月8日から6営業日続落で、週末15日の終値は2,570.10ドルとなった。これは9月11日以来の安値で、9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)にて0.5%の大幅利下げが決まる前の水準まで押し戻されたことになる。週足は前週末比128.70ドル、4.6%安と3週連続安となった。2021年6月18日終了週以来の大幅な下げとなった。

「トリプルレッド」が実現、米政治リスクは後退

前週に続き米大統領選にてトランプ氏が圧勝したことに加え、先週は下院でも共和党の勝利見込みが伝えられ、これで上下両院が共和党(シンボルカラーがレッド)が制し、いわゆる「トリプルレッド」が実現し、金市場ではファンドの手じまい売りが広がった。

トランプ次期大統領は野党民主党の抵抗を回避する形で、政策遂行が可能となる体制が整ったことになる。共和党下院議員の中にはフリーダムコーカスと呼ばれる保守強硬派議員のグループがあり、これまで法案提出及び採決を巡り、共和党内での意見対立も見られてきた経緯がある。しかしこのグループ自体がトランプ派であり、現ジョンソン下院議長もメンバーでもある。これでトランプ次期大統領の権力行使に歯止めをかけるものは、ほぼなくなった。

政権移行はスムースに進む見込みで、予算案審議や年明け以降に必要のある連邦債務上限の引き上げにもメドが立ち、ここまで懸念されてきた政治リスクは後退した。

怒涛の手じまい売りでNY金のレンジは下方に拡大

政治分断、政治的空白を手掛かりにヘッジ目的で先物市場と金ETF(上場投資信託)を介して買い進んだ欧米勢だが、サプライズとも言える展開に一斉に手じまい売りを出している状況は、NY金(12月物)の出来高からも把握することができる。

11月5日以前の6営業日の1日当たりの平均が18万6,480枚(1枚=100オンス)、5日以降13日まで6営業日の同平均が28万5797枚と、重量換算で約10万枚(約311トン)増加している。1 日遅れで公表されるデータだが14日も出来高が膨らんでおり、相応の売りが出たとみられる。16日に明らかになった15日分は17万9892枚に大きく減少しており、さすがに買い付いていた目先筋の整理売りは一巡したとみられる。

こうした状況の中、先週のNY金のレンジは下方に拡大。2,541.50~2,693.40ドルと約151ドルの値幅となった。想定レンジを2,660~2,720ドルとしており、ここまでかい離したのは当欄を担当して初めてのことである。ファンドポジションの怒涛の巻き戻し(手じまい売り)の内容は2013年4月以来のものと言える。

国内金価格も大きく水準を切り下げ

NY金の下げ幅拡大に伴い、国内金価格も直近の最高値から大きく水準を切り下げた。ただし、先週もドル円相場が一時7月以来となる156円台まで円安が進んだことで相殺され、下げ率はNY金に比べ小さい。大阪取引所の金先物価格(JPX金)の週足は、前週末比327円、2.46%安で続落した。

先週のレンジは1万2795~1万3346円となった。想定レンジは1万2950~1万3250円に置いていた。円安が下支え要因と読んだものの、それ以上のNY金の下値拡大が約200円幅の想定比下振れにつながった。

FRB緩和ペースの低下観測もNY金売り要因に

先週(11月11日週)のNY金の下げ幅拡大については、米政治リスクの低下に対するファンドのロング(買い建て)の巻き戻し(手じまい売り)が直接的な背景であることは先に触れたとおりだが、もう一つの売り手掛かりがある。

先週米国では10月の消費者物価指数(CPI)や同生産者物価指数(PPI)また小売売上高など重要指標が発表された。インフレについては、鈍化トレンドは続いているものの単月では前月比上昇など足踏み状態とも言える状況にある。小売売上高は前月比0.4%増と市場予想の0.3%増(ロイター)を上回った。9月は当初の0.4%増から0.8%増に上方修正された。こうした米経済の堅調展開に、FRB(米連邦準備制度理事会)が着手している利下げ政策が見直されるとの観測が高まっている。

FRBのパウエル議長は14日の講演で、「米経済が底堅く推移していることから利下げを急ぐ必要はない」との考えを示した。12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利下げを見送るとの見方が浮上している。仮に連続利下げに踏み切っても、来年以降FRBは緩和ペースを落とすとの見方が増えている。

こうした見方は、米政治リスク後退で目先筋のファンドが大きく手じまい売りする中で、金市場では押し目買いを入りにくくし、下値メドを立てにくくしている。

テクニカル面では50日移動平均線(2,666ドル)を割れ売りが加速したが、2,600ドルを下回ったことで下値メドは心理的節目の2,550ドル、100日移動平均線が位置する2,500ドルをやや上回る水準となる。ただし、NY金の出来高の推移とCFTC(米商品先物取引委員会)が発表するファンドのポジション(持ち高)の状況からは、先週で目先の売りは一巡したとみられる。

今週(11月18日週)の見通し:11月の米中心にドイツなどPMI(購買担当者景況指数)速報値に注目

NY金2,565.00~2,630.00ドル、JPX金1万2750~1万3150円

今週(11月18日週)の米国関連指標では22日にS&Pグローバルが発表する11月の米PMI(購買担当者景況指数)速報値に注目したい。これは足元の景況感の上昇を知るうえで参考になる。また、堅調が伝えられる米経済にあってサービス業に比較して低迷が続く製造業の状況を見たい。

金市場に影響を与えるFRBの利下げサイクルの行方を探る手掛かりだが、今週は主だった指標の発表はない。住宅指標が多く発表され、下振れ上振れ双方に目立った動きは見られないもよう。先週に続きFRB高官の発言も複数予定されている。

また、先週も対米ドルでユーロ安が目立ちドル指数(DXY)を1年ぶりの高水準に押し上げた。この点においては、ドイツなどの11月PMIや20日(水)、22日(金)に予定されているラガルド欧州中銀(ECB)総裁の発言にも注目している。

こうした中で、NY金は、先週末15日の出来高が大きく低下していることから、ファンドの売りも一巡していると見る。想定レンジは、2,565.00~2,630.00ドルとする。2,600ドル近辺に戻り売りが控えると見るが、ドル高一巡で消化すると見る。JPX金は1万2750~1万3150円を見込んでいる。