先週(4月7日週)の動き:米トリプル安にNY金高値更新3,200ドル台、国内金価格上昇も円高に上値を抑えられる展開に
先週(4月7日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、上値追いの流れが週末にかけ加速し最高値を更新した。
トランプ米大統領が4月2日を米「解放の日」として広範囲の相互関税と共に特定国・地域に対する追加関税を発表したことを受け、前週(3月31日週)は世界経済の減速・後退を懸念する株式売却が加速するリスクオフ(リスク資産回避)の動きが加速する中で、米国債が安全資産として買われていた。
先週(4月7日週)は関税発動の9日を前に、その米国債にも売りが広がり、利回りは急伸。さらに下げ足を速める米株市場に加え、主要通貨に対しドル安も広がるいわゆるトリプル安の流れが現出した。
幅広い米国資産売りを意味するトリプル安状態加速に危機感を強めたベッセント財務長官の進言と見られたが、トランプ米大統領は9日午後1時前に、この日未明に発動したばかりの追加関税の90日間延期を表明した。 この米国の緊急避難的対応に株式市場は急反発となったものの、賞味期限は短く、翌10日には反落した。
ファンド、まとまった売りから一転旺盛な買いに転換
こうした一連の流れの中でNY金は前週から4月7日の前週末比61.80ドル安まで3営業日で192.60ドル6.1%安と大きく売り込まれた。米株大幅安のリスクオフに際してマージンコール(追加担保の供出)に対応するなど、現金捻出の益出し売りが大規模に膨らんだものとみられた。
ところが、翌8日以降は前述のように米トリプル安の中で一転逃避資金を集め急反発となった。また、9日以降NY金の上昇はCTA(Commodity Trading Advisor)と呼ばれる短期筋のファンドによる旺盛な買いと、金ETF(上場投資信託)への資金流入の急増という、もっぱら2方向からの資金流入で加速した。
NY金初の3,200ドル台に、3営業日で8.5%上昇
4月11日のNY金は初めて3,200ドルを超える水準に入ったものの、売り買い交錯状態で相場は進行した。通常取引に入って以降、株式市場が開く時間には節目の3,250ドルを突破。午後に入り早い時間帯にFRB(米連邦準備理事会)高官による現状の金融市場を楽観する発言が伝わったことなどから、株式市場は反発に転じることになった。それでも米ドルと米債は売り優勢の流れが続いたことから、NY金は一時3,263.00ドルと最高値を更新、終盤はやや売り優勢に傾き3,244.60ドルで終了した。
9日以降、週末にかけての3営業日の上昇は計254.40ドル8.5%高となったが、これは新型コロナ禍の市場混乱の際に買いを集めた2020年3月の3営業日12.3%上昇以来のことである。年初からの最高値更新は21回を数える。
NY金の週足は前週末比209.20ドル6.9%の反発となった。レンジは2,970.40~3,263.00ドルで上下の値幅は292.60ドルと過去最大となった。
国内金価格の値幅も拡大、しかし円高で最高値更新はならず
一方、NY金の動きを映す形で国内金価格も値動きが荒くなった。さらに米ドル/円相場が大きく円高に振れたことも値動きを大きくした。大阪取引所の金先物価格(JPX金)は、4月7日まで前週から4営業日続落となった後に反発。10日には前日比608円高の1万4821円と、1日としては記録的な上昇を見せた。ただし、11日には一時142円台前半まで進んだ円高により、米ドル建て金の上昇が相殺され最高値更新には至らなかった。
週末4月11日のJPX金の終値は1万4939円と前週末比283円1.93%の反発となった。先週は約1ヶ月ぶりに一時1万4000円割れとなるなどレンジは1万3985~1万4947円で値幅は962円と前週の827円を上回り年初来最大となった。
NY金を押し上げた米中貿易戦争突入
中国は4月11日、米国からの輸入品への関税を84%から125%に引き上げると発表し、12日から適用された。トランプ米大統領が中国への関税を145%としたことに対抗するもので、貿易戦争のリスクが高まるというよりも、すでに貿易戦争に突入していると言える。
そもそも、トランプ米大統領の税率引き上げ幅は恣意的で、落しどころも何も考慮していない行き当たりばったりのものとみられる。さすがに中国政府も、これ以上の税率の引き上げは現実的に意味をなさないとして、この水準で終わりとしている。米中の対立が深まったことが、今後の不透明性をさらに高め、安全資産としての金市場への資金流入を加速させた。
短長期ともに上昇している一般のインフレ予想
前回のコラムで注目指標として挙げた4月11日発表のミシガン大学4月の消費者信頼感指数(速報値)はFRBに引き続き警戒感を抱かせる内容だった。物価上昇への警戒から50.8 と市場予想の54.5を下回り、2022年6月以来の水準まで低下した。
注目されるのは期待インフレ率だが、1年先の期待インフレ率は6.7 %と、前月の5.0%から急上昇。4ヶ月連続で毎月0.5%ポイント以上上昇しており、1981年以来の高水準に達した。5年先も4.4%と、1991年6月以来の水準に上昇。前月は4.1%だった。FRBにとって利下げしにくい結果といえる。
今週(4月14日週)の見通し:米国債売りに及んだことで目先に一巡感も、それでも続く米政策の不透明性
先週(4月7日週)は米株市場を中心としたリスクオフセンチメントの高まりの中で、NY金にはファンドのまとまった売りが出ると予想し、値固めモードの日柄整理とした。
しかし、米関税発動の混乱が米債売りにまで波及したことから、NY金は急反転した。週末4月11日にCFTC(米商品先物取引委員会)が発表したNY金のファンドの買いポジション(ロング)は、8日時点で前週比149トンもの減少となっていたことから、調整モードとの想定は誤りではなかった。しかし、その後の混乱に乗じ、ファンドは一斉に買いに転じたことから、再び最高値の更新につながった。
今週(4月14日週)も引き続きトランプ関税に関連する動きに金市場は影響を受けそうだ。ただし、米債売りにまで及んだ状況は、想定されたNY金の買い手掛かりに目先の一巡感をもたらすとも言え、相場は3,200ドル台中盤まで進んだが、この辺りでの滞留となりそうだ。不確実性の継続は金市場を下支えする。
米国経済指標では4月16日発表の3月小売売上高に注目しているが、それよりもトランプ政権の動きと中国の反応が刺激要因となりそうだ。
NY金については3,200ドル台での滞留、JPX金は高値更新を含む1万4700~1万5200円のレンジを想定している。