2つのパターンの米ドル安・円高
トランプ大統領が就任する前に、米ドル/円は158円まで上昇したが、その後は今週の140円台まで約18円の下落となった(図表1参照)。この米ドル安・円高は、日米金利差との関係では2つに分ける必要がありそうだ。

3月にかけて米ドル/円は146円まで下落したが、それは日米金利差(米ドル優位・円劣位)縮小と基本的に連動していた。一方、4月以降米ドル安・円高が140円台まで一段と広がった動きは、一時日米金利差拡大から大きくかい離したものだった。
つまり、トランプ政権の中で起こったここまでの米ドル安・円高は、米金利低下に伴う日米金利差縮小を受けた動きと、米金利が上昇し日米金利差が拡大することに逆行した動きと、主に2パターンあった。興味深いのは、この2パターンの米ドル安・円高は、2017~2020年のトランプ政権1期目にも見られたものであるということだ。
政権1期目との類似と相違
トランプ政権1期目は2017年1月に始まったが、この時も米ドル/円は下落に向かった。それは、基本的に日米金利差縮小に沿ったものであった(図表2参照)。トランプ政権1期目において、2017年12月に選挙公約の目玉の1つだった「トランプ減税」が成立すると、その後米金利は上昇し、日米金利差も拡大に向かった。ところが、金利差拡大を尻目に米ドル/円は下落に向かったのだった。

以上のように見ると、トランプ政権2期目におけるここまでの米ドル安・円高の2パターンは、基本的には政権1期目においてすでに経験したものだったと言ってよいだろう。しかし、トランプ政権2期目がスタートするまでは、米ドル高・円安に向かうとの予想も少なくなかった。その根拠はトランプ大統領の経済政策が米金利上昇、株高をもたらす可能性が高いということだったのだろう。
なお、トランプ政権1期目において関税政策の発動で米中貿易戦争が広がったのは2018年に入ってからだったが、そうした中でそれまで続いた株高から株安へ大きく転換するところとなった。これに対して今回は、政権開始から早々に1期目以上にパワーアップした関税政策を本格的に展開すると貿易戦争への警戒感が急拡大し、株価も急落した。それどころか、一時は株、債券、米ドルの「トリプル安」も広がった。
円安予想が間違った理由
以上を整理してみる。トランプ政権で米金利が低下することでの米ドル/円下落、そして米金利上昇に転じると株安、米ドル安をもたらす「悪い金利上昇」は、政権1期目にも経験したことだった。ただ今回は、関税政策の展開が政権1期目以上に早く、より本格的に実現し、貿易戦争への警戒感もより強いものとなった。それにより「悪い金利上昇」や「米トリプル安」、「米国売り」という動きが、政権1期目以上に早く、より深刻化しかねない状況になっている点が、ここまで「トランプ円安」予想が結果として間違った理由ではないか。