先週(11月4日週)の動き:米大統領選波乱なく通過でゴールド反落、米長期金利と米ドル上昇でNY金2,700ドル割れ、国内円建て価格下落も円安で下値限定的

先週(11月4日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、ある種のサプライズとなったトランプ前大統領の圧勝という米大統領選の結果を受け、大幅反落した。

直前まで世論調査の結果が拮抗し、歴史的な接戦とまで表現されていたことから、投開票日まで市場の警戒感は維持されていた。さらに米議会選挙も、共和党が上院で過半数を奪還。本稿執筆時点の11月11日時点で下院も接戦とされるものの共和党優勢が伝えられている。つまり選挙結果と政権移行を巡る米国内の政治分断は回避され、政治的空白の発生可能性も低下している。

いち早く反応したのは11月6日、米国債市場と為替市場だった。米10年債利回りは直近の4ヶ月ぶりの高水準をさらに上回り4.5%に迫るところまで上昇。ユーロを中心に主要通貨に対するドル高からドル指数(DXY)も直近の高値を更新し、やはり4ヶ月ぶりの高水準となる105ポイント半ばへと急騰した。

大統領選の結果を受け、金市場では売りが膨らむ

米国の政治分断リスクを懸念する欧米逃避マネーの受け皿となっていた金市場では売りが膨らみ、11月6日のNY金は大幅反落となった。通常取引は、前日比73.40ドル安の2,676.30ドルで終了し、10月中旬以来、約3週間半ぶりの安値水準で1日の下げ率(2.7%)としては、6月上旬以来の大きさとなった。

翌11月7日、FOMC(米連邦公開市場委員会)が0.25%の利下げを発表したことが一定の下支え要因となり、いったんは2,720ドル近辺まで買われるなど反発したものの、買いは続かなかった。

週末の11月8日はトランプ次期政権下での法人税引き下げと規制緩和への期待に加え、FRB(米連邦準備理事会)による従来の想定よりも緩やかながら利下げは継続されるとの見通しのもと、米主要株式指数は軒並み史上最高値を更新。熱狂とも表現できるリスクテイクに傾いた。

こうした中で金市場では、売り優勢の流れ(資金流出)が続き、8日のNY金の終値は前日比11.0ドル安の2,694.80ドルとなった。前日の大幅下落に対して7日の29.50ドル上昇は、テクニカル的なもので自律的反発という評価になる。

先週(11月4日週)のNY金は、週間ベースで前週末比54.40ドル、2.0%安の続落。週足の下げ率としては5月24日終了週以来の大きさとなった。レンジは2,650.30~2,759.50ドルと変動幅は90ドルほどに拡大した。

世論調査がトランプ、ハリス両候補の僅差の接戦を示したことから、先週のコラムではタイトルを「米大統領選 NY金は上下100ドルのレンジを想定」としていた、ハリス勝利の際の選挙結果を巡る混乱で上振れ、トランプ勝利で下振れを想定し、想定レンジを2,680~2,820ドルとしていたが、トランプ圧勝の混乱なしで下値は2,650ドル台まで深くなったものの、レンジはほぼ100ドルに収まった。

国内金価格のレンジは抑えられる

一方、米ドル円相場のレンジが151.32~154.72円(FactSet調べ)と3円強のレンジとなる中で、NY金と米ドルが逆相関(NY金安・米ドル高、NY金高・米ドル安)となったことで、国内金価格のレンジは抑えられた。

大阪取引所の金先物価格(JPX金)の週足は、前週末比316円、2.3%安の1万3254円で終了と反落した。レンジは1万3196~1万3642円となり、想定レンジ1万3200~1万3600円をそのまま映す形になった。

NY金ファンドのロング大幅減少見込み

逃避マネーの受け皿となっていた金市場では、売り優勢の流れ(資金流出)が続いたとしたが、それはデータからも読み取れる。

11月8日に米CFTC(米商品先物取引委員会)が発表した11月5日時点のファンドの買い建て(ロング)は、重量換算で前週の904トンから830トンへと74トン減少していた。10月31日にNY金はファンドと見られる売りに、1日で51.5ドル、1.8%のまとまった下げに見舞われていた。これはその前日に初めて2,800ドル超まで買われたことで、高値警戒感と月末が重なり利益確定売りが膨らんだものだった。この日の出来高は24万2,571枚(1枚=100トロイオンス)と9月3日以来2ヶ月ぶりの規模だった。ロングが減少したCFTCのデータはそれを映している。

対して11月6日、73.40ドルの下げとなった当日の出来高は、36万1,313枚と49%増しで3ヶ月ぶりの規模となった。おそらくNY金のロングはネットでさらに90トン以上減ったとみられる。ファンドのロング減少からみると、ここまでの上昇相場も一服という印象となる。

NY金は上昇一服、センチメント変化に注目

米大統領選挙という一大イベントを経た後の金市場の動きがどうなるか。4年ぶりの規模のロングを抱えるがゆえに材料出尽くし的な反落となるのか、政治混乱を手掛かりとしてさらに上値追いになるのか、両方向で注目して来た。

結果的には、波乱なき決着に急反落となった。この動きが本格的な調整局面入りとなるのか、上げ一服という状況に収まるのか、見極める時間帯に入る。

新興国中銀の買いという基盤の上に、米利下げ転換や中東情勢、さらに米政治分断という地政学的リスクが乗る形の歴史的上昇相場で、積み重ねられてきた成功体験に基づく「金(ゴールド)は上がり続ける」という異例の先高感に変化が現れるのか否か。

また、ここまで下げ局面ではまさに押し目待ちに押し目無し。すぐに買いが入り反発力の強さを見せて来た。ポイントは、下げ幅の拡大あるいは反発力の弱さに従い、ここまで異例の先高観にひび割れ(センチメントの変化)が生じるのか否か。

ありていに表現するなら、「あそこで売っておけば良かった」という見方が生まれるのか否か。特に含み益拡大の中でも売りを出さず、ホールド状態で推移してきたアジアを中心とする個人投資家のマインドに変化があるなら、歴史的上昇相場も徐々に通常ペースに戻ることになりそうだ。

もとより金相場の転換点(pivot)になると目されてきた米大統領選は、節目のイベントになった。米政治リスクは、今後はトランプリスクと名を変えて、金市場の手掛かり材料となりそうだ。

今週(11月11日週)の見通し:米CPI、PPI、小売売上高およびFRB高官発言に注目 

想定レンジNY金2,660~2,720ドル、JPX金1万2950~1万3250円

今週(11月11日週)は11月13日に10月米消費者物価指数(CPI)、11月14日に10月米生産者物価指数(PPI)が発表される。トランプ前大統領の勝利が固まったことで、その公約内容からインフレ圧力が高まり、金利上昇圧力がかかりやすくなることで、再び米インフレ動向に関心が向けられることになる。FRBによる利下げサイクルとの観点からもインフレ関連指標に注目したい。

さらに今週はパウエル議長はじめ多くのFRB高官の講演など発言機会が予定されている。トランプ2次政権が固まったことで、どのような内容になるか注目となる。

11月10日、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は、米金融当局がインフレとの闘いで進展する中、米景気は著しい強さを維持しているが、当局はまだ「完全に帰還したわけではない」と述べた。「インフレ率が当局目標の2%まで確実に低下していくという確信が欲しい」としつつ、12月の「追加利下げがあり得るのは確かだ」と述べている。

米大統領選を無風で通過したいま、夏場以降の異例の強さの上昇トレンドは一服ということになりそうだ。こうした中で今週の想定レートはNY金が2,650~2,710ドルを想定している。また、JPX金はドル円相場が1万2950~1万3250円を想定している。