先週(10月28日週)の動き:米政治リスクへのヘッジ買いで最高値更新も「行って来い」状態のNY金、国内金価格も高値更新

先週(10月28日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は前週(10月21日週)に続き史上最高値を更新した。10月29、30日と2営業日連続で取引時間中、および終値ベースで史上最高値を更新。30日に付けた高値はそれぞれ2,801.80ドルおよび2,800.80ドルとなった。これがここまでのところの最高値で、初めて2,800ドルを突破した。

しかし、さすがに高値警戒感は強く、翌10月31日は前日比51.50ドル、1.8%の大幅反落で2,749.30ドルと節目の2,750ドル割れで終了した。1日の下げとしては7月下旬以来の大きさとなった。前日まで5営業日続伸でかつ最高値更新で高値警戒感が強まっていたことに月末が重なり、目先筋のファンドの利益確定とポジション調整の売りが膨らんだとみられた。実際にNY金の10月31日の出来高は24万2,571枚(1枚=100トロイオンス)と9月3日以来2ヶ月ぶりの規模に増加しファンドの売りを示唆した。

週末11月1日の取引も予想外に低調となった10月米雇用統計を受け反発したものの、米長期金利が4ヶ月ぶりの水準に上昇したことで上値は限定的だった。2,770ドル後半まで買われたものの終盤に上げ幅を削り、小幅続落の2,749.20ドルで終了した。NY金の週足は前週末比5.40ドル、0.2%の反落となった。

金融市場はいわゆる「トランプトレード」が進む

NY金の先週(10月28日週)の高値更新も前週(10月21日週)同様に、米長期金利と(主要通貨に対する)米ドルが強含みに推移する中でのことだった。10月に入って以来の上昇は、イスラエル・イラン間の軍事的摩擦の高まりという地政学的リスクに加え、米大統領選による政治分断リスクに対するヘッジ買いが主導して高値を更新してきた。

金融市場では米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領が優勢と判断しポジションを構築する動きが見られてきた。いわゆるトランプトレードである。同候補が掲げる減税や関税賦課が財政赤字拡大やインフレ加速につながるとして、米国債は売り優勢の流れが続き、利回りは上昇を続けた。10年債利回りは、11月1日には一時4.397%と7月初旬の水準まで上昇。米長期金利上昇は米ドルを押し上げ、ドル指数(DXY)も7月下旬以来の水準104ポイント台半ばまで上昇した。前述のように週末にかけてNY金は週半ばまでの上げ幅を失った。

こうした中で先週(10月28日週)のNY金のレンジは2,741.80~2,801.80ドルとなった。想定レンジを2,720~2,780ドルとしていたが、2,800ドル近辺に売りが控えるとの想定に立っていた。2,800ドルを意外に軽く突破したものの、やはり高値警戒感が台頭。利益確定の売りが控え、水準を維持できず、前週末の水準に売り戻された。いわゆる「行って来い」という形である。

国内金価格は円安も重なり最高値を更新

一方、国内金価格も先週(10月28日週)はトランプトレードに関連する米ドル高の中で、米ドル/円相場が1ドル=153円台を中心に推移したことから、NY金の上昇に円安が加わり最高値を更新した。

大阪取引所の金先物価格(JPX金)は、週初から3営業日連続で終値ベースの高値を更新、30日の1万3780円が最高値に。取引時間中の高値は31日の1万3819円となった。週足は前週末比225円、1.7%上昇し4週続伸となった。週末にかけてNY金下落の影響は出たものの、円安が下支えした。

想定レンジを1万3250~1万3,650円に置いていたが、実際は1万3309~1万3819円と想定外に上振れた。NY金の2,800ドル超と円安が重なったことによる。

雇用統計を含め米主要指標は手掛かりにならず

中東情勢に米政治分断への警戒という地政学リスクを手掛かりとした買いにトランプトレードによる長期金利と米ドル高が対峙した先週の金市場。こうした中で主要な米経済指標の発表が続いたものの金(ゴールド)の手掛かり材料としては目立たなかった。米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げは、11月を含め仮に経済指標が単月で上下に振れたとしても続くとみられることがある。

実際、先週発表された米主要経済指標はまちまちの内容となった。10月29日に発表された9月の米雇用動態調査(JOLTS)では、求人件数は41万8,000件減の744万3,000件と、2021年1月以来の低水準となった。翌30日に発表された米7~9月期実質GDP(国内総生産)速報値は、前期比年率2.8%成長となった。これは市場予想および前期の3.0%成長を下回ったものの、個人消費が前期比3.7%増と2021年1~3月期以来の伸びとなるなど、強い結果となった。

インフレの注目指標である9月の米個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は、食品とエネルギーを除くコア指数(コアデフレーター)において、前月比の上昇率0.3%と8月(0.2%)から加速した。しかし、総合指数は前年比2.1%上昇と8月(2.3%)から鈍化し、2021年2月以来の小幅な伸びとなったことで鈍化の継続と受け止められた。

最も注目度の高かった10月雇用統計は、失業率が前月と同じ4.1%となった一方、非農業部門雇用者数(NFP)の伸びは前月比1万2,000人増と予想の11万3,000人増を大幅に下回り、2020年12月以来の最小の伸びとなった。

雇用統計発表後、金市場は買いで反応したものの、その買いは続かなかった。ハリケーンやボーイングのストライキなど一時的な要因を映したイレギュラーな結果として消化されたことによる。ただし、8、9月分の雇用者増加数が下方修正されたことは次回の評価につながりそうだ。

今週(11月4日週)の動き:注目は米大統領選の結果とその後の政治情勢 

NY金2,680~2,830ドルのワイドレンジ、JPX金1万3200~1万3600円

言うまでもなく大統領選挙の結果とその後の米政治情勢により値動きが大きくなりそうだ。地政学リスクの中でも政治リスクは数値化が難しく、ファンドのアルゴリズム売買も対応が難しいとされる。したがって金利と米ドルの反応に従った上下動となりそうだ。

開票から次の大統領決定まで相応の時間を有するとの不確実性は、すでに金価格には一定の織り込みが進んでいる。最高値圏で滞留するNY金だが、少なくとも選挙結果が大幅な下げにつながることは考えにくく、上下に振れても高値更新につながるのではとみる。

2016年大統領選でトランプ候補の勝利が確定した際には、米ドル高の中でNY金は4%超の下げとなった。しかしこれは、新興国の中央銀行や個人の買いが現在のような規模に膨らんでいない時代のことで、今回の参考とするには難がある。

11月7日に声明文が発表されるFOMC(米連邦公開市場委員会)については0.25%の利下げは織り込み済みで、目立った材料にはならないとみられる。むしろFOMCも政治動向を分析することになるのだろう。

不確実性が高い中での想定レンジだが、NY金については2,680~2,830ドルの上下に振れる状況を想定している。JPX金については、1万3200~1万3600円とNY金に比して狭いレンジを想定する。これは米ドル/円相場の動きが、米ドル建て金の動きを相殺することを想定している。