2024年8月1日(木)23:00発表(日本時間)
米国 ISM製造業景気指数

【1】結果:製造業景気指数は4ヶ月連続で景気縮小圏に

7月の米ISM非製造業景気指数は46.8を記録し、前回結果・市場予想ともに下回る結果となりました。景気の境目となる50を4ヶ月連続で下回り、米国の製造業は景気縮小圏での推移が続きます。

一方、経済全体では、42.5以上を記録すると一般的に景気拡大とみなされ、今回で51ヶ月連続の景気拡大となりました。

【図表1】ISM製造業景気指数
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【2】内容・注目点: 金融政策や選挙の不透明性から企業は投資に消極的に

そもそもISM製造業景気指数とは

ISM製造業景気指数は、全米供給管理協会が製造業300社以上の仕入れ担当者に生産状況や受注状況、雇用状況等の各項目についてアンケート調査を実施し、その調査を基に製造業全体のセンチメントを指数化した指数です。企業のセンチメントを反映しており景気転換の先行指標とされること、また主要指数のなかでは最も早く発表されることから注目が集まります。

7月結果の詳細・内訳

今回7月の結果は46.8を記録し、前回結果の48.5から下落しました。事前の市場予想では、48.8に小幅改善が見込まれていましたが、結果は市場予想に反して大きく下落となりました。

【図表2】ISM製造業景気指数、各項目まとめ
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

図表2の通り各項目を見ると、総合指数を構成する5要素(新規受注、生産、雇用、入荷遅延、在庫)のうち、入荷遅延を除くすべての項目で50を下回っていることが分かります。

先行指標とされる新規受注は継続して低下しており、需要の低迷がうかがえます。こうした需要の低迷により、企業は生産水準(生産指数と雇用指数で測定される)を大幅に減少させており、総合指数を合計で8.5ポイント下押ししました。

特に雇用指数の低下(49.3→43.4)が著しく、2020年6月以来の最低水準を記録しています。

また、在庫指数(44.5)も低水準で推移しています。報告によると、需要に不確実性があるため、企業は在庫を減らし、顧客から注文があるごとに都度生産を行うという「オンデマンド」体制を敷いているといいます。顧客から注文が増えれば企業は生産を増やすということになりますが、顧客側の在庫指数は45.8と極めて低い水準まで低下しており、顧客の在庫状況は不足していることがうかがえます。この点については、将来の追加受注が見込まれるという意味でプラスと言えるでしょう。

業界別で見ると、6大製造業のうちすべてが縮小を示しました。また45を下回った業界の割合(GDP比)は53%と6月の14%から急上昇しており、製造業全体の景気の減速感が確認できます。

製造業の経済状況に減速感が示された一方で、支払価格指数は52.9となり、前回の52.1からわずかに増加しました(図表3)。雇用が低下している一方で、支払価格指数は上昇となり、「物価の安定」と「雇用の最大化」の二つの責務を抱えるFEDにとってはその両面で悪いニュースとなりました。

【図表3】支払価格の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

企業が投資に消極的な背景とは

上記のように企業が資本や在庫の投資に対して消極的になっている背景には、米連邦公開市場委員会(FOMC)による利下げへの期待があり、利下げが実施されるまで投資に対して消極的になっていると考えられます。また、大統領選挙を控え、政策の方向性が不透明であることが事業計画に影響を及ぼしており、方向性が明確になるまでは大きな費用のかかる決断は控えているものと思われます。

【3】所感:景気後退局面で注目のセクターは?景気サイクルを意識した物色の広がりに注目 

今回7月の米国製造業が予想以上に減速感を示したことで、米金利は低下で反応しました。
インフレ懸念が強く意識され利下げ時期が定まっていなかった時期には、こうした結果は利下げ期待を高めるものとして、株価にはプラス材料と扱われていました(いわゆるバッドニュース is グッドニュース)。

しかし、物価動向が落ち着きを見せ、9月利下げ実施がほぼ確実との見方が広がっている現状においては、むしろ景気後退懸念が強く意識され、米国株式市場は大幅下落となりました。

一方で業種別で見ると、公益事業が2%近く上昇したほか、生活必需品、ヘルスケアも1%以上上げています。一般にこれらのセクターは景気後退に強いとされており、今後景気サイクルを意識した物色の広がりにも注目です。

【図表4】景気サイクルとセクターローテーション
出所:マネックス証券作成

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐