直近の価格動向

前回のコラムから直近(5月10日~22日)のJ-REIT価格は、軟調な動きとなっている。東証REIT指数は5月14日から22日まで7営業日連続で下落し、5月20日以降は1,800ポイント台を割り込む水準となっている。

毎月中旬は、銘柄の決算発表が行われる時期であるがJ-REITは3月/9月決算の銘柄は3銘柄(※)と少なく、業績予想も堅調となっていることから、業績面が価格に影響を与えたとは考えられない。また需給面でも、直近では平和不動産リート投資法人(8966)が増資を公表しているが、調達額は最大で58億円程度であり悪化要因とはなっていない。

さらに、2024年1月から3月中旬までの下落要因となっていた、株式市場の大幅上昇という状態にもなっていない。従って3月中旬から上昇による利益確定や国内長期金利の上昇が影響し、J-REIT価格が下落していると考えられる。

業績への影響は軽微

5月22日に国内10年債利回りが1.00%まで上昇し、2013年5月以来の高い水準となった。借入金による資金調達も行っているJ-REITにとって、長期金利の上昇や新規の調達だけでなく、借換えの金利水準にも影響する。例えば、2023年上半期(1月~6月)の10年債利回りの平均は0.45%(財務省公表資料に拠る)であったため、1.00%の水準が続くと0.55%調達コストに影響することになる。

ただし、2023年後半から長期金利が上昇に転じていたため、既に各銘柄はこれまでより調達期間を短くすることや変動金利で借り入れを増やすことで対応する方針を示している。また、J-REITの平均調達期間は7年を超えており、年間の借り換え額は全借入金の15%以下となっている。

仮に借換えとなる15%分の借入金の調達コストが0.55%上昇したとしても、借入金全体の調達コストに与える影響は0.08%にしかならない。J-REIT全体の借入金比率は45%以下であるが、借入金比率が50%としても保有物件の収益が0.04%増加すれば吸収できる計算になる。そのため、長期金利上昇がJ-REITの収益に与える影響は軽微なものと考えていいだろう。

スプレッドの縮小が価格下落要因とは言えない理由とは

また、国内長期金利の上昇によって、J-REITの利回りとの乖離(スプレッド)が縮小するためJ-REIT価格が下落した、という点も改めて検証すると違うと考えられる。

例えば、5月22日の長期金利1.00%は前述の通り2013年5月以来であるが、月間のJ-REITの平均利回りは3.64%程度であった。スプレッド論で言えば2.64%となっていたが、5月22日のJ-REIT利回りは4.5%を超えており、3.5%を超えるスプレッドになっている。つまりスプレッド論にたつと、投資家は国内10年債利回りの2.00%までの上昇を想定していることになる。

国内10年債のさらなる上昇は想定されているが、少なくとも現時点で2.00%までの上昇は想定されてはおらず、スプレッドの縮小がJ-REIT価格下落の主要因とは考えられない。投資家から見れば、J-REITを売る材料になっているとは考えられるが、利回り面から見ればJ-REIT価格は売られすぎとも言えるだろう。

 (※)ジャパンリアルエステイト投資法人(8952)、グローバル・ワン不動産投資法人(8958)、大和証券リビング投資法人(8986)の3銘柄