先週の動き(ニューヨーク金先物価格):米雇用統計など好材料出るも上値を抑えられる展開
先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週前半に利益確定やポジション調整とみられる売りに大きく水準を切り下げた。米賃金指標の上昇も売りを拡大させ、約3週間ぶりに節目の2,300ドル割れを見ることになった。その後は、米連邦公開市場委員会(FOMC)でのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長によるハト派的発言や予想を下回った米雇用統計など、支援材料の出現にもかかわらず上値は限定的で、週末5月3日は2,308.60ドルで通常取引を終了した。5営業日中4営業日で取引時間中に2,300ドルを下回る時間帯が見られたものの、安値を買い拾う動きが見られ、終値では2,300ドル超に復帰。テクニカル面での悪化は避ける形になった。ニューヨーク金先物価格の週足は、前週末比38.60ドル、1.64%安で続落となった。
先週は、米雇用統計はじめ重要指標の発表が続いたところへFOMCが重なるイベント週となった。メインイベントは言うまでもなくFOMCだったが、注目されたパウエルFRB議長の発言は、事前には直近の発言内容からタカ派的政策方針を示唆するとみられていた。ところがFRBの次の行動が利上げになることについては「ありそうにない」とした。市場に安心感が広がりニューヨーク金先物価格は発言を受け急伸した。しかし、パウエル発言の押し上げ効果は2,339.10ドルまでで、翌日には再び一時2,300ドル割れまで売られることになった。
こうした値動きは翌日の米4月雇用統計の結果を受けた反応でも同じだった。景気動向を敏感に反映する非農業部門の就業者数は前月比17万5000人増だった。伸びは前月から縮小したほか、市場予想の24万人増(ダウ・ジョーンズ調べ)も下回った。失業率も前月の3.8%から3.9%に上昇。労働市場の勢いが鈍化したことが示唆されたことから、市場では利下げ期待が再燃。発表直後のニューヨーク金先物価格は、2,310ドル以下の水準から急伸し、10年債利回りが2週間ぶりの低水準4.449%を付ける中で、一時2,330.20ドルを付けた。ただし、買いの勢いは早々に失速した。戻りを待っていたかのような売りに反落状態となり、そのまま2,300ドル割れに売り込まれる荒れた展開となった。結局、終値は2,308.60ドルと小幅続落で終了した。
結局、先週のニューヨーク金先物価格のレンジは2,285.20~2,358.90ドルとなったが、高値は週初4月29日に、安値は週末5月3日に付けることになった。想定レンジは下値探りを考慮し2,300~2,360ドルとしたが、下値は15ドルほど深くなった。弱めの結果となった米雇用統計を受けた急伸後に急反落し、付けた水準が週足安値となったことに意外感がある。
先週の動き(国内金価格):為替介入と見られるドル円相場の乱高下で大きく変動
一方、日本時間4月29日、5月2日に、政府・日銀による為替介入とみられる動きによって大きく円高に振れた米ドル/円相場に、国内金価格の振れ幅は拡大した。4月29日は160.2円から一時154.4円に、5月2日は一時151.84円まで円高が進んだ。ニューヨーク金先物価格の現在の価格水準(2,300ドル前後)では、1円の変動で国内金価格には74円ほどの変動要因となる。前週の国内金価格は連休で3営業日だったが、5月2日の日中取引は1万1572円で終了。週足は前週末比163円、1.4%安で続落となった。
レンジは1万1428~1万1951円となったが、想定レンジを1万1300~1万1960円としていた。上限の1万1960円に関しては大阪取引所の夜間取引で160円を超える円安に対応して付けたもので、予想時に判明していたもの。先週の国内金価格は安値も連休中に付けており、日本時間5月3日の午後10時台に1万1180円まで下げている。この価格は5月7日の安値として記録される。いずれにしても前週の国内金価格は為替変動がほぼ値動きの背景になったといえる。
2024年も続く中銀による旺盛なゴールド積み増し
国際的金広報調査機関ワールドゴールドカウンシル(WGC)は4月30日に2024年1~3月期需要統計を発表した。総需要は、数値に正確性を欠く店頭取引を除き、1,102トンと前年同期比5%減となった。引き続き欧米投資家によるETF(上場投信)の売りが続いていることが背景となっている。
特筆すべきは中央銀行の買いで、ネットで290トンと第1四半期としては過去最高となったことだ。当欄では3月の中国人民銀行(中央銀行)の買いが5トン台に落ちていることを取り挙げたが(スケールダウンの中央銀行の買い)、全体では記録的規模の買い付けが続いていることが判明した。もともと外貨準備に占める通貨シェアの変更を目的に無国籍通貨とも呼ばれる金(ゴールド)を積み増しており、「戦略的な金準備の積み増し(WGC)」であり、価格水準に無関係で買い進んだとみられる。期中に売却されたETFは113トンだが、そのまま中央銀行の買いで吸い上げられたことになる。WGCは戦略的な積み増しは「今後も止むことはないだろう」としている。
中央銀行による買いは、2022年1082トン、2023年1,037トンと年間1,000トン以上という驚異的なペースが続いたが、2024年も同様のスタートを切っていることが判明した。広く金市場のセンチメントをサポートするものは間違いなかろう。
今週の動き: FRB高官の発言に注目、想定レンジはニューヨーク金先物価格2,310~2,360ドル、国内金価格は1万1180~1万1830円を想定
今週は、「静かなる週(quiet week)」とも表現される、米国関連の主要指標の発表予定がない週だ。ただし、連日FRB高官の講演など発言機会が予定されており、注目が怠れない。早くも5月6日には注目発言が飛び出している。リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は、高金利が景気を一段と鈍化させ、インフレを当局目標の2%に向かって減速させるとの見解を示した。「金利上昇の本格的な影響はこれから現れる」としている。バーキン総裁は、2024年のFOMCでの投票権を有している。一方、同日、NY地区連銀のウィリアムズ総裁は、利下げはいずれ実施されると発言。次の動きが利下げとなる可能性が高いという認識を示した。直近の発言では、状況により利上げも否定できないと発言し市場の警戒感が高まった経緯がある。
今後の予定では、5月7日のミネアポリス地区連銀カシュカリ総裁、同9日のサンフランシスコ地区連銀デイリー総裁などの発言に注目している。米国関連の注目指標としては、来週5月15日に4月の消費者物価指数(CPI)が控える。地政学リスクとしては、イスラム組織ハマスとの停戦協議をイスラエル側が拒否したことが挙げられる。ガザ地区南部ラファへの侵攻が迫っていると伝えられている。
こうした中で今週の想定レンジはニューヨーク金先物価格が2,310~2,360ドル、国内金価格はすでに連休中の時間外取引にて1万1180円と当面の安値が出ていると見て、1万1180~1万1830円を想定している。国内金価格は、引き続き値動きが大きくなる可能性を見ている。先週ニューヨーク金先物価格が2,300ドル台を維持したことから、2,300ドル台での値固めの展開をみている。