先週の動き:国内外価格ともに週末を含め連続的に最高値更新 中東情勢を受けた売りで上昇一巡の可能性

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、前週との比較ではやや値動きのパターンに変化は見られるものの、引き続き上値追いの流れを継続した。週央4月10日に発表された3月米消費者物価指数(CPI)が、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げのタイミングを測るうえで注目されていた。ところが、前月比での伸びが3ヶ月連続で市場予想比上振れとなったことから、FRBによる早期の利下げ観測は大きく後退。前日まで7営業日連続で史上最高値を更新していたNY金だったが、反落した。それでも先週は、5営業日中4営業日で終値ベースおよび取引時間中の市場最高値を更新した。前週に発生していた、在シリアイラン大使館へのイスラエルの空爆に対し、イラン側の報復攻撃の可能性が報じられた4月12日には、初めて2,400ドルを突破。NY時間の午前11時過ぎに一時2,448.80ドルまで付けたものの、終盤に向け過熱警戒から利益確定の売りが幅広く出たために、大きく上げ幅を削って終了。それでも終値2,374.10ドルは高値更新となった。

先週のNY金の週足は、前週末比28.70ドル、1.22%高の3週続伸となった。レンジは2,321.70~2,448.80ドルとなったが、前回コラムで予想レンジとした2,320~2,390ドルの上限を60ドルほど上振れることになった。言うまでもなく、イランによる対イスラエル報復攻撃の可能性という地政学イベントに反応したもので、こうした折に安全資産としての側面からゴールドは買われる。イスラエルによるイラン大使館空爆以来、NY金の買い手掛かりとして存在感を高めていた中東情勢の緊迫化だが、12日の急騰で表面化し、目先の材料出尽くしの印象となる。3月以来、FRBの利下げ転換など金融マクロ環境の変化や中央銀行の買いという内部要因を手掛かりとした上昇が続いて来たが、中東情勢流動化に反応というイベント型上昇で一巡ということになった。先週、本コラムのタイトルを「目先の転機到来も」としたが、流れとしてはそのような結果となった。

一方、円建て国内価格は大きく続伸した。介入警戒から1ドル=151円台でこう着状態にあった米ドル円相場が、米利下げ先送り観測の中で円売りが優勢になったことで、ドル建て価格上昇に円安要因が上乗せされることになった。岸田首相が訪米中という事情から為替介入が難しいタイミングを突いての円安は、一時153.39円と34年ぶりの水準まで進むことになった。その結果、先週の国内金価格は5営業日中4営業日で史上最高値を更新。4月12日の終値1万1762円、取引時間中の高値1万1795円ともに史上最高値となった。週足は前週比683円、6.1%高で8週連続上昇と過去最大を記録。2月16日から4月12日まで2,081円、21.5%の上昇となった。なお、10%の消費税を乗せた形で発表される現物の店頭小売価格は4月12日、1万2900円台半ばとなり1万3000円に接近した。

金市場でも使われ始めた「FOMO」の表現

先週4月9日までは8営業日連続で最高値更新が続いたNY金。いかにも過熱を思わせるものの、実際の値動きは高値圏特有の乱高下が見られることもなく静かな展開で、淡々と高値を刻んでいく流れとなっていた。欧米の市場関係者の中には「FOMO」という表現を使う向きも現れている。「Fear of missing out」の略で「乗り遅れることへの恐怖」を表す。一般的に3月まで連続的に史上最高値を更新していた米国株式市場で、上昇の背景として運用担当者の心理状態(買いそびれることへの恐怖)を指摘する際に使われていた表現だった。運用対象として決してメインストリームとは言えない金(ゴールド)にも、同様の解釈が現れている。それだけ、今回の金相場の上昇継続は想定外ということだろう。小規模なものでも押し目(下げ局面)が、エントリーポイント(新規買いポイント)と指摘されてきただけに、上昇に一巡感が出始めている今週の動きが注目される。

スケールダウンの中央銀行の買い

ここまでの上昇過程で、中央銀行による継続的な買いがデータで示されたことも、市場の強気をサポートしてきたが、さすがに2023年末から水準を大きく切り上げただけに、やや陰りが出ているようだ。

ロンドンに本部を置く、ゴールドの国際的な調査機関ワールドゴールドカウンシル(WGC)が発表したデータでは、2月の購入量は19トンとなっていた。1月の45トンから落ちており、1~2月の計64トンは前年比では43%減となる。買いが継続していることが、足元の金市場では評価されているが、3月の相場急騰の中で買いの規模はどうなるかが注目される。先行して4月7日に中国人民銀行が発表した3月の外貨準備の内訳によると、ゴールドは約5トン増となっていた。メディアは17ヶ月連続増を大きく報じるものの、少なくとも10トン台で推移していたことから、ペースは明らかに落ちている。外貨準備の構成比率の見直しとはいえ、今回の急騰相場の中で、4月以降どう変化しているか興味深いところであるとともに、注視している。4月のデータは5月初めには入手できる見通しだ。

今週の見通し:中東情勢の動向が注目点も上昇一巡を読む 想定レンジはニューヨーク金先物価格2,340~2,390ドル、国内金価格は1万1360~1万1950円

今週は米国関連の経済指標は住宅関連のものが予定されているが、現在の金市場を見る上では重要度は低い。なお今週も、FRB高官の発言機会があり、4月15日のサンフランシスコ地区連銀デイリー総裁、18日のNY地区連銀ウィリアムズ総裁の発言に注目したい。いずれも足元で利下げは急がないとの内容になると思われるが、個々で温度差がある。

このような環境の中では、中東情勢が最大のポイントとなる。イランによるイスラエル攻撃だが、指摘されるように国内で高まっていた不満を抑えるため、イラン首脳部の内政対応とみられる。現時点で攻撃継続の動きは見せていない。問題はイスラエル側の応戦の有無に絞られることになる。米国を含む同盟国は、イスラエルが自制し、事態をさらにエスカレートさせないことを望んでいる。指摘するならば、イラン本土からの直接攻撃はある種一線を越えたわけで、当面は沈静化しても、今後の展開に影響を与える可能性はありそうだ。週明け4月15日の市場に、目立った動きは出ていない。一般にイベント反応型の急騰は、事態の進展を先読みすることで急速に織り込み、沈静化する。ただし、こうした地政学リスクは数値化が難しいことから、ファンドも対応に苦慮しているのは確かで、起きたことに事後的に反応することになる。

今週の想定レンジは、ニューヨーク金先物価格が2,340~2,390ドル、国内金価格はすでに週末4月12日の夜間取引にて1万1950円が出ていることから、この水準を高値として1万1360~1万1950円を想定する。つまり下押しを読んでいる。

【図表】金 縦軸:円建て金/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券