先週の振り返り=日米韓財務相声明で介入警戒感が再燃

先週の米ドル/円は153円台での取引開始となりました。しかし、4月15日(月)に発表された米3月小売売上高が予想より強い結果となり米金利が大きく上昇したことから、154円台へ一段高となりました。その後、17日(水)に日米韓の財務相会合が開催され、円安とウォン安に「深刻な懸念」を示す共同声明が発表されて米ドル売り介入への警戒感が再燃。米ドル上値の重い展開となりました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2024年3月~)
出所:マネックストレーダーFX

米ドル売り介入については、米ドル/円が長く続いた小動きのレンジを上放れ、152円を大きく上回り始めたところですぐにも行われるとの見方がありました。しかし結果的には、155円に肉迫するまで米ドル高・円安が続いたにもかかわらず、先週まで介入は実施されなかったようです。その「謎」を解くカギは、先週の日米韓の財務相会合にあったと思います。

2022年の円安阻止介入は、日本単独で行われたものでした。そのため、今回も当初は日本単独での円安阻止介入が想定され、その場合は2023年までの高値を更新、152円を超えればすぐに米ドル売り介入が行われた可能性が高かったのではないでしょうか。

ただ韓国でも、2024年に入ってから米ドル高・韓国ウォン安が問題になってきたことから、日韓で自国通貨安阻止での協調といった考え方が浮上してきた可能性はありそうです。

折しも、4月10日に行われた韓国の総選挙でユン大統領の与党は大敗を喫し、ユン政権の親日政策姿勢が変更を余儀なくされるとの見方も浮上していました。今回の為替政策を巡る日韓協調は、そうした見方と逆行するものでした。日韓の友好関係の有効性を示す狙いから、敢えて日本単独の円安阻止から、日韓協調の自国通貨安阻止、それに米国も連携する形に変更したということではないでしょうか。

そうであれば、それを確認する日米韓の財務相共同声明発表まで日本単独の円安阻止介入は基本的に控える必要があったでしょう。その上で、4月17日の共同声明発表により、円安阻止のための米ドル売り介入は日本単独または日韓協調という形で、いつ実施されてもおかしくない段階になっているのではないでしょうか。では、実際に円安阻止介入が実施された場合、それで円安は止まるのでしょうか。

円安阻止介入で円安は止まるのか?

CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円売り越し(米ドル買い越し)は先週16万枚以上に拡大しました。これは、2022年9月から約1ヶ月円安阻止介入が実施された時より、足元の円売り越しが倍近くにも拡大しているという意味になります(図表2参照)。

【図表2】CFTC統計の投機筋の円ポジションと米ドル/円(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

投機筋が極端に米ドル買い・円売りに傾斜している中では、さらなる米ドル買い余力は限られ、むしろ損益確定売りに転換しやすい状況にあると考えられます。そのため、米ドル売り介入で米ドル高・円安は止まる可能性が高いのではないでしょうか。2022年の円安阻止介入は3回行われましたが、全てその日のうちに最大で5円前後の米ドル急落となりました。今回155円前後で米ドル売り介入が実施された場合、その日のうちに米ドルは150円前後に急落する可能性があるでしょう。

鍵を握るのは「米利下げの可能性」が現実的になること

私は、為替介入により円安は止まり、150円以下へ円高に戻る可能性はあると思います。ただし、さらに145円を割れて一段と米ドル安・円高に向かうためには、日米の大幅な金利差米ドル優位・円劣位が縮小に向かう見通しが必要になるでしょう(図表3参照)。そして、その鍵を握るのは米利下げの可能性が現実的になることに尽きると言ってもよいと考えています。

【図表3】米ドル/円と日米10年債利回り差(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

その米利下げについては、最近にかけて期待の後退が顕著で、「2024年中に3回」との見方から「1回あるかも微妙」な感じになってきたようです。こうした中で、利下げ期待も一因となり、さすがに短期的な「上がり過ぎ」懸念が強くなっていた米国株も最近にかけて反落が広がってきました(図表3参照)。この株安の動きこそが、この先米利下げが現実的になるかどうかの鍵を握っているのではないかと思います。

【図表4】NYダウの推移(2023年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

株安の動向が手掛かりに

株価は基本的に景気の先行指標の1つです。3月末まで株価の高値更新が続いたということは、景気の先行き減速を全く想定しなかった動きと言えるでしょう。そうした中での利下げ期待こそ不自然だったのではないでしょうか。

NYダウは3月末に記録した高値から、先週にかけて5%以上の反落となりました。この下落率がさらに1割を大きく超えて拡大に向かうようなら、2023年7月の「最後の利上げ」以降では最大の株安ということになります。それは景気の先行指標という株価の動きとしては、景気減速を先取りしている可能性があるでしょうから、その時初めて米利下げに現実味が出てくるでしょう。それこそが、日米金利差の本格的な縮小に伴う一段の米ドル安・円高見通しの手掛かりになるのではないでしょうか。

今週の注目点=日銀会合、1~3月米GDP発表

今週は、4月26日に日銀の金融政策決定会合が予定されています。また米経済指標発表では、1~3月期の実質GDP伸び率・速報値やFRB(米連邦準備制度理事会)が注目するインフレ指標、PCEコアデフレータの発表などが特に関心を集めそうです。

そうした中でも米ドル/円の行方は、円安阻止介入との攻防が最大の焦点になるのではないでしょうか。すでに述べたように、155円前後で米ドル売り介入が実施される可能性が高く、その場合米ドルは急落する可能性がありそうです。今週の米ドル/円予想レンジは150~155.5円で想定したいと思います。