先週の動き:早期利下げ観測後退の一方で中東地政学リスクの高まり。ニューヨーク金先物価格は2,020ドルを中心としたレンジ相場、国内金価格も日銀政策変更なしで小動き
先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は2,020ドルを中心に上下15ドルほどのレンジ内での推移となった。1月26日のNY金は2,017.30ドルで終了したが、週足は前週比12ドル、0.6%の続落となった。
市場のみならず米連邦準備制度理事会(FRB)など金融当局も政策決定で重要視するインフレ指標(個人消費支出物価指数、PCEデフレーター)の発表があり、引き続きインフレは終息傾向にあることが確認された。
ただし一方で、予想以上に好調な個人消費を背景に、2023年10~12月期実質GDP(速報値)が市場予想2%に対し3.3%の伸びとなるなど、米経済の堅調さがデータにて示されたことから、引き続きFRBによる2024年3月を含む早期の利下げ観測は後退し、金の上値を抑えた。
このようにFRBの政策転換を中心に金融環境が転換期にあることは金の大きな変動要因となっているが、中東情勢を中心に地政学的緊張が続いていることは、一定のサポート要因として機能している。
イランの支援を受けたフーシ派による紅海における一般船舶への攻撃に対抗し、米国と英国によるフーシ派拠点に対する先制攻撃も開始されるなど、紛争地域拡大への懸念も高まっている。
先週のNY金のレンジは2,004~2,039.30ドルとなったが、安値となった2,004ドルに関しては、後述するようにフラッシュトレードのような形で瞬間的に付けた価格で、実際の取引は少なかったと思われる。先週のコラムで想定レンジを2,015~2,060ドルと高めに読んでいたのは、インフレの沈静化を読んでのものだった。前月比2カ月連続プラスとなった前週発表の2023年12月小売売上高同様、先週も堅調な経済指標を受け米長期金利が上昇し、ドル指数(DXY)も上昇したことが、上値を抑えることになった。
一方で、国内金価格は1月22~23日に開かれた日銀の金融政策決定会合にて、予想通り政策変更は見られなかったことから、週足で大きな変化は見られなかった。植田和男総裁は会合後の記者会見で、2%の物価目標見通しの実現の確度は「少しずつ高まっている」としたものの、為替相場の動きは比較的小さかった。1月23日のドル円相場は、東京時間に一時147円割れを試したものの、NY時間には再び前日の水準の148円台半ばに押し戻されたが、おおむね147円を挟んだ値動きだった。国内金価格は、ほぼNY金の値動きに沿った展開となった。週足は前週比55円、0.57%安の9611円で終了。レンジ9,522~9,701円となったが、先週のコラムでの想定レンジは9,550~9,750円としていた。
堅調な個人消費を背景に想定外の高成長が続く米国経済
FRBによる早期利下げの有無や、利下げを開始した場合の利下げ幅の手掛かりを得ようとしている市場。1月25日は、その中でも注目指標となる米国の2023年10~12月期実質国内総生産(GDP)速報値が発表された。結果は市場予想前期比年率2%の伸びを大きく上回る3.3%の伸びとなった。
2023年10~12月期実質GDP速報値の予想比上振れ(予想2.0%:結果3.3%)は、2.8%増えた個人消費の伸びによる。成長率は全体でみると2023年7~9月期の4.9%から鈍化したが3.3%成長となったことで、2023年通年の成長率は2.5%となった。もともと、昨年初めにはFRBによる歴史的な利上げの影響で多くのエコノミストが景気後退(リッセッション)を予想していたが、まさに米国の独り勝ちともいえる成長となった。
成長率上振れの米GDPに反発したNY金の「なぜ?」
想定を大きく上回る経済の強さは、FRBが利下げを急がないことを示唆するが、GDP統計発表を受けた金市場の反応は上昇だった。
NY金はGDP統計発表直後にフラッシュトレードのような形で予想外の3.3%成長に対する反射的な売りが出て2,004ドルまで急落。しかし、直後に鋭く反転し、そのまま売り買い交えながら2,025.60ドルの高値まで上昇したが、終盤はさすがにFRBも利下げに慎重姿勢を取らざるを得ないとの見方もあり、上げ幅を削り25日は前日比1.80ドル高の2,021.00ドルで終了した。
なぜ金は、こうした景気の上振れを示す指標に上昇で反応したのか。本来であれば、一向に冷えない景気に対し、インフレの再燃を警戒するFRBゆえに2024年3月利下げ観測は完全に消え、金は大きく売られる内容といえるもので、2,000ドル割れが起きても不思議はないGDPの結果だった。
それはGDP統計に付随して発表された2023年10~12月期の個人消費支出(PCE)物価指数(デフレーター)が落ち着いた内容だったことによる。(変動の大きいエネルギーと食品を除いた)ベース(コアPCEデフレーター)で前期比2%のプラスとなり、2四半期連続で物価目標を達成したことによる。
その一方で、現行の政策金利は2023年9月のFOMC(連邦公開市場委員会)以降据え置かれ、5.25~5.50%となっている。FRBが見る基調的なインフレが2%の目標に落ち着いたとなると、実質金利は非常に高く、景気には効きすぎの水準といえるため、遅かれ早かれ引き下げる必要があるというわけだ。
足元で、パウエル議長やウォラー理事、ウィリアムズNY連銀総裁などFRB中枢部で行われている議論がこれで、今回のGDP速報値は表面的な高成長率の裏で、今後のFRBの利下げへの政策転換を示唆したといえることから、NY金は下げず、小幅ながら反発となったのだと思う。
なお、1月26日には2023年12月のコアPCEデフレーターが発表され前年同月比2.9%上昇と3%割れとなった。伸びは2023年11月の3.2%から縮小し、2021年3月以降で最小となった。ただし、前日のGDPに付随して公表されたデータに対し、いわば2番煎じという印象で市場の反応は限られた。
今週の見通し:連邦公開市場委員会(FOMC)でのパウエルFRB議長発言、中央銀行による購入データに注目。想定レンジはNY金が2,010~2,050ドル、国内金価格は9,550~9,750円
今週は連邦公開市場委員会(FOMC)が、1月30~31日の2日間の日程で開かれる。FRBとしてもインフレの鈍化が続いていることから、政策方針は利下げ方向を念頭に置いているとみられる。
ただし、個人消費の強さや株高が続いていることから資産効果など、センチメント面で消費をさらに刺激し、インフレ再燃に至ることへの警戒を解けないでいる。議論は利下げの有無でなくタイミングに移っており、これまで通り「データ次第」という表現が繰り返されそうだ。
今回の会合が2024年3月利下げへの序曲になるとは思えないものの、パウエル議長が記者会見にてインフレ鈍化による実質金利の上昇をどう判断していると述べるか注目したい。他にも重要指標の発表があり、1月30日(火)の雇用動態調査(求人件数)、1月31日(水)四半期雇用コスト指数、そして2月2日(金)の1月雇用統計と続く。
金市場の内部要因では、2023年10~12月期の世界需給のデータが1月31日に公開される予定となっている。その折に2023年10~12月期および2023年通年の中央銀行(公的購入)のデータが注目される。極端な数字にならない限り、結果はすぐに価格に影響しないものの、市場センチメントを通し方向を左右することになりそうだ。個別には中国国内の金需要の高まりがデータに現れそうだ。
今週はNY金が2,010~2,050ドル、国内金価格が9,550~9,750円を予想している。