先週の動き:米労働市場の軟化を示した指標にニューヨーク金先物価格週足は続伸。一方、国内金価格は連日の過去最高値更新

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週足で2週連続の上昇となった。米連邦準備制度理事会(FRB)の今後の政策方針を読む上で、重要指標の発表が続いた先週の市場。まず前週まで目立っていた米長期金利の上昇が一服となり、金市場は買いが先行する流れとなった。

先週末9月1日のNY金の終値は1,967.10ドルと1.20ドルの小幅高で終了。週足では27.20ドル、1.4%の上昇となった。先週は週末9月1日発表の8月の米雇用統計を筆頭に労働市場関連の注目指標の発表が続いた。総じて労働市場の需給が緩みつつあることを示したことから、FRBによる追加利上げ観測は後退することになった。

8月29日に発表された7月の雇用動態調査(JOLTS)では非農業部門の求人件数が882万7,000件と、2021年3月以来の低水準となった。市場予想(946万5,000件、ダウジョーンズ調べ)を大幅に下回った上、6月(916万5,000件)からも大きく減少した。自発的な離職者の比率を示す退職率が2.3%と、2021年1月以来の低水準となった。足元で別の仕事を探すのをためらう人が増えていることを示唆する。

翌8月30日は企業向け給与計算サービスのオートマチック・データ・プロセッシング(ADP)が発表した8月の全米雇用報告によると、民間部門雇用者数は17万7,000人増加したものの、市場予想(20万人増、ダウジョーンズ調べ)を下回った。この5ヶ月で最も少ない増加数になった。

このような中、9月1日に発表された8月雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)が18万7,000人増加と市場予想(ダウジョーンズ)の17万人増を上回った。一方、失業率は3.8%で7月の3.5%から上昇し、2022年2月以来の高水準になった。さらにインフレ関連で注目の平均時給は前月比0.2%上昇と、伸びは2022年2月以来の小ささだった。

前日までに発表されていた指標がいずれも米労働市場の軟化を示したこともあり、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げは見送られるとの見方が織り込まれることになった。

9月1日のNY金は雇用統計を受け一時1,980.20ドルと8月7日以来約4週間ぶりの高値を見たものの、レイバーデーの3連休前ということから、ポジション(持ち高)調整の売りに上昇幅を削って終了した。先週のコラムでレンジを1,940.10~1,980.20ドルと想定したNY金は、1,935~1,975ドルに沿ったものとなった。

その一方、先週の見通しで過去最高値の更新を想定し8,900~9,150円とした国内金価格だが、まず大阪取引所の先物価格(国内金価格)は、8月25日以降5営業日連続で過去最高値の更新となった。先週のコラムで解説した国内金価格のレンジは、8,942~9,131円とこちらも想定レンジにほぼ沿ったものとなった。国内金価格の1日の終値は9,071円で週足は91円、1.0%高となった。

NY金が前述のように水準を切り上げる中で、米ドル/円相場が8月29日に一時147.36円と2022年11月以来の円安水準を付けるなど、概ね146円台で推移したことから、最高値の更新が続いた。

一方で、先週は10%の消費税込みで表示されることが多い現物の店頭金小売価格だが、8月29日には初めて1万円台に乗せ、広くメディアで報じられ話題を集めた。こちらも8月25日以降5営業日連続で最高値の更新となった。

ほどほどの内容の8月雇用統計、タカ派、ハト派双方に好都合

8月25日に米ワイオミング州で開かれた恒例の金融シンポジウム「ジャクソンホール会議」ではパウエルFRB議長の講演が注目されたが、前後して複数のFRB高官の発言が伝えられた。依然として見解は分かれており、その溝を埋めるのが発表される現実のデータとなっている。

パウエルFRB議長は、インフレ率について「依然として高すぎる」と指摘した上で「適切ならさらに利上げする用意がある」としながらも、今後のデータ次第では利上げ見送りもあると従来の主張を繰り返した。

その前後の他の関係者の発言を拾うとインフレは依然として高過ぎ「恐らくやるべき仕事はもっとあるだろう」(クリーブランド連銀メスタ-総裁)とする一方で、金利に関して「恐らく十分なことをした」(フィラデルフィア連銀ハーカー総裁)と引き締め過ぎを警戒する声も少なくない。

金融政策は一定の時間差(ラグ)で実体経済に影響を与えることは誰もが認識していること。ただし、足元の政策金利の水準がすでに過大な水準に至っているのか否かを見極める基準はなく、FRBも判断に迷っている。それが“表れるデータ次第の”政策決定方針に姿を変えている。

タカ派的な発言、あるいはハト派的な発言双方で共通するのは、22年ぶりの高水準となった現在の5.25~5.50%の水準を当面維持し、様子を見ようということのようだ。タカ派と目される高官にしても、やり過ぎることを警戒しており、その点で先週の8月の雇用統計が、ほどほどの好調さと、ほどほどの鈍化を示したことは、双方ともに受け入れやすい結果になったとみられる。

NY金、ファンドの買いが復活傾向

先週のコラムでは今週の見通しを示す際に、米商品先物取引員会(CFTC)の週次の発表データを取り上げ、ファンドの買い越し残が大きく減少していることについて解説した。先週末発表された8月29日時点のデータでは、その買いが復活傾向にあることが伺えた。

とりわけマネー・マネジャーと分類される商品投資顧問業者(CTA)など目先のトレーダーのネット買いポジションが、前週の重量換算79トンから180トンに大きく増加していた。雇用動態調査の結果が発表されたのが8月29日だが、FRB利上げサイクルの終了を見込んでの動きが始まっている可能性がありそうだ。

今週の見通し:FRB高官の発言に注目。NY金は1,960~2,000ドル、国内金価格は8,980~9,180円を想定

注目指標目白押しの先週に比べ、今週は経済指標の発表という面では一巡感がある。次回のFOMCを9月19~20日に控え、今週はFRB高官の発言機会が多く予定されており、先週の労働指標の結果を受け、どのような変化が見られるか注目したい。

そのような中、9月6日に地区連銀経済報告(ベージュブック)と8月ISM非製造業景況指数が発表される。今週は9月4日が米国のレイバーデーということで祭日となるが、この3連休明けに金市場で目立った動きが出ることが多いのが経験則と言える。

ファンドにも動きが出始めていることから、NY金は上昇傾向が感じられる週になりそうだ。レンジについて、NY金は1,960~2,000ドル、国内金価格は高値更新を含む8,980~9,180円を想定している。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券