マネックス証券の投資教育部門であるマネックス・ユニバーシティでは、現役の中学生、高校生の皆さんから、お金にまつわる素朴な疑問・質問を募集。それに答えることで、お金のことをわかりやすく解説する『世界を知る大人になるための本気の「お金」授業』を連載しています。

第6回目となる今回は特別編として、豊富な課外授業をもとに多様な学びを展開する学校法人角川ドワンゴ学園(N高等学校・S高等学校、以下N/S高)の「投資部」部員にインタビュー。村上世彰氏が特別顧問を務める投資部では、村上財団や学園から提供された20万円を運用資金として、実践的に投資を行っています。富田さん(高校3年)、古賀さん(高校2年)、2人の現役高校生が試行錯誤しながら見つけた投資の魅力や気づきなど、高校生投資家のリアルな声をたっぷりお届けします。

子どもからの影響で、両親も投資をスタート

――N/S高の投資部に興味を持ったきっかけや理由を教えてください。

富田さん(高校3年)

富田:もともと祖父が銀行の産業調査部に勤めていた影響で、小学生の頃から経済に興味がありました。退職後に始めた投資の話を聞くのも珍しいことではなく、株主優待の商品をよく一緒に食べたりしていました(笑)。そんな環境で育ったこともあり、N/S高を希望する理由の1つに投資部の存在がありました。資金を実際に運用していくという投資部の実践的な内容に、入学前からとても魅力を感じていたのです。

古賀:私は資本主義の制度に興味があり、資本主義を体感的に学びたいと思ったのが入部の理由です。資本主義がもたらす影響について偏った知識や情報しか得ていないのではないか…という気持ちがだんだん芽生えてきて、も   っとフラットな視点で見つめたいと思い投資部を希望しました。

――ご両親は投資部への入部や活動について、どんな感想をおっしゃっていましたか?

古賀さん(高校2年)

富田:両親はそれまで投資を行っていなかったのですが、僕の影響で投資をスタートしました。また、投資部はゼミなどを含め非常にユニークな学びの機会なので、僕自身も部活動を通じて自信を深めたようだねと言われました。

古賀:私が経済に興味を持っているのを知っていたので、「いいんじゃない!チャレンジしてみたら」と言ってくれました。ただ、投資部は入部希望者が多く、審査が通った生徒のみしか入部できないので、私が入部できると知ったときは驚いていました(笑)。これまで家で投資の話をすることはほとんどなかったのですが、今は両親も株式投資に興味を持つようになり、投資を始めています。

買い時・売り時、下落要因の見極めに悩む

――投資部の活動で、難しかったことはどんなことでしょうか?

富田:買い時、売り時を見極めることが最も難しかったです。保有銘柄の株価が下がったとき、自分が購入時に上がると判断したのが正しいと捉えてしばらく保有するのか、損切りをして損失を確定するべきか。そこにマーケット動向や日経平均の値動きなども絡んでくるので、難易度が高かったです。

古賀:難しいことはたくさんありましたが、株価の下落要因を考えるのがとても大変でした。昨日まで上がり続けていた株が、翌日、急に下落したことが何度もあったのです。その度に原因を探りましたが、様々な要因が絡み合って正解が出ないこともありました。今でも明確には要因がわかっていません。

ただ、投資部でグループごとに進捗や情報を共有する時間があります。そのときに、みんなに相談したり、アドバイスをもらえたのはよかったです。他の部員の株の情報を聞いているうちに「もしかしたら、これが要因なのかな?」とヒントが見つかることもあり、1人で考えているよりグンと視野が広がりました。

PERやPBRを使った投資や、短期勝負の業界に絞って成績アップ

――銘柄選定はどのように行いましたか?

富田:デイトレードで数時間単位の値動きのみを考えて投資したこともありましたが、最も多くの利益を上げられたのはPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)の低さを判断基準にして銘柄を選定した時でした。また、出来高の多さも重視しました。購入後に株価が下がった場合でも出来高が多ければ反発する可能性が高いのに対し、出来高が少ない株はだらだらと下がり続ける場合が多いと、実践を通じて失敗しながら学んだからです。

古賀:入部当初は、好きな業界や興味のある業界の中から決算書を見比べ、業績の上がっている会社の株式に長期的に投資をする、という方針で進めていました。ただ、投資部の活動は約8ヶ月間なので短期投資でないと難しいと感じるようになり、伸びそうな業界の中から株価チャートをもとにスクリーニングする方針に変えました。

――銘柄選定の方針を変えてから投資成績は上がりましたか?

古賀:私がこの方針に変えたのは活動期間の最後の方だったのですが、ちょうど有志が集まる自主ゼミでコンビニ業界についてリサーチしているときでした。小売り業界は短期間の勝負に向いているのではないか気づき、それからは確率的にすごくうまくいくようになりました。

――富田さんは投資部3期・4期と参加した中で、4期目には投資成績ナンバー1(部員約100人中)になられたそうですね。秘訣を教えてください。

『インベスターZ』の作者、三田紀房氏が書き下ろしたN/S高投資部のキービジュアル ⒸNorifusa Mita/Cork

富田:株価が上がる理由を自分なりにしっかり考えて売買できたことが一番の要因だと思います。僕の投資成績は前半にかなり伸び悩んだのですが、PERやPBRを判断基準にした投資に切り替えてから、かなりうまくいくようになりました。

――投資に関して、他の部員と話してヒントを得たことはありましたか?

僕は投資そのものに関して部員のみんなと話す場面は少なく、どちらかと言えば1人で考えて答えを探すタイプです。仲間とは気になる世界情勢などについて話していました。

――お2人が投資にかけた時間はどのくらいでしたか?

富田:2週間に1回程度、2時間くらいかけて、スクリーニング機能などを使って集中的に銘柄を探したり、条件に合うものを取引したりしていました。それ以外はその日の株価の値動きを10分程度見ているだけでした。

古賀:私は1週間に2~3時間、銘柄リサーチなどをしていました。

「別の銘柄で取り返す」マインドで損切り

――投資における成功談や失敗談についてお聞かせください。

富田:成功例としては、サツドラホールディングス(3544)の株式があります。2022年12月中旬、中国でゼロコロナ政策への抵抗が大きくなり、政策転換の可能性が高まってきた際、中国人観光客が再び日本を訪れるのではないかと考えました。一時期話題になった「爆買い」について調べると、ドラッグストアが好まれるとわかり、自分が購入できる価格で期待が持てたサツドラホールディングスの株式を購入しました。

株価は上がり続け、1週間で10%上昇。過去のチャートから、長期的なレジスタンスラインに達したと判断した時点で利益を確定しました。

一方、失敗だったと思うのは、価格も手頃で割安であり、上昇にも期待して2022年10月末に購入した建設会社の株式です。購入後、少し上昇した後に停滞したのですが、さらに業績予想の下方修正で株価が一気に15%以上下落しました。再度、上昇するのではと期待を持って保有し続けましたが、2ヶ月近く含み損を抱え、結局約10%の損失を出しました。業績予想の理由や程度を精査し、無駄に持ち続けないことも必要だと思います。

古賀:私は損切りに失敗し、損失がどんどん膨らんでいくという経験をしました。株を買う前に、どのくらいの期間保有し、どの程度の損益が出たら売るのかということを決めていても、いざ株を持つとその決意が揺らぎ、結果的に損失が出るという経験を繰り返してしまいました。

ただ、「別の銘柄で取り返すことができればいい」というマインドに変わってから、5%を目安に損切りできるようになりました。

村上世彰氏の教えは「とにかく自分で考えろ」

――村上世彰さんの講義で心に残るアドバイスなど印象に残っていることを教えてください。古賀:初めて村上さんの講義を受けたとき、金利についてお話されていたのですが、本当に難しくて、何を言っているのかほとんど分かりませんでした。このままでは投資部についていけないかもしれないと焦り…。それから数ヶ月して、円安の講義を受けていたとき、村上さんのお話を理解できている自分に気づきました。必死で食らいついて自分で調べたり勉強したりしているうちに、成長できていたのだと嬉しかったです。

特別顧問を務める村上世彰氏の講義

富田:僕は村上さんの「とにかく徹底的に自分で考えることが重要だ」という言葉がとても印象に残っています。「投資部の目的は学びを得ることだから、機械的に投資を行うのではなく、とにかく考えなさい」と。この言葉は今もずっと大事にしています。

――投資を通じて自分の新たな一面に気づくことはありましたか?

富田:株価が下がっても「また上がるんじゃないか」と望みをかけて長く持ってしまう場面も多く、損切りできない自分に、改めて優柔不断な性格だと気づかされました(笑)。

古賀:その気持ち、すごく分かります(笑)。私は自主ゼミでコンビニ業界について調べた際に、自分の身近なものでも知らないことがたくさんあるのだと気づかされたのが、大きな発見でした。知っていくことが楽しい、身近に潜んでいる課題などももっと発見していきたいという自分の関心に気づくことができました。

――投資を始めたことで、日常生活にどんな変化がありましたか

古賀:投資部に入ってから日経新聞を毎日読むようになりました。もともと自宅では地元の新聞を購読していたのですが、両親に頼んで日経新聞に変更してもらいました。社会での出来事が株価に大きく影響するので、これまで遠く感じていた政治や経済のニュースも欠かさずチェックするようになりました。

外出先でも、企業広告などに興味がいくようになり、野球の試合を見に行った際にドームに並ぶスポンサー企業の名前を見て「どういう会社だろう」と調べたりしていました。

富田:僕は統計検定を受けて3級に合格しました。これは投資部での運用資金の増額を依頼する面接対策のために始めたのですが、受験勉強を頑張って合格し、運用資金20万円から50万円への増額もパスできました。これは大きな成功体験となり、日常においても1つの目標を自分で設定して、それを達成することによってより大きな目標の達成に繋げることをいろいろな場面で意識しています。

「投資は知的で楽しいもの」学生時代こそトライアンドエラーを

――投資の魅力、高校生が投資を学ぶメリットをどう考えているか教えてください。

富田:投資は「知的な活動」だと思います。自分の仮説通りに株価が変動するわけではありませんし、首尾よく値上がりするには様々な要因が絡みます。業績が見込み通り推移するかはもちろんですが、市場環境や経済の動向、世界情勢など多くのファクターに影響されます。その難しさを乗り越えて利益を出せた時は、何にも代えがたい喜びを感じます。

投資は怖いものだというイメージが、特に僕たち高校生世代にはあるかもしれませんが、自分が実際にやってみて感じるのは、「投資は楽しい」ということです。リスクもある投資を早いうちに始められたのは将来の資産形成にも有益だったと思います。高校時代は時間がたっぷりあるので、トライアンドエラーをしながら、自分に合った投資手法を探るのにもちょうどいよいのではないでしょうか。

僕は1年ほど前から個人的にも、日本株や投資信託、暗号資産などに投資しています。今のところ成績はトントンですが、長期保有の戦略で続けていくつもりです。

古賀:私は投資部に入ってから、自分の将来のお金について初めて考えるようになりました。投資は、働いて得たお金を社会に循環させ、自分にも還元することだと考えています。働いて得たお金を貯金するだけではもったいないので、社会勉強もかねて、アルバイトで得たお金を投資に使いたいと思っています。

できれば大学で経済哲学を専攻し、資本主義や世界のシステム論を探求したい。それが今の目標です。

――本日はありがとうございました。

第1回目「世界を知るために、金融の勉強は必要ですか?」回答者:マネックス証券 ファウンダー松本大

第2回目「老後2000万円問題、僕らはいくら貯めれば幸せに暮らせますか?」回答者:インベストメント・ストラテジーズ兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー 塚本憲弘

第3回目「日本の給料は、世界と比べてなぜ上がらないのか?」回答者:マネックス証券チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー 岡元兵八郎

第4回目「日本の金利だけが上がらない理由、『特殊な国』の事情とは?」回答者:マネックス証券 チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長 吉田恒

第5回目「なぜバブルや暴落は繰り返されるのか?」回答者:マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆