2022年4月の高校学習指導要領改訂により、金融経済教育の内容が拡充されました。そこでマネックス証券の投資教育部門であるマネックス・ユニバーシティでは、現役の中学生、高校生の皆さんから、お金にまつわる素朴な疑問・質問を募集し、それに答えることで、お金のことをわかりやすく解説する『世界を知る大人になるための本気の「お金」授業』という連載を2022年12月から開始しました。

マネックス証券が本当に伝えたいお金のこと、世界のこと…、親子で一緒に読んでほしい本音トークを繰り広げます。

第3回目となる今回は、中学2年生のゆずはさんから届いた「なぜ日本の給料は増えず、海外に比べて低いのですか?」という質問に、マネックス証券チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェローの岡元兵八郎が答えます。

ラーメン一杯の値段、日本とアメリカで比べてみると…

みなさん、ラーメンは好きですか? 人気のラーメン・チェーン店のひとつに一風堂というお店があります。その一風堂で「白丸」というスタンダードメニューを注文した場合、日本の店舗だと820円です(※)。では、アメリカ・ニューヨークではいくら必要だと思いますか? 

答えはなんと15ドル(※)。1ドル130円で計算すると1950円。さらにチップとして2割程度の400円をプラスするので、合計2350円支払うことになります。全く同じラーメンを食べるのに、アメリカでは約3倍のお金が必要になるというわけです。

最近「インフレ」という言葉が毎日のようにニュースで流れています。インフレとは簡単に言えば、モノの値段が継続的に上がること。実は、日本の給料が上がらない原因の一つに、このインフレが関係しています。一杯のラーメンを食べるのに820円で済む日本と、2350円が必要なアメリカでは、当然アメリカの方が給料は高くなります。

日本の場合、絶え間ない企業努力によって、私たちが使うモノ、サービスの値段が上がってきませんでした。モノの値段が上がらない国では給料もなかなか上がっていかないのです。

そしてもう一つ、日本の「生産性の低さ」も給料が上がらない大きな要因として指摘されています。GDP(国内総生産)を国民の数で割った「1人当たりのGDP」を見ると、日本は39,312ドル、アメリカ70,248ドルと、実際に大きな開きがあります。これにはさまざまな要因が絡んでいるのですが、日本企業の「無駄の多さ」(たとえば参加者のほとんどが発言しない多人数での会議など)も見過ごせない問題となっています。

「レス(LESS)金持ち」になりつつある日本で給料を上げるには?

日本はとても住み心地のいい国です。2023年現在、人口約1億2500万人。先進国と言われる経済力を保っています。日本の中だけにいれば、今のところ快適に楽に暮らしていけるのも事実でしょう。

でも、世界の中で見ると日本は相対的に「レス金持ち」(お金持ちの国だったのに、より金持ちでなくなる)な国、だんだん金持ちでない国になってきています。新興国と呼ばれる国々が成長し日本を追いかけている中、日本だけがとどまっているからです。

日本では「給料が高い」という目安の一つに年収1000万円というのがあります。アメリカでは約15万ドル(約2000万円)でも中間層ですが、日本で2000万円だと富裕層と言われるという記事を見たことがあります。米国では40万ドル、つまり5000万円程度の収入がないと「すごいね」と驚かれません。グローバルな視点で見たとき、やはりこのような現実は幸せとは言えないのではないでしょうか。

最近、ユニクロを運営するファーストリテイリングや三井住友銀行などが大卒初任給を引き上げることを発表しました。こうした企業がもっと増えてくればいいと思いますが、実際のところ、給料を上げるというのは簡単なことではありません。特に上場企業の場合、生産性をアップし利益を生み出さなければ株価に悪影響を及ぼすからです。給料を上げるには、経済的な環境、そして経営者の英断が必要になってくるでしょう。

自分の未来のためにやっておきたい2つのこと

さて、世界は混とんとしており、これからどう変化していくかは未知数です。だからこそ、中高生のみなさんに私から提案したいことが2つあります。まず1つは「世界を知ろうとすること」。海外で今どんなことが起きているのかに、意識を向けてみてください。日本とアメリカの給料の違いだって、世界を知ろうとしなければ気づかないことですよね。

今はインターネットを駆使すれば、簡単に海外の情報にアクセスできますが、おすすめはイギリスのBBCやアメリカのCNNといったニュースメディアに触れること。同じ出来事でも日本の報道とは伝える内容が異なる場合もよくあり、グローバルな視点を養うのに役立ちます。

そのために、必要になってくるのがやはり英語を学ぶこと。これが2つ目の提案です。言葉を知ることは、言葉だけではなく、背景や文化を知ることにつながります。AIがどれほど進化して語学を肩代わりできるようになったとしても、世界を知ることは、自分とは異なる人や文化、国を理解しようとすることから始まります。

私は宮崎県で育った少年でしたが、中学生くらいの頃「もっと外の世界を知りたい」と、雑音だらけの短波ラジオから必死になって海外ラジオの放送を聞いていました。インターネットもない時代で、逆に情報がないから自分で情報をゲットしようと努力したのです。「日本の外にはこんな世界があるのか」と驚き、高校時代に渡米。結果的に、世界56ヶ国の株式市場に関係する仕事をしましたし、世界80カ国を訪問することにつながったのです。

世界へ出ていく準備さえしていれば、みなさんの前にはたくさんの可能性が開けます。日本の給料は簡単には上がらないかもしれないけれど、世界を相手にすれば、自分の収入を上げる手段はいろいろ見えてくるでしょう。そんなみなさんが日本の経済をリードするころ、日本の給料にも明るい未来が待っているかもしれない、実は日本が大好きな私はそう願ってやみません。

(※)NYの価格は2023年1月時点、日本の価格は2023年2月時点

第1回目「世界を知るために、金融の勉強は必要ですか?」回答者:マネックス証券 ファウンダー松本大

第2回目「老後2000万円問題、僕らはいくら貯めれば幸せに暮らせますか?」回答者:インベストメント・ストラテジーズ兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー 塚本憲弘