マネックス証券の投資教育部門であるマネックス・ユニバーシティでは、現役の中学生、高校生の皆さんから、お金にまつわる素朴な疑問・質問を募集。それに答えることで、お金のことをわかりやすく解説する『世界を知る大人になるための本気の「お金」授業』を連載しています。

マネックス証券が本当に伝えたいお金のこと、世界のこと…、親子で一緒に読んでほしい本音トークを繰り広げます。

第11回目のゲストは、金融教育ベンチャー株式会社マネネを設立し、お金や経済に関するテーマを私たちに分かりやすく解き明かしてくれる森永康平さん。講演や執筆のほか、自身のYouTubeチャンネル「森永康平のリアル経済学」では、「投資詐欺」の実態について、自ら潜入取材することで情報発信しています。若年層を狙った投資詐欺や社会問題化する「闇バイト」などの犯罪手口をはじめ、若者が身を守る術、お金や投資との向き合い方など、さまざまなアドバイスをいただきました。

若い世代がターゲットの「対面型」投資詐欺

 

2024年は著名人の写真や名前を悪用した「SNS型投資詐欺」がメディアでよく取り上げられていましたが、こうした特殊詐欺で騙されるのは中高年以上の年齢層の方がほとんどです。一方で、若い世代から被害報告が多かったのは「対面型」の投資詐欺。物心ついたころからソーシャルメディアを活用している10~20代は、SNS型詐欺の怪しさにはすぐ気付くのですが、「対面型」の詐欺には非常に弱いところがある。詐欺師に実際会ってしまうと、すっかり彼らの弁舌に取りこまれてしまうんですね。

一例として、ここ数年で大学生からの被害報告が多かったのは、「USBメモリ詐欺」。大学生になると、サークルやバイト先など交友関係がぐっと広がりますよね。そこで出会った友人や先輩から「投資で成功した知り合いがいるんだけど、会ってみない?」と誘われる。気軽な気持ちでカフェに出向くと、成功者を装った同年代の詐欺師が待ち構えています。彼らはピカピカのスーパーカーやタワーマンションでのパーティなど、華やかな暮らしぶりを自分のInstagramのアカウントで見せつけたうえで、「投資で成功したら、君だってこんな生活ができるよ」とささやいてくるわけです。

親や就活を気にして警察に相談できない学生も

この詐欺のキーアイテムとなるのが、USBメモリです。そのUSBメモリには、為替相場の騰落を予想して投資する「バイナリーオプション取引」などのソフトが入っていて、「これをパソコンに挿して取引すれば、“絶対に”儲かるから」と言って、50万円ほどの金額で売りつけてきます。「お金がない」と断る学生には、消費者ローンや学生ローンをその場で組ませるという徹底ぶり。もちろん詐欺ですから、儲かるはずもありません。

 
50万円の借金だけが残った学生には、この後も「ネズミ講」の罠が張り巡らされています。次のステップでは、「同じように君がUSBメモリを50万円で友だちに売ることができたら、5万円のマージンをあげるよ」と持ちかけられます。「10人に売ったら借金が精算できる」と安易に考えた学生は、今度は「被害者」から「加害者」へと変わってしまうのです。

こうした投資詐欺の予防・啓発のためにある大学で講演した際、「実はUSBメモリ詐欺に引っかかってしまって…、今、学生ローンを必死で返済しているんです」と学生から相談されたことがあります。「詐欺なんだから、返済しないで警察にまずは相談したほうがいいよ」と伝えたところ、「親にバレたら大変だし、就職活動にも影響があるかもしれないから」と。結局「50万円くらいだから、バイトして返済していきます」と肩を落としていました。

SNSで見る「キラキラの裏側」を疑ってみる

もし詐欺師の誘いに乗ってネズミ講の勧誘側になってしまった場合、自分自身が知人や友人を騙すことになります。それどころか、詐欺の片棒をかついだとして逮捕されてしまう可能性だってあります。お金だけでなく、友人や周囲からの信頼といったかけがえのないものまで失ってしまうのです。

投資の世界では、「絶対」に儲かるということはありません。「絶対に儲かる」というワードが出てきた時点で、「100%詐欺だ」と判断してください。ほかにも、特定の金融機関以外が「元本保証」を謳うのは違法なので、これも問答無用で「詐欺」と判断しましょう。詐欺師にとって、人生経験の浅い若者を言いくるめるのは赤子の手をひねるようなものですから。

知人に「儲け話がある」と誘われても実際に会わない、というのが予防策だと思います。「そんなうまい儲け話を、なぜ自分に持ってくるのだろう」と立ち止まって疑問に思えるようになることも、マネーリテラシーの一つだと思います。

「投資で成功した」という詐欺師にInstagramなどで「キラキラした生活」を見せられると、若者は簡単に信じてしまうでしょう。しかし、裏側を探ってみると、ピカピカのランボルギーニも実はレンタカーで、詐欺師100人くらいでレンタル料をシェアして、“インスタ映え”する写真を順番に撮り合っていたりします。キラキラしているのはSNSの画面上だけで、実態はこんなものです。種明かしを知ると、なんだかバカらしく感じませんか?

SNSではバイトを探さない、個人情報を渡さない

若年層がターゲットにされているのは投資詐欺だけではありません。昨今、「闇バイト」が社会問題になっていますが、実際に、SNSを通じて闇バイトに応募してしまった若者たちに話を聞くと、口をそろえて「『ホワイト案件』と書いてあったから、まさか闇バイトだとは思わなかった」と言うのです。ある程度の社会経験があれば、「ホワイト案件」とわざわざ言葉にしてアピールしている怪しさに気が付くはず。若者にもこういった嗅覚を身に付けてもらえればと思います。

 

闇バイトに関わらないようにするには、そもそも「SNSでバイト探しをしない」ということを大前提にしてください。高額報酬につられて一度連絡を取ってしまうと、犯罪グループは「本人確認をしたい」と運転免許証などを送るように言ってきます。何も考えずにうっかり送ってしまうと、名前も顔も住所も犯罪者に把握されてしまう。家族の身の安全などを盾に脅されて引き返せなくなり、本人もおびえながら犯罪に加担してしまうパターンが非常に多いのです。

闇バイトを斡旋するリクルーターは、ときには「頼りがいのある大人」を装い、ときには高圧的に振る舞うことで、社会経験のない若者を簡単に操ります。「バレても、初犯なら執行猶予がつくから」などとウソをつくことも。でも、覚醒剤などを運んだら所持しているだけで10年以下の懲役になりますし、万が一、強盗殺人などに関わってしまった場合、初犯でも無期懲役、または死刑となります。

仕事探しは一般的な求人サイトや求人誌などですることが、闇バイトに巻き込まれないための一番の自衛策となります。そもそもSNS上で見ず知らずの人と安易につながらないことも改めて意識してほしいと思います。

儲かるかどうかでなく、「中庸」の精神でお金や投資に向き合う

 

デジタルネイティブ世代にとっては、テレビなどの「オールドメディア」よりもSNSなどの情報のほうが身近で、より信頼できるというのもよく分かります。ただ、ネットの情報はオールドメディアよりも多様な一方で、玉石混淆です。「自分だけは大丈夫、騙されない」「この情報はきっと真実に違いない」という思い込みが、犯罪者を招き寄せます。

これは若者に限らず、どの世代も同じ。誰もが持つ「正常性バイアス」や「確証バイアス」といった人間の心理なので仕方ない面もありますが、「自分だけは大丈夫」と過信しないこと。常に「謙虚でいる」ことも詐欺被害に遭わないポイントの一つであると心に留めておいてください。

最後に、お金や投資への向き合い方は、「中庸(ちゅうよう)」であることも根本的に大事だと感じています。「お金が儲かるか、儲からないか」だけで投資に向き合うのはもったいない。

投資を始めたことで企業の決算書を読めるようになったり、世界の政治、経済、社会課題に興味を持つようになったり…、株式投資などをすることで自分の世界が広がり、人生にプラスになることは必ずあります。利益が出る・出ないに関わらず、「中庸」のスタンスで向き合えるのであれば、若者には無理のない範囲で投資にチャレンジしてみてほしいですね。