マネックス証券の投資教育部門であるマネックス・ユニバーシティでは、現役の中学生、高校生の皆さんから、お金にまつわる素朴な疑問・質問を募集。それに答えることで、お金のことをわかりやすく解説する『世界を知る大人になるための本気の「お金」授業』を連載しています。

第10回目のゲストは、元ゴールドマン・サックス金利トレーダーで、現在は社会的金融教育家として活躍する田内学さん。20万部を超えるベストセラー本『きみのお金は誰のため ―ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(東洋経済新報社)の著者でもある田内さんは、「みんなでお金を奪い合うゲームをしてもだめ」「金融という仕組みを活用すれば夢を叶えることもできる」と話します。気になるその真意や家庭での金融教育、中高生へのエールなどをうかがいました。

学生時代は仲間や知識、経験などの「資産」を築く貴重な時期

 

中学校や高校、大学から依頼を受けて、学生のみなさんに講演をする機会があるのですが、ある時、大学生から「老後が不安です」という話が出たことがありました。老後が不安だからアルバイトで稼いだお金を元手に投資でお金を増やしたい、と言うのです。それを聞いた時、「これはまずいぞ」と感じました。

お金を増やしたいというのは、いわゆる金融資産を増やしたいということでしょう。でも、「資産」とは、それだけではありません。生きるうえで大切なこと、例えば人間関係やさまざまな経験、知識も資産になります。学生時代はそういった金融資産以外の資産をつくれる貴重な時間だということを、まずは忘れないでほしいです。

そもそも投資を含めた金融というのは、お金を持っている人が、お金を必要としている人に融通することです。新しい商品を開発したり、新しいサービスを始める人がいて、そこにお金を出す人がいる。その投資されたお金によって世の中の問題が解消され、経済が成長していくのです。

アメリカが成長を続けているのは、アメリカの人々がただ投資をしているからではありません。世の中を良くしようと挑戦している若い世代に、お金が提供されているからです。皆が皆、お金を出す側に回っても、社会が変わることはないのです。

日本でGAFAMのような成長企業が生まれるためには?

日本では「失われた30年」が問題になりますが、アメリカではGAFAM(アメリカの主要IT企業であるアルファベット[GOOGL]、アマゾン・ドットコム[AMZN]、メタ・プラットフォームズ[META]、アップル[AAPL]、マイクロソフト[MSFT]の総称)が誕生し、大きく成長しました。

グーグルを創業したラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンは、スタンフォード大学で検索エンジンの新たな技術を研究していました。彼らは、その技術を実用化したら世の中が便利になると考え、会社を興し、投資してもらい、一緒に開発する仲間を集めて実用化に成功したのです。

私も東大で検索エンジンの研究をしていましたが、投資してもらおうなんて発想はありませんでした。まわりにそんな人はほとんどいませんし、大学を卒業して企業で働くのが当たり前だと思っていたからです。それが日本とアメリカの違いだと思います。

若い人たちには、お金がなくても能力、アイデア、情熱、そして時間があります。「投資してもらう」というのは、会社を起業したりお店を始めたりするだけではありません。企業で働いている場合でも、若い人たちの成長に対して多くの会社は投資してくれます(と信じています)。お金の不安もわかりますが、自分の能力や知識、経験を高めるための自己投資など、金融資産以外の資産を増やすことにも時間を使わないともったいないです。これからの時代を担う若い世代のみなさんには、「投資される側」に回る意識をぜひ持ってもらいたいです。

家庭で伝えたいのは「誰かの役に立つから、お金をもらえる」という真理

お金の教養小説『きみのお金は誰のため ―ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』。執筆中は書きあがった部分から子どもに読んでもらい、分かりにくい表現などを指摘してもらったそう

ところで、家庭の中で親子で直接お金の話をするというのは結構難しいものですよね。わが家も特別に親子で金融の話をしているわけではないのですが、唯一、子どもたちには「誰かの役に立っているから、お金をもらえる」ことを知って欲しいと思っています。

私自身の実家は自営業で、そば屋を営んでいました。両親の働く姿を見ながら、「おいしいそばを提供しているから、お客さんが喜んでくれてお金をもらえるのだ」と感じていました。うちの子どもたちにも、「パパはみんなが読みたい本を書いたからお金をもらっている」と感じてくれるといいなと思っています。

会社勤めの方など、直接的には仕事の中身が見えづらい場合でも、「誰かに感謝され、誰かのためになっているからお金がもらえている」ということを何らかの形で伝えられたらいいですよね。

金融という仕組みを活用して夢を叶えることができる

 

最後に、中高生の皆さんに、私からお伝えしたいことが2つあります。まず1つは、自分の夢を叶えるために金融という仕組みがあること、そして、協力者を見つけることが実現への近道になるということです。

叶えたい夢が「おいしいものを食べたい」や「趣味にお金を使いたい」といった自分を幸せにするためだけの夢なら、自分の力で叶えるしかありません。ですが、自分の夢をみんなの幸せに繋げられたら協力してくれる仲間や応援してくれる大人がきっと見つかります。中には投資してくれる人もいるかもしれません。夢の実現に何より必要なのは、仲間なのです。

そして、もう1つは、たくさんの本と出合ってほしいということ。子どもに限らず大人もですが、どういう生き方をするかは、周りにどんな人がいるかに大きく左右されます。学生時代はそれを自ら変えること、例えば海外へ移住するといった変化を起こすのは難しいですよね。

でも唯一、それと同じような効果があるのが本との出会いです。偉人の伝記でもいいし、小説でもいい。ビジネス書でもいいでしょう。本を読むことで、その根底にある作者の考え方や生き方に触れることができます。色々な本を読み、色々な人に出会ってください。その経験が、まだ見たことのない新しい世界、広い世界へときっと導いてくれます。

―――本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

写真:竹井 俊晴