全輸入品に一律10%、違反国には追加課税、市場の反応:「黄金時代」発言に冷ややかな視線
4月2日(水)の米国株式市場の取引終了直後、トランプ米大統領はホワイトハウスのローズガーデンにて約50分間の演説を行い、関税政策を正式に発表しました。これは「外国による不公正な貿易慣行に対抗する措置」であり、大統領はこの日を「米国の解放の日」と位置づけています。
発表によれば、4月5日(土)から米国のすべての貿易相手国の輸入品に対し一律10%の基礎関税が課されます。加えて、「最悪の違反国」とされた60ヶ国には、4月9日(水)から相互関税が適用される予定です。
トランプ大統領は今回の関税政策が「米企業に新たな黄金時代をもたらす」と強調しましたが、先物市場はこれに冷ややかに反応し、発表直後に急落しました。ウォール街の関係者からは、「最悪の想定すら超える内容」との声も上がっています。
関税実施を受けての最悪のシナリオとは
今回の発表がそのまま実施・継続された場合、最も懸念されるのはインフレ加速による景気が下押しされることです。輸入品の価格上昇を通じて、消費者マインドの悪化、実質賃金の低下、個人消費の減速が進行し、個人消費支出(PCE)インフレ率の上振れが予想されます。
その場合、2025年後半にたとえ消費主導の景気減速が起きても、FRB(米連邦準備制度理事会)は2%の物価目標を大きく上回るインフレ環境下では利下げを行えず、金融政策が手詰まりとなる可能性があります。結果として、スタグフレーション(インフレ下の景気停滞)のリスクが現実味を帯びます。
加えて、2025年の夏の議会において共和党が2017年の減税措置の延長が実現できなければ、新たな財政刺激は見込めません。仮に延長に失敗すれば、それは実質的な増税とみなされ、景気後退リスクをさらに高める要因となります。
こうした展開が進めば、共和党が上下両院で多数派を失う可能性も高まり、最終的に最も困難な立場に追い込まれるのは、他でもなくトランプ米大統領自身と言えるでしょう。
今後の展望:実効性より交渉カード、短期決着の交渉劇
こうした背景を踏まえると、今回の極端な発表は実効性よりも交渉材料としての性格が強く、長続きせず短命で終わる可能性が高いのではないでしょうか。
米国メディアの報道によれば、今回の追加関税は以下の独自の計算式に基づいています。
この方式により、米国と貿易赤字が大きい国ほど極端に高い関税率が課されることになります。これは、WTO(世界貿易機関)が定める最恵国待遇(MFN)関税や、各国の非関税障壁の実態評価とは無関係であり、外交的圧力を目的とした政治的なツールとしての色彩が濃いものです。
「相互関税」という表現が使われていますが、実際には一方的な貿易赤字への不満を背景とした交渉用レトリックであり、本気の制裁というよりは譲歩を引き出すための強いシグナルと見るべきでしょう。
ホワイトハウスは「取引は求めていない」との姿勢を示していますが、実際には今後数ヶ月にわたり、各国政府および企業との交渉が加速する公算が大きく、その結果として、多くの相互関税が年内に引き下げられる可能性が十分にあります。
足元の米国株市場に与えるインパクト:調整が不可欠な局面
現在、アジア時間では主要な米国株先物指数が軒並み大きく下落しています。関税政策の詳細がようやく明らかになったことで、「最悪の材料が出尽くした」との見方も一部では出ています。
もっとも、マーケットが中長期的に上昇トレンドへ回帰するためには、一時的なパニック売りによる調整が不可欠な局面でもあります。実際、過去の市場では、ショックイベントによる急落の直後に反発が生じやすいパターンが繰り返し確認されています。
また、アジア時間の先物市場の動きが、翌日の米国株市場の実勢を保証するものではないことも重要なポイントです。直近の数週間でも、先物が大きく下げた翌日に、現物株市場が大きく反発した例が複数回見られました。
今回の関税発表を受けて、ニューヨーク市場がオープンするまでの間に、投資家がこのニュースをどのように受け止め、戦略的に反応していくかが今後の値動きを大きく左右すると考えられます。初動はネガティブであっても、時間の経過とともに悲観一色とは限らない展開となる可能性も視野に入れておくべきでしょう。