2022年4月の高校学習指導要領改訂により、金融経済教育の内容が拡充されました。そこでマネックス証券の投資教育部門であるマネックス・ユニバーシティでは、現役の中学生、高校生の皆さんから、お金にまつわる素朴な疑問・質問を募集し、それに答えることで、お金のことをわかりやすく解説する『世界を知る大人になるための本気の「お金」授業』という連載を2022年12月から開始しました。
マネックス証券が本当に伝えたいお金のこと、世界のこと…、親子で一緒に読んでほしい本音トークを繰り広げます。
第4回目となる今回は、中学3年生のゴエモンさんから届いた「海外では物価が上がり、金利も上がっているというニュースをよく見ます。日本では物価が上がっているのに日銀が金利を上げないというニュースが流れてきますが、なぜ日本だけ世界と違う状況なのですか?」という質問に、マネックス証券 チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒が答えます。
世界中で起きた物価高の2つの要因
2022年6月、アメリカで40年ぶりとなる「超インフレ」が起きたのを筆頭に、世界中で歴史的なインフレが発生して物価が上がっています。これには大きく2つの要因があります。1つはコロナ・パンデミックで景気が落ち込み、その対策として世界の中央銀行が景気刺激策として金融緩和を行ったこと。そしてもう1つは、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻です。世界的なエネルギーの供給元であるロシアとウクライナが軍事衝突したことで、エネルギーや穀物といった資源の価格が上がり、世界的な物価高につながりました。
こうした物価高が起きた場合、世界の中央銀行(日本の場合は日本銀行=日銀)は、それを是正しようと動きます。物価は「買い」と「売り」のバランスで決まりますが、中央銀行が出来るのは、買う力をコントロールすること。つまり、金利を上げることによって買う力を抑制し、物価を下げる方向へコントロールするのです。コロナ・パンデミックの際に、中央銀行が景気刺激策として金利を下げて買う力を高めたことから、需要拡大=物価高をもたらしました。
インフレと金利、世界の状況に反して日本は…
さて、そんな物価高が世界中で起き、金利が上がっている中、日本はなぜ異なる状況にあるのでしょうか?それは日本の物価上昇率、インフレが他の国に比べると、比較的軽度におさまっているからです。アメリカの消費者物価指数の上昇率は2022年のピーク時には前年比10%近くまで上昇しましたが、日本の場合はせいぜい3~4%程度。日銀としては、これはあくまで「一時的な動き」であって、先々また物価は下がっていくだろうと、金利を上げませんでした。
では、なぜ日本の物価上昇率は4%程度におさまっているのでしょうか?そこには根本的な経済成長率の弱さが関係しています。経済の成長率はいろいろな指標で見ることができますが、一番分かりやすいのが潜在成長率というもの。日本が年間0.5%程度であるのに対し、アメリカは2%を超えています。つまり、日本の経済成長力が弱いために、世界的な物価高の状況においても、物価も金利もそれほど上昇せず、特殊な国になっているというわけなのです。
そうは言っても、日本でも物価は少なからず上昇し、生活を直撃しています。食料品や日用品はもちろんのこと、部活で必要なグッズなどにも影響が出ているかもしれません。みなさんの中には、日常生活に関わるコストが上がった分をどうにかできないか?と、アルバイトの時給やお小遣いアップを交渉した人もいるのではないでしょうか。こうした物価高は、自分と経済との関わりを考えるチャンスでもあります。
ある1点を追いかけるだけで、為替がわかる
今回、質問者のゴエモンさんは、物価や金利のニュースから「なぜ、日本だけ世界と違う状況なのか」と気づいたわけですが、世界を知ることにつながる良い視点ですね。
私は「為替」を専門に仕事をしていますが、この為替も世界を知ることができる面白いものです。2022年10月に、米ドル高・円安が151円まで進んで大きなニュースになりました。これは1990年以来、32年ぶりのこと。中高生のみなさんが生まれる随分前に起きて以来の歴史的な円安となったわけです。
実は私が為替の専門誌で働き始めた1985年も、為替相場に歴史的な大変動が起きました。当時はまだ1ドル250円程度だったのですが、そこから1~2年で120円、つまり半分になってしまうぐらい、ものすごい米ドル安・円高になったのです。ポスト冷戦の時代が始まろうとする中、ドル安・円高に導くことが政策的に重要だったことなどが起因しているのですが、とにかく世界経済全体が為替相場にかなり影響を受ける、そんな時代でした。
中高生のみなさんは、「為替」と聞くと何やら難しく感じてしまうかもしれません。しかし、こんなふうにダイナミックに変動しながら経済の主役になり得るのが為替です。そんな為替を知ることは実はすごく簡単。たった1つ、米ドルの動きに注目すればいいだけ。米ドルは世界一の経済大国である米国の通貨であり、また基軸通貨と言われ、世界で最も取引されている通貨です。その米国の経済動向や米ドルの動向で為替相場は決まるので、米ドルの動向を追いかけていけば、世界経済の全体像、世界の動きが見えてきます。
この先、日本は…?未来に向けて10代から始めたいこと
日本や世界がこの先どんなふうに進んでいくのか、予測するのは簡単ではありません。でも、自分の未来のためにできることはたくさんあります。たとえば、日本円だけではなく、米ドルやユーロ建てといった外貨資産を持つこともその1つ。将来、自分の資産を形成していく際には、外貨資産を増やしていくことを意識してほしいと思います。そのためには、今から少しずつ実践してみるのがいいですね。お小遣いやアルバイトで貯めたお金から、少額で構いません。自分自身のお金を投資することで為替変動を体感し、世界経済を肌で感じてみてください。
同時に、米ウォール・ストリート・ジャーナルや英フィナンシャル・タイムズなどの海外の主要な経済メディアに触れながら、世界の情報を入手することにも慣れてほしいと思います。私は社会人になるまで日経新聞すら読んでいなかったのですが(笑)、実践あるのみ! こうした海外メディアを必要にかられて読むうちに英語もいつの間にか身に付きました。最初のうちは、便利な翻訳版のニュースから触れてみるのもいいと思います。
さて最後にひとつ、みなさんにお伝えしたいことがあります。それは、近い将来において、円資産の価値が暴落するというふうには私は考えていないということです。日本は対外純資産大国です。これまでに蓄えてきた資産が、円資産の価値下落を緩やかにすることは可能でしょう。その意味では、みなさんが為替や外貨建て資産について学ぶ時間にはまだまだ余裕があります。焦ることはありません。じっくり時間をかけて、自らの資産を守る新たな時代に踏み出していってください。
第1回目「世界を知るために、金融の勉強は必要ですか?」回答者:マネックス証券 ファウンダー松本大
第2回目「老後2000万円問題、僕らはいくら貯めれば幸せに暮らせますか?」回答者:インベストメント・ストラテジーズ兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー 塚本憲弘
第3回目「日本の給料は、世界と比べてなぜ上がらないのか?」回答者:マネックス証券チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー 岡元兵八郎