マネックス証券の投資教育部門であるマネックス・ユニバーシティでは、現役の中学生、高校生の皆さんから、お金にまつわる素朴な疑問・質問を募集。それに答えることで、お金のことをわかりやすく解説する『世界を知る大人になるための本気の「お金」授業』を連載しています。

マネックス証券が本当に伝えたいお金のこと、世界のこと…、親子で一緒に読んでほしい本音トークを繰り広げます。

第5回目となる今回は、高校3年生のホモサピエンスにあらずんばさんから届いた「バブルや暴落が繰り返しているのは歴史に学ばないからですか?」をはじめ3つの質問に、マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆が答えます。

バブルと崩壊は800年間繰り返してきた「人間の性」

質問1「バブルや暴落が繰り返されるのは歴史に学ばないからですか?」(ホモサピエンスにあらずんば・高校3年)

まず1つ目の質問からお答えしましょう。

金融市場で何か危ないことが起きると、経済学者たちがいつも言うのは「今回は違う(THIS TIME IS DIFFELENT)」という言葉です。「今はインターネットが発達している」「リーマンショック以降、銀行の資本は健全に保たれている」といった理由をもとに、「だから今回は違う、金融危機は起きないのだ」と言います。

ところが、過去を紐解いてみると、800年間まったく同じことが繰り返されています。「今回は違う」と言われながらもバブルは起き、崩壊して金融危機や通貨危機に突き進んでいるのです。

それはなぜでしょうか。この質問者のホモサピエンスにあらずんばさんは、高校3年生とのことですから、ドイツの哲学者ヘーゲルの名前をご存知かもしれませんね。ヘーゲルは「歴史から学ぶことができるただ1つのことは、人間は歴史から何も学ばないということだ」と語っています。つまり、歴史から学ばないのが「人間の性」というわけです。

人間の性として、今後もバブル崩壊はおそらく繰り返されるでしょう。しかし近年そのタームは短くなってきていると言われています。テクノロジーの発展が行き着くところまで行き、資本主義が停滞しているのが要因の1つではないでしょうか。少し乱暴な言い方をすれば、利益を出すための「差異」が市場で見つけられなくなり、商いではどうにもならないことから「必然的」にバブルが起きてしまう流れが加速しているのかもしれません。

バブルとその崩壊の歴史を知るうえでおすすめの本があります。1冊は、ピーター・バーンスタインの『リスク-神々への反逆』(日経BPM・日本経済新聞出版本部)。原題は『AGAINST THE GODS』で、天才たちがリスク探求に挑んだ歴史を描いています。もう1冊は、カーメン・M・ラインハートとケネス・S・ロゴフという2人の経済学者が書いた『国家は破綻する-金融危機の800年』(日経BP)。この原題は『THIS TIME IS DIFFELENT』で、まさに「今回は違う」がタイトル。過去800年間の金融危機の歴史を紐解いています。この2冊を読むと、人間がいかにバブルとその崩壊を繰り返してきたかを考えさせられます。

ユーロは単一通貨の「壮大な実験中」、100年後の日本はどうなる…?

質問2「なぜ、すべての国が同じお金(通貨)で生活できないのでしょうか?」(あおぞらすぐる・中学2年)

さて、2つ目ですが、質問者のあおぞらすぐるさんは中学2年生とのこと。中学2年生で為替に関心を持っているというのは素晴らしいですね。

もし世界がひとつの国で、どこでも同じ通貨を使えれば、為替変動を気にすることなく物を売買できて非常に便利です。企業経営者が為替レートの変動にやきもきする必要もなくなります。

ただ、すべての国で同じ通貨を使うことは、現実には難しいと言わざるをえません。世界は思っている以上に広く、国や地域によって気候や暮らし、文化が大きく異なるからです。例えば、寒い地域では冬の間は暖房が欠かせず、燃料などの価格も上がりやすくなります。一方、一年中暑い地域では暖房のための燃料は要らないでしょう。

寒い地域と暑い地域が別々の国で、異なる通貨を使っていれば、その国の中央銀行が金利を上げたり下げたりして、物価や景気をコントロールできます。しかし、経済状況や財政状況などが異なるにも関わらず、通貨を統合してしまったら、その国の状況に合わせて金利を変えるような政策を取ることができなくなり、さまざまな問題が起きかねません。

ただし今、壮大な経済実験を行っているのが、1999年1月に単一通貨ユーロを導入した欧州連合です。ユーロ圏内ならどこでもユーロが使えるようになり、生活の多くの場面で利便性が向上しました。

これは、エリアだけではなく、言語や民族といったものが比較的近かったからこそ成り立っている通貨統合ですが、単一通貨を維持する難しさはもちろんあります。ドイツやオランダなど財政の健全性が高い国々と、ギリシャやイタリアなど放漫財政の国々の間で格差問題が起きています。また、国によって税金や年金の制度が異なる大変さも抱えています。こうした問題がありながらも、ユーロという単一通貨で、世界最大の単一市場を維持できているのは、文化や宗教などの面で共通の基盤があるからですね。

では、アジアで地域通貨が統合される可能性はあるのでしょうか。アジアは、国や地域によって民族も文化も宗教も異なります。日本や中国のような経済大国もあれば、カンボジアやラオスのような経済規模が小さい国もあります。そこに統一市場や統一通貨を導入するには、さまざまな問題、課題があるでしょう。ただし、50年後、100年後には、実現できていないとも限りませんね。

お金の歴史は偽造を防ぐ歴史、大昔は希少性の高い貝だけが貨幣の代わりに

質問3「大昔、お金は貝を使っていたと聞きました。お金用と食べたばかりの貝をどう区別していたのか知りたい」(りけいぶんけい・高校1年)

最後の質問ですが、これは面白いですね。例えば、アサリなどの身近な貝殻をお金として使えたら、「どんどんアサリを食べて、それをお金にしてしまおう」と考える人もいるのではないでしょうか(笑)

でも残念ながら、太古の時代でもアサリはお金として使えたわけではありません。貨幣(貝貨)として使えたのは、「たから貝(子安貝)」という、ベトナムや沖縄などでしか採れない、美しくて希少性の高い、まさに「お宝」のような貝だったようです。簡単に複製できない貝殻だからこそ、貨幣の代替になったのでしょう。

大昔の中国では、たから貝の背面に大小の孔を開けたり、背面を削り取って磨くなどの加工を施したりして、お金として使っていたようです。ここからもわかるように、お金の歴史は、いかに「偽造を防ぐか」の歴史でもあったのですね。

現在では、紙幣に「すき入れ」といって光に透かすと肖像などの図柄が見える技術や、コピーなどでは再現できない微少な文字(マイクロ文字)を印刷する技術、見る角度によって数字が見え隠れする技術(潜像加工)など、非常に高度な技術を駆使して、偽造を防止しています。

お金の歴史はとても面白いので、機会があればぜひ一度、東京・日本橋にある「日本銀行金融研究所 貨幣博物館」に足を運ぶことをおすすめします。たから貝の展示はないかもしれませんが、何がお金として選ばれ、どのように使われてきたかを知ることができます。豊臣秀吉や徳川家康が作らせた大判の実物を見て、その重さを体感することもできますよ。

貨幣博物館のウェブサイトでもさまざまなコンテンツを楽しめるので、この電子マネーの時代、改めてお金の歴史や価値に思いを馳せてみるのも面白いのではないでしょうか。

第1回目「世界を知るために、金融の勉強は必要ですか?」回答者:マネックス証券 ファウンダー松本大

第2回目「老後2000万円問題、僕らはいくら貯めれば幸せに暮らせますか?」回答者:インベストメント・ストラテジーズ兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー 塚本憲弘

第3回目「日本の給料は、世界と比べてなぜ上がらないのか?」回答者:マネックス証券チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー 岡元兵八郎

第4回目「日本の金利だけが上がらない理由、『特殊な国』の事情とは?」回答者:マネックス証券 チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長 吉田恒