前田道路(1883)は国内の道路建設を行う会社で業界2位の大手です。業績も安定しており、リーマンショックが起きた2007年から2009年にかけても営業利益・最終利益を確保しており、東日本大震災が起きたあとの2012年3月期から2016年3月期にかけては5期連続で営業利益は二桁増益を達成しています。2017年3月期から2019年3月期は営業減益が続いていますが、営業利益は依然高水準です。

前田道路は前田建設工業(1824)の系列会社と見られており、前田建設工業は子会社を介して前田道路の株式の20%強を保有していました。一方、前田道路は先述のように業績好調が続く中で配当金を増やしてはいたものの、たとえば2019年3月期は1株あたり利益が133円なのに対し、配当金は70円、直近で最高益であった2016年3月期は202円の一株当たり利益に対し、55円の配当金と必ずしも配当水準が高くはなく、会社に資産が蓄積されていきました。

前田道路の1株あたり株主資本は2012年3月期に1,536円だったものが2019年3月期には2,387円まで増加しています。キャッシュフロー計算書での現金・現金等価物は同時期に390億円から722億円と大きく増加しています。その8期の間で同社の現金・現金等価物が減少したのは1期しかなく、資産が使われないまま蓄積されていたという風に見えそうです。

こういう状況はアクティビストにとっては有力な投資機会です。前田道路には前々回の戸田建設の投資家としても紹介したシルチェスターが大量保有報告を出しています。また、アクティビストとして著名な香港のオアシスも同社を買い付けていたようです。前田道路はうまみのある投資先と判断されていたということでしょう。

そうした状況が大きく動いたのが2020年1月でした。1月20日に前田建設工業は前田道路へのTOBを開始します。前田道路は同日、前田建設工業との資本関係、つまり20%強保有されている株式を自社で買い戻すなどしたいという発表を行います。24日には前田道路が前田建設工業のTOBに反対を表明し、系列企業と見られていた20%の株式を持つ会社のTOBが敵対的なものになるという例のない展開を見せたのでした。前田建設工業のTOB価格は3,950円、TOB開始前営業日の17日に2,633円だった前田道路株は21日には3,835円まで急騰しています。

結果的にこのTOBは3月16日に成立し、前田建設工業は前田道路の過半数株式を取得し、正式に親会社となります。前田建設工業と前田道路のシナジーや両者が協力的な関係を築けるかなどに関心は尽きません。今回の両社の攻防の中で前田道路はいくつかの興味深い発表を行っております。それはアクティビストと会社の関係の参考になりそうです。次回詳しくご案内します。