1月12日、片倉工業(3001)のMBO(経営陣が参加する買収)が不成立となったことが報じられました。アクティビストであるオアシス・ マネジメントが保有する片倉株を購入した鹿児島東インド会社はMBOについて買付価格が著しく低廉との意見を表明していました。近年、TOB価格に不満を唱えるアクティビストや投資家が増え、MBOが不成立となる事例が増えています。アクティビストがMBOに反対するのはなぜなのか、今後どのような対応が求められているのかについて解説します。

片倉工業のMBOが不成立になった理由

1月12日、片倉工業は、会長と社長が出資する会社(かたくら)が前日11日まで実施していたTOB(株式公開買い付け)が成立しなかったと発表しました。TOBの成立には発行済み株式数の3分の2の2214万株以上の応募が必要でしたが、株主からの応募は1967万株にとどまったからです。株価がTOB価格の2,150円を上回って推移しており、1月11日の終値も2,299円でした。

同社はMBOで株式を非公開化して構造改革を進める予定でしたが断念し、上場を維持することになりました。

MBOとは

MBOはManagement Buy-Outの略で、経営陣や従業員が自社の株式や一部の事業部門を買収して独立することです。例えば、オーナーでない経営者が、親会社やオーナーから株式を買い取り、事業の継続を前提として経営権を取得することなどが該当します。

また、従業員が所属している部門を買収して独立する場合をEBO(Employee Buy-Out)と呼ぶこともあります。

そして、MBOを実施する時にTOB(株式公開買い付け)を実施する場合があります。TOBは Take-Over Bidの略で、「株式公開買い付け」と呼ばれるM&A手法の1つです。買い手が事前に買取株数や買付期間、買付価格を公告し、対象企業の株式を保有している不特定多数の株主に対し、株式の買付を呼びかけます。対象企業の株式を保有している株主はTOBに応募できますが、売却せずに保有し続けたり、市場で通常通り株式を売却したりすることもできます。

オアシス・マネジメントが片倉工業の株式を売却

TOBを実施していたかたくらは、筆頭株主だった香港のアクティビスト、オアシス・マネジメントや第2位株主の三井物産、第4位株主の損害保険ジャパンなど大株主とTOBに応募する契約を結んでいました。

しかし筆頭株主であったオアシス・マネジメントは、鹿児島東インド会社にTOB価格(2,150円)より高い2,350円で株式を売却したのです。そして鹿児島東インド会社は、片倉工業が保有する不動産の時価を考慮するとTOB価格は著しく安いと反発。MBOは失敗に終わったのです。

MBO不成立の背景にあるアクティビストの台頭

2022年1月14日付の日本経済新聞によると、2021年以降、MBOの失敗が5件相次いでいるとのことです。同記事には「M&A助言のレフコによるとMBOの失敗は2004年のソトー以降、10件しかない。2021年には光陽社や日本アジアグループ、サカイオーベックス(1度目)、パイプドHDも失敗しており、半数がこの1年強で起きたことになる。」と指摘されています。そしてMBOの不成立が増えた背景には、アクティビストの台頭があるとのことです。

同記事には「日本アジア、サカイオーベには村上世彰氏がTOB価格が安すぎると主張し、株式を買い付けて株価がTOB価格を上回った。それにならうように光陽社やパイプドHD、そして今回の片倉もTOB価格に不満を唱える株主が現れ、不成立につながった。」と書かれています。

MBOにおいても重要視される企業価値

MBOでTOBを実施する時に意識されるのがPBR(株価純資産倍率)です。PBRは株価が純資産(BPS)の何倍まで買われているか、つまり1株当たり純資産の何倍の値段がつけられているかを示す指標です。PBRが低いほど株価が割安と判断され、PBR=1倍が株価の底値の1つの目安とされます。株価と資産価値が同じと判断できるからです。

経営陣によるMBOは、少しでも安く買いたい買い手と、高く評価してもらいたい売り手が同一であるという利益相反関係にあります。PBR1倍割れなど株価を割安に放置していた経営陣が、高いプレミアムを主張しても意味がありません。例えば、2021年にMBOを狙った光陽社は、TOB価格で計算してもPBRは0.5倍しかありませんでした。

MBOを実施する際は、自社の株価が企業価値に見合っているかどうかを判断する必要があります。MBOを安易に考えると、アクティビストなどからTOB価格が安すぎると反発され、株価がTOB価格を上回り失敗する可能性があるからです。

MBOを実施する経営陣はまず先に、企業価値を高める努力が必要でしょう。