イーロン・マスク氏の政権入りも?自動車業界の動向に注目集まる

11月6日、米国メディアを中心に、共和党ドナルド・トランプ氏の大統領選当選確実が伝えられた。テスラ創業者のイーロン・マスク氏は、トランプ氏の選挙運動のために1億8000万ドル(約280億円)を個人として献金したほか、多額のファンドレイジングに関わったとされている。トランプ氏が大統領の座に返り咲くとマスク氏は政権入りを果たす可能性も浮上しており、自動車業界の動向に注目が集まっている。

EVの税額控除などの優遇措置については縮小または廃止とするなど、当初EVについては否定的な見方を示していたトランプ氏だが、マスク氏との距離が縮まったことで「反EV」の姿勢を翻す可能性も考えられる。テスラが所属するゼロエミッション輸送協会(Zero Emission Transportation Association)は、開票日となった6日に「トランプ氏と協力する準備ができている」と発表している。

バイデン政権はすでに2024年3月、新車販売のうち普通乗用車に占めるEVの販売比率の目標を2032年までに67%とするとしていたが、これを35%に引き下げた。また、米環境保護局はHV車の排出量基準を緩和してHV車の販売余地を高めていく方針を示しており、足元ではトヨタ等米国でHV車の販売を強みとする事業者は、追い風を受けている。今後はマスク氏がトランプ政権に与える影響力次第で、自動車各社のEV/HVの販売環境が大きく左右される可能性がある。

EV推進か否か?各州ごとに対応が求められる自動車メーカー

このような政局の動きを受けて、2023年にカリフォルニア州において新車販売数で首位に立ったトヨタや、2030年までに北米で販売する自動車のうち50%をEVとする目標を掲げるフォルクスワーゲン等、各国の事業者は米国各州で対応が求められることになる。

マスク氏が新政権に及ぼす影響次第だが、EV推進を継続する方針の州とトランプ政権との間の溝が深まっていくことも十分考えられる。2035年までに新車販売の100%をゼロエミッション車にすることを義務づけているカリフォルニア州を筆頭に、特定の地域では引き続きEVシフトに舵をきる政策が進むとみられる。

トランプ氏は政権奪取後に高関税を課す方針も明らかにしているが、同氏が勝利をおさめたノースカロライナ州のクーパー知事(民主党)も、日本経済新聞に対してEV等への投資継続の方針を明らかにしている。

「退潮」モードの中でも、生物多様性やエネルギー移行は最重要テーマのひとつ

大統領選で大きく揺れた米国の2024年の株主総会シーズンでは、ジェネラル・モーターズに対して「EVの販売目標を削除する」ことを求める株主提案も提出された。しかし、これは0.76%の賛成比率にとどまっている。トヨタに対して2024年に提出された、気候変動に関するロビー活動についての情報開示請求の株主提案も賛成比率は9%台にとどまっている。

企業の気候変動対策等に取り組む、米国の研究機関Ceresが2024年5月に発表した報告書によると、米国で事業活動をする自動車会社大手15社中12社(80%)が「排出量削減目標を達成するためには気候政策が重要であると述べているPACCAR、スズキ、トヨタは気候変動に関する政策の必要性を公に表明していない」との見解を示しており、日本勢には厳しい見方を示している。ただし、Toyota Motor North America (TMNA)はパリ協定への支持表明をしていることにも留意が必要だ。

トランプ氏の就任に伴い、米国の政策は「退潮」ムードに包まれるという見方が強い。11月11日にアゼルバイジャンのバクーで開幕の国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では、トランプ氏の大統領就任後、米国がパリ協定の再脱退を決断することは確実視されている状況が大きく憂慮されている。同会議には、選挙直後となった米国からは現職大統領のバイデン氏、EUからフォンデアライエン欧州委員長、そして日本の石破茂首相、オーストラリアのアルバニージー首相らは全員欠席の見通しとも伝えられている。

しかし、2023年に企業関係者などを中心に過去最多の参加者を記録したCOP28に続き、今回も企業やアセットマネジャーらが数多く参加する。生物多様性やエネルギー移行などは投資家の関心事として依然最重要テーマの1つでもある。すでに始まっている米国の株主総会シーズンにおいても株主提案のテーマとなる可能性もあるため注目したい。