日本製鉄(5401)など、株主による「脱酸素」への圧力にさらされる製鉄業界

製鉄業界は2024年の株主総会シーズンに、数多くの気候変動に関する株主提案に直面した。日本製鉄(5401)には、欧州の機関投資家や日本の非営利組織「Corporate Action Japan」、豪州の非営利組織「ACCR」らによって、気候変動対策に関する株主提案を3つ提出された。大阪製鐵(5449)には、アクティビスト・ファンドとして著名なストラテジック・キャピタルが温室効果ガス排出量削減に係る計画の策定・開示を求める株主提案を提出した。

日本製鉄に提出された株主提案の内容は、

議案6:スコープ1、2、3のそれぞれにおいてパリ協定の目標に沿った温室効果ガス(GHG)排出削減目標を短期・中期的に設定し、開示するとともに、脱炭素投資に向けた設備投資計画の開示を求めるもの(提案株主: CAJ、ACCR)

議案7: GHG排出削減目標に連動した報酬を求める提案(提案株主:CAJ、ACCR) 

議案8:気候変動に関連するロビー活動の情報開示改善を求める提案(提案株主: Legal General Investment Management、ACCR)

であり、議案6、議案7、議案8はそれぞれ21.0%、22.5%、27.5%の賛成比率を獲得した。9月末時点で、農林中金全共連アセットマネジメントやAmundiらがすべての議案に賛成票を投じたことが判明しており、日本や世界の多くの投資家らが製鉄業界の脱炭素化に関心を寄せていることがうかがえる。

製鉄業界の脱炭素、電炉を使った技術への転換進むか?

その主な理由は、製鉄業界が高排出産業であることだ。国立研究開発法人国立環境研究所「日本の温室効果ガス排出量データ」によると、製鉄業界は日本国内の製造業の業界別CO2排出量の35%を占めている。香港に拠点を置くシンクタンクのTransition Asiaによると、世界の鉄鋼産業が排出する温室効果ガスは全体の7% (CO2排出量では11%)を占めている。加えて、日本は第3位の鉄鋼生産国である。

従来まで製鉄技術で主流とされていたのは高炉を使った製鉄プロセスだ。この場合、高炉にコークスと呼ばれる石炭を入れて鉄鉱石から鉄を取り出す方法がとられるが、この過程で石炭を使用することから技術の転換が求められている。今後は、電炉を使った製鉄技術、とりわけ電炉で鉄スクラップを溶かして製鉄を行う技術の導入を求める声が強くなってきており、CO2排出量は1/4程度になるという。

このような議論を前提に、過去には製鉄大手のJFEホールディングス(5411)も株主による働きかけに直面している。JFEホールディングスもこれに応じたことで、英ヘッジファンドのマン・グループやノルウェーの機関投資家ストアブランド・アセットマネジメントらも、同社の取り組みを評価したという。

ACCRが開示したところによると、JFEホールディングスは、

・2030年までに2022年当時の目標である30%削減を超えることに焦点を当てた(温室効果ガスの)排出削減目標の年次検討への取り組み
・テクノロジー投資と目標との整合性について、株主との毎年対話を行うこと
・役員報酬を会社の中期事業計画の目標と結びつける

という取り組みを発表し、電炉への大型投資を行うことを発表している。

金融機関からの資金供給にも焦点、日本の大手銀行へ厳しい声も

このような動きもあるなか、それでもなお世界の脱炭素の流れに日本勢が乗り切れていないという指摘も聞こえる。Transition Asia は9月30日に発行した報告書で、日本製鉄について「高炉の使用を継続する投資から脱炭素化技術を試してテストする投資をシフトすることにより、脱炭素化の取り組みを加速する必要がある。電気アーク炉をスクラップと低炭素鉄を利用する能力に活用すべきだ」としたうえで、「これらの変更がなければ、1.5 ℃の目標の排出削減に向けた彼らの進歩は限られたままであり、気候の目標と投資家の信頼に大きなリスクをもたらす」と懸念を示している。

加えて、製鉄業界に資金を融資する金融機関にも融資先技術の転換を求める声が挙がっている。フランスに拠点を置く非営利組織のReclaim Finance とオランダに拠点を置く非営利組織のSteelWatchが執り行った分析によると、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、国際協力銀行(JBIC)を含む日本の大手銀行が、アルセロール・ミッタル、神戸製鋼、日本製鉄など、最も環境負荷の高い鉄鋼メーカーに対し、2016年から2023年6月までの間に370億ドル以上の資金を提供し続けていたという。

これを受けて、SteelWatchのディレクター、Caroline Ashley氏は「気候変動に対処するためには、鉄鋼生産から石炭を排除することが不可欠だ。2030年までに行われる投資が、高炉で原料炭を今後何十年も燃やし続け気候対策を完全に頓挫させるのか、あるいはグリーンな技術に転換するのかを決定づける。世界中の多くの銀行は、すでにエネルギー分野において石炭の将来性がないことを認識しているが、鉄鋼業界においても同様の認識を持ち、無駄な投資を止めるべきだ」と厳しい指摘をしている。