凸版印刷がトッパン・フォームズへのTOBを発表

11月5日付の記事では双日(2768)と日本航空(9201)が空港売店などを展開する航空系の商社JALUX(2729)を公開買付することをお伝えしました。そして今週、また新たに親会社による子会社買収が発表されています。凸版印刷(7911)がトッパン・フォームズ(7862)を公開買付することを発表したのです。公開買付を発表する直前のトッパン・フォームズ株価は1,022円でした。公開買付価格は1,550円なので、JALUXの場合と同様に発表時の株価より50%以上高い公開買付価格が設定されています。

6月4日付の記事では「凸版印刷(7911)の子会社であるトッパン・フォームズ(7862)も上場しています。こちらは両社ともPBRが1倍を割っており、割安です。両社ともここ数年間の売上高が減少基調です。トッパンはリクルート株の売却などで2020年3月期に3000億円だった現金等が2021年3月期には5000億円に膨れており、買収余力が大きい点は注目できるかもしれません」と述べ、このトッパン・フォームズの公開買付の可能性にも触れていました。

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トッパン・フォームズの発行済株式数は1.15億株です。公開買付価格が1,550円なので、単純計算すると凸版印刷は1800億円近い資金が必要です。上記の通り、リクルート株式の売却で凸版印刷は余力がありましたが、大きい金額です。しかし、実際にこの公開買付に投じる費用は約675億円とされています。これは凸版印刷がもともとトッパン・フォームズ株を約6700万株保有していることと、トッパン・フォームズが自己株式を約400万株保有しているからです。以下の記事でお伝えしたように、買付対象者が保有している自己株式は、公開買付時に買い付ける必要がないので、その分買付に必要な金額は減ります。

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トッパン・フォームズの株主構成を見ると、凸版印刷が約58.6%の株式を保有しており第1位、自己株が約3.4%で株主の順位で見ると第4位に相当します。これらを合わせた約62%分は公開買付の必要がないので、買付金額が小さくなるわけです。3.4%というと小さいようですが、凸版印刷以外の保有は100%-58.6%=41.4%であることを考えると、トッパン・フォームズの自己株取得のおかげで買付金額はさらに1割程度小さく済んだとも言えるでしょう。

企業再編において買収・分割は今後さらに活発化

過去の記事でも取り上げたように、日本のマーケットでの企業再編はまだまだ続いていくように思われます。一方で最近、東芝(6502)や米国のゼネラル・エレクトリック(GE)などのスピンオフ、つまり会社分割のような動きがあると思われる方もいるかもしれません。しかし、企業再編においては買収も分割もいずれも行われるという見方が正しいでしょう。

例えば、上記の凸版印刷も、もともとは出版社と印刷業者ということでリクルート株を保有していたのでしょう。しかし、事業内容や関係性などから同社株を保有する必要性は薄れ、それを売却し、一方で1998年に上場させたトッパン・フォームズを取り込む必要があると判断したようです。凸版印刷は買収後の企業形態は今後検討するとのことですが、トッパン・フォームズに外部株主がいないほうが良いと判断したと言ってよさそうです。以下の記事で日立製作所(6501)の再編をご紹介しましたが、企業再編の成功例と思われる日立も事業の売却と吸収で再編を進めていました。

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自社株の保有が多い企業は?

過去の記事では再編の観点で、上場会社で親会社がいる企業を案内してきました。それに加え、ご注目いただきたいのが自社株の保有が多い企業です。その理由は11月5日付の記事で述べています。今回は、どのような企業が該当するかを見ていきましょう。

注目すべき大企業では、アイシン(7259)の自己株8.5%、日立物流(9086)の24.9%、コカ・コーラボトラーズ(2579)の13.0%が挙げられるでしょう。これらの企業は資金力のある親会社があるため、注目できるように思います。一方で、日立物流には佐川グループも資本参加しています。様々な展開が考えられそうです。

より時価総額の小さい企業であれば、さらに多くの例が見つかります。例えば、コムシスHD(1721)は自己株11.3%、三谷商事(8066)は18.8%、理想科学工業(6413)は22.8%です。フクダ電子(6960)も22.1%と大きい水準です。フェリシモ(3396)も29.0%です。豊トラスティ証券(8747)もそうです。

やや本業の将来性が低い企業で自己株の保有比率が高い企業が多い傾向がありそうです。これは一般的に株価が安いと判断する企業ほど自己株取得を行うのでしょう。また、そのような企業はマーケットから将来性を悲観されて株価が下がっている場合が多いのでしょう。買収を進められ、結果的に自社でその株式を引き受けたというような例も少なくありません。しかし、これも買収を進めるためには株価が割安であることが必要で、似たような状況に近いことが多いと思われます。

これまで話してきたように親会社による再編もありますが、そのような企業の場合は経営陣による買収いわゆるMBOも少なくないかもしれません。自社株が多くなった企業は、マーケットがまずその企業の将来を悲観し株価が下がる、それに対し自社株買いを行う、しかしながら実際にその企業の事業なども先細っていき、株価はさらに下がる、それに対しさらに自社株買いを行う…というような状況の企業も少なくないように思われます。このような場合、経営陣からするとまだ株価は割安だと思うことも多いでしょうし、事業構造を大きく変革するためには他の株主がいないほうが良いという判断もあり得るでしょう。引き続き、MBOのための資金も調達しやすい状況が続きそうです。

自社株買い・その自社株の償却と新株発行は本来、対照的なことですが、新株発行が嫌気されるのに比べ、自社株買いの株価へのインパクトは小さいように思います。これは、新株発行の場合、その新株が短期的にマーケットで売り需要として広がるというような考えがあるのでしょう。しかし、本来マーケットでの株式の需給は企業の価値に直接の関係はないですし、むしろ企業の本来の価値からすると良い取引機会でさえあるように思います。ぜひ、株式の検討の際には、その企業がどれくらい自社株を保有しているかを確認し、投資のアイディアに活かしていただければと思います。