石破新首相誕生、アクティビストの投資スタイルは大きな変化への懸念なし
8月28日付「【日本株】8月急落の背景、そしてアクティビストはどう動いたのか?」の記事では2024年8月の日本株の急落を取り上げました。それから1ヶ月あまり、9月30日は前週末の自民党総裁選の結果を受け、日経平均株価は一時2,000円を超える下落に見舞われました。しかし、30日は終値では1,910円安となり、前週の木曜日・金曜日にそれぞれ1,055円、903円上がっていたので、その分がなくなった程度です。
正確には、9月27日(金)は権利落ちで260円程度落ちているので、9月25日(水)を上回るような水準と言っていいでしょう。木曜日・金曜日にかけては財政出動・金融緩和に積極的な総裁候補の勝利を見越した買いが多く入ったようには見えており、9月30日の大きな下げは新総裁の経済政策を懸念してと言うよりは、そういった期待が剥落したという方が強かったというのが素直な見方のように思います。
実際、新総裁に選ばれ、新しい首相となる石破茂氏も9月25日の会見で「岸田政権が3年で終わるわけで、それが進めてきたものというものは、そのままさらに充実をさせ、加速度を上げていきたいというふうに考えております」としており、総裁選に勝利した場合には「貯蓄から投資への流れは一層加速していく」と話していました。もともと、金融課税の強化を唱えていたことから、株式市場では警戒されているとの声もありましたが、「新NISA、iDeCoへの課税強化は毛頭考えていない」としています。新NISAはまさに岸田政権が進めてきた1つの典型で、現政権のマーケットへの目線とは大きく変わらないというメッセージを送ってきたと言えそうです。
岸田政権は2021年10月に発足しました。当時の株価は日経平均で30,000円をうかがう水準でした。就任当初は株価下落に見舞われましたが、2023年には30,000円台を固め、2024年には新NISAの開始もあり最高値を更新し、7月には42,000円を超える水準まで上がっています。その岸田政権を引き継ぐ姿勢を示したことに一定の評価がなされていることが、現時点のマーケットからは見えてきそうです。本連載で繰り返してきているように、上場会社が投資家を意識する政策・施策はこうした岸田政権株高の大きな理由の一つです。これらについても現時点では見直しはなさそうで、政策・施策の実効性をあげているアクティビストの投資スタイルも、まず大きな変化を懸念する状況ではないように思います。
買収提案を受けるセブン&アイ・ホールディングス(3382)、スーパー部門の改善進まず
前回の記事で最後に触れたのがセブン&アイ・ホールディングス(3382)への買収提案でした。提案が報道されたのが8月中旬で、その前まで1,700円台だったセブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)株は2,100円台まで上昇し、9月には2,275円の高値まで上がっています。7月終値と9月終値を比較すると20%程度上昇しています。過去の連載でもセブン&アイについては、「なぜ、コンビニが再編の対象になったのか」「そごう・西武」売却のセブン&アイ、判断の背景と今後再編が注目される企業は?」など、たびたび取り上げています。
セブン&アイは「国内コンビニ・海外コンビニに対し、スーパー・百貨店の収益性が低く、スーパー・百貨店へのリソース投下を避けるべしということ」を過去から言われていました。そして、同社はそごう・西武を売却し、百貨店ビジネスをストップ、さらにスーパーであるイトーヨーカ堂の閉店も続けています。9月29日付けの日本経済新聞の記事によれば店舗数は最盛期に比べ半減するとのことです。
実際、スーパー部門の売上高は2020年2月期の1.84兆円から2024年2月期には1.48兆円まで落ちています。しかし、首都圏・食品に注力するイトーヨーカ堂がモデルとするとも言われるヤオコー(8279)の2024年3月期の売上が6200億円で、その倍以上の売上です。ちなみにヤオコーの営業利益は290億円、スーパー部門のセグメント利益は140億円で、イトーヨーカ堂の収益性の低さが目立ちます。上記の記事は2年半前になりますが、セブン&アイのスーパー部門の改善はなかなか進んでいない状況と言っていいでしょう。
セブン&アイは買収提案に対し「過小評価」と回答
こうした中で、セブン&アイへの買収提案はどういったものでしょうか。買収提案を行ったカナダのアリマンタシォン・クシュタールはセブン&アイ・ホールディングス株を14.86米ドルで買い付けるとしています。これは1米ドル143円換算で2,125円となり、9月30日終値の2,147円とほぼ同水準になっています。セブン&アイはアリマンタシォン・クシュタールの提案に対し、現在実施している戦略の実現を著しく過小評価しているとしています。先ほどの9月の2,275円高値は上場来高値で、セブン&アイとしては戦略を実現することでそれを上回ると考えているということです。
直近の決算説明資料によれば、セブン&アイ全体の戦略は「「食」を中心とした世界トップクラスのリテールグループへ」とされています。オッシュマンズ・ジャパン、バーニーズジャパン、Francfranc、そごう・西武の売却や海外のコンビニチェーンなどの買収を進行中のセブン&アイとしては、戦略を進めているところでその潜在的な可能性をしっかりと見てほしいということでしょう。
一方、上記の通り、スーパー部門の改善はなかなか進んでいない状況です。他社ではドラスティックな動きも起きています。中京圏を中心としたスーパーのユニーはもともとコンビニとしてサークルKを運営しており、2004年にはサンクスと合併し、サークルKサンクスとしてコンビニを展開していました。サークルKサンクスは伊藤忠商事(8001)傘下のファミリーマートと経営統合しています。その結果、もともとスーパーとコンビニを運営していたユニーにはスーパー事業のみが残ります。そのスーパー事業を買収したのは、ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルHD(7532)でした。もともとユニーに出資していたパン・パシフィック・インターナショナルHD(以下、PPIH)は2019年にユニーを完全買収します。
PPIHの決算説明資料によれば、2019年2月期のユニーの業績は売上高が6127億円で営業利益が217億円でした。それが、2024年6月期にはそれぞれ7029億円、448億円になっているとのことで、増収増益で利益は倍増しています。先ほどのセブン&アイのスーパー事業とは真逆の状況です。PPIH傘下に入る前の旧ユニーの頃もスーパー部門は比較的苦戦していたことを考えると、伊藤忠商事が中心となって行った施策は功を奏したと言えそうです。もちろん、ユニーはドン・キホーテのブランド力・運営力・調達力などを活かせた結果ということは言えそうです。しかし、セブン&アイはドン・キホーテ同様に国内小売として最も競争力のある会社の1社で、そのグループにありながら、なぜスーパー事業が改善しないのかという不満を持たれることはやむを得ない面もありそうです。
国内コンビニ大手はほぼ総合商社の傘下に
上記のファミリーマートの例では伊藤忠商事が出てきましたが、セブン-イレブン、ファミリーマートとともにコンビニの三強であるローソンは2024年、KDDI(9433)との共同で三菱商事(8058)に買収されています。つまり、国内コンビニ大手はほぼ総合商社の傘下にあるということです。セブン&アイは総合商社の中では三井物産(8031)との関係が強く、1.8%の保有ですが大株主にも名を連ねています。アリマンタシォン・クシュタールの買収提案からセブン&アイへの様々な可能性が出てくる可能性もありそうです。それを見越してか、株式を保有しているセブン銀行(8410)、ぴあ(4337)の株価もやや上昇傾向が続いています。
上記のローソンの話もそうですが、ここ数年は特に総合商社の動きも目立ちます。三菱商事の永谷園、伊藤忠のデサント(8114)など有名な会社の買収も続いており、アクティビストのような存在感があります。次回は総合商社の動きも見ていきたいと思います。