私はアスリートではないので、陸上競技者の体と心のトレーニングの厳しさ、そして本番で力を発揮することの難しさを知りません。
しかし傍観者として見ているだけでも、マラソン、特に女子マラソンのそれらは、私の想像を遙かに超えるものがあるように思えます。最近国内で行われた男女それぞれのオリンピック代表を選考するレースでは、どちらもルーキーが華々しい優勝を飾りました。一度頂点に立った女子マラソン・ランナーの苦悩は、ポーラ ・ラドクリフの嘔吐・棄権・号泣、云々が印象に強く残っていますが、彼女はその後復活を成し遂げました。何がそうさせるのか?プライド?
いや、そんな一言では表現しきれない、強い執念とデリケートなものと云う相反するものが混ざり合ったような、とても人間臭いものを感じます。これはマラソンに限らず、何事に於いても頂点に立った者の一部が抱える、葛藤なのかも知れません。止めさせることが出来るのは、自分自身だけであり、止め方−スタイルを決めるのも、自分自身だけである。その意味では、指導者を持たず、全てを自律しなければいけないチームQの体制は、当然の帰結なのかも知れません。彼女の胸中は誰にも分かりません。
しかしかつてのチャンピオンが未だ走ると宣言する時は、誰に迷惑を掛けるでもないし、私はその姿勢を尊重し、応援したいと思います。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。