今日は「春立ちける日」です。以前にも何度か書いたことがありますが、あれは確か10年ほど前の今頃(或いは後ひと月ほど遅かったかも知れません)、当社を起業する直前の或る日、ですから前職は辞め、SOHOのような環境で様々なことに苦戦・奮闘していた頃のことです。大企業を辞めて、海とも山とも分からない「オンライン証券」をゼロから数人で創ろうと云う時ですから、仕事に限らず、人生全体の大きな転機で、まさに混沌としていた頃でした。
どう云う理由かは忘れましたが、お昼頃に私は根津神社に行き、おみくじを引きました。するとおみくじの歌が、「袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむ」と云う、古今集の冒頭二首目にある、紀貫之が春立ちける日(立春)に詠んだ歌でした。凍った水を立春の風がとかしていく。氷と風の組み合わせが、如何にもキラキラとした光景を思い浮かべさせ、冬から春への再起動、躍動、希望を、言葉の意味だけでなく、ヴィジュアルなイメージの中に思いっきり解き放っている、本当に素晴らしい歌だと思います。当時の私の状況にも、これ以上ないような素晴らしいマッチで、ちょうど春先のこぢんまりとしたきらやかさの中で、歌のイメージと現実の光景、歌の意味することと現実の自分への意味が幾重にも同時に重なり合い、今でも克明に覚えている時間となりました。立春は、必ずこの歌を思い出します。春はいい兆しに満ちていますね。