金利上昇で株式の魅力は本当に低下するのか?
根強い利上げ観測などを背景に、日本の長期金利は上昇傾向にあります。指標となる新発10年物国債の利回りは、依然として約30年ぶりの3%台で推移しています(2026年9月29日時点)。
一般に、金利が上昇すると、株式投資の相対的な魅力は低下すると言われます。国債の利回りが高くなれば、値上がりが期待できる一方で値下がりする可能性もある株式にあえて投資しなくても、国債の利回りで一定の収益を得ようと考える投資家が増える可能性があるためです。
実際、金利上昇を背景に個人向け国債への資金流入も拡大しており、2026年1~8月の発行額は6兆1,967億円と、すでに2025年の年間発行額5兆2,805億円を上回っています。
金利上昇局面で重要になる「相対的な魅力」の比較
そこで今回は、株式と債券の相対的な投資魅力を測る伝統的な指標である「イールドスプレッド」に注目し、足元の株価水準について考えてみます。
株式投資には値下がりするリスクがあります。そのため、リスクを取っても十分な収益が期待できないと投資家が判断すれば、株式市場から資金が流出し、株価の下落につながる可能性があります。一方、金利が上昇しても、それを上回る収益が株式投資に期待できるのであれば、株式の相対的な魅力は必ずしも低下しません。重要なのは、株式から期待できる収益と、国債などから得られる利回りを比較することです。
企業の稼ぐ力を示す「株式益回り」から足元の水準を見る
株式から得られる収益を考える際、最も分かりやすい指標の一つが「配当利回り」です。これは株価に対して1年間にどの程度の配当収入が得られるかを示します。ただし、企業が稼いだ利益のすべてが配当として株主に支払われるわけではありません。利益の一部は企業内に留保され、設備投資や研究開発、事業拡大などに再投資されます。
そこで、企業が稼ぐ利益全体を株価との関係で捉える指標が「株式益回り」です。株式益回りは1株当たり利益(EPS)を株価で割って算出し、PERの逆数に相当します。
例えばPERが20倍であれば、株式益回りは5%となります。配当として支払われない内部留保も株主に帰属する利益であり、企業の成長や将来の配当などを通じて株主価値の向上につながることが期待されます。このため、株式益回りは、株価に対して企業がどの程度の利益を生み出しているかを示す指標として、債券利回りとの比較にも用いられます。
図表1は、日経平均株価の予想株式益回りと10年国債利回り(複利ベース)の推移を比較したものです。長期金利は足元にかけて大きく上昇し、9月29日時点で3.044%(複利ベース)となっています。一方、日経平均の予想株式益回りは5.899%です。金利上昇によって両者の差は縮小しているものの、予想株式益回りは10年国債利回りをなお上回っています。
注2:10年国債利回りは新発国債10年の複利ベース利回り
注3:予想株式益回りは日経平均株価の予想PERの逆数
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
イールドスプレッドは-2.85%、日本株にはまだ余力があるか?
イールドスプレッドで測る「相対的な投資魅力」
10年国債利回りと株式の予想益回りの差を示す指標が「イールドスプレッド」です。ここでは、10年国債利回りから株式の予想益回りを差し引いて算出します(10年国債利回り-予想株式益回り)。
イールドスプレッドが大きくマイナスになっている場合は、国債利回りに比べて株式の予想益回りが高いことを意味します。つまり、国債と比較して、リスクを取って株式に投資することで得られる利益の水準が相対的に高く、株式の投資魅力が高い状態と考えることができます。
反対に、イールドスプレッドが上昇してゼロに近づけば、株式の予想益回りと国債利回りの差が小さくなります。さらにプラスになれば、国債利回りが株式の予想益回りを上回ることになります。このような局面では、リスクを取って株式に投資する相対的な魅力が低下し、株式市場には逆風となる可能性があります。
足元の水準はなお「株式に投資魅力あり」
図表2は、日経平均株価とイールドスプレッドの推移を1995年以降について示したものです。長期的にみると、イールドスプレッドがゼロ近辺、あるいはプラスとなった時期は限られています。
注2:10年国債利回りは新発国債10年の複利ベース利回り
注3:予想株式益回りは日経平均株価の予想PERの逆数
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
足元のイールドスプレッドは、9月29日時点で-2.85%となっています。長期金利の上昇によってマイナス幅は縮小しているものの、依然として予想株式益回りが10年国債利回りを大きく上回っています。株式と国債の相対的な魅力という観点からみれば、現時点では株式の投資魅力が失われるほどの水準には至っていないと考えられます。
過去のイールドスプレッド縮小局面と株価の推移は?
では、イールドスプレッドがゼロ近辺やプラスとなった局面では、株価はどのように推移していたのでしょうか。日経平均株価の推移と比較してみると、1990年代後半から2000年代初めにかけて、イールドスプレッドがゼロ近辺やプラスとなる局面がたびたびみられました(図表2の丸印)。ITバブルを背景に1999年から2000年初めにかけて日経平均株価が上昇する場面もありましたが、その後はITバブルの崩壊とともに株価は大きく下落しました。
さらに過去を振り返ると、1989年末のバブル期には、株式の益回りに対して国債利回りが大幅に高い状態となっていました。1989年末時点では、東証1部の平均益回りが1.64%にとどまる一方、10年国債利回りは5.16%でした。このため、イールドスプレッド(10年国債利回り-株式益回り)はプラス3.52%(5.16%-1.64%)まで拡大していました。その後、日経平均株価は1989年末をピークに長期的な下落局面に入りました。
過去を振り返ると、国債利回りが株式益回りに接近し、イールドスプレッドがゼロ近辺やプラスとなった局面では、その後の株価動向に注意が必要だったケースがみられます。その点、足元では長期金利が約30年ぶりの高水準まで上昇しているものの、イールドスプレッドはなお-2.85%です。過去の株価調整局面と比べれば、金利と株式益回りの関係から直ちに株価の割高感を警戒する水準ではないとみることができます。
金利・株価の上昇を想定したシミュレーション
ここで、今後の金利上昇と株価上昇を想定して、イールドスプレッドがどの程度まで縮小するのかシミュレーションしてみましょう。
例えば、長期金利が現在の水準からさらに0.5%上昇すると仮定します。これは、0.25%の利上げ2回分に相当する金利上昇を単純に上乗せしたケースです。同時に、日経平均株価が再び史上最高値圏となる7万2,000円まで上昇した場合を考えてみます。
10年国債利回りは、現在の3.544%から0.5%上昇すると4.044%となります。一方、日経平均株価が7万2,000円まで上昇した場合、予想株式益回りは5.366%まで低下します。その結果、イールドスプレッド(10年国債利回り-予想株式益回り)はマイナス1.32%程度となります。
金利上昇と株価上昇が同時に進めば、現在のマイナス2.85%からイールドスプレッドは大きく縮小します。それでもなおマイナス圏にとどまることから、このシミュレーションの範囲では、金利との比較でみた株式の相対的な投資魅力には、まだ一定の余裕があると考えられます。
こうした観点から、金利上昇と並ぶ足元の大きな懸念材料であるイラン情勢が解決に向かえば、年末に向けて日経平均株価が上昇し、史上最高値となる7万2,000円台に到達する展開を予想しています。
米国株はプラス圏にあるが「成長力」で警戒水準とならないと見る
実は、米国株では、このイールドスプレッドがすでに警戒すべき水準にあるとの見方もあります。図表3は、S&P500の1年先予想PERから算出した予想益回りと米国10年国債利回りの差からイールドスプレッドを求め、その後1年間のS&P500の騰落率と比較したものです。
足元のイールドスプレッドは9月29日時点でプラス0.24%となっており、米国10年国債利回りがS&P500の予想益回りをわずかながら上回っています。
出所:Bloombergよりマネックス証券作成
イールドスプレッドだけで株価下落は予測できない
こうした株式益回りと長期国債利回りを比較する考え方は、米国で「Fedモデル」と呼ばれる株価評価の考え方と基本的に同じです。単純に考えれば、イールドスプレッドがプラスとなっている現在の米国株は、国債との比較で株式の投資魅力が低下していることになります。
しかし、図表3でイールドスプレッドとその後1年間のS&P500の騰落率を比較すると、イールドスプレッドがゼロ近辺やプラスになったからといって、その後必ず株価が下落しているわけではありません。1990年代後半から2000年代初めには両者の関係が比較的明瞭にみられる時期もありますが、その後を含めてみると、イールドスプレッドだけで株価の先行きを判断するのは難しいことが分かります。
その理由の一つは、イールドスプレッドが企業の将来の利益成長を十分に考慮しない、比較的シンプルな株価評価指標だからです。今回使用した予想益回りは1年先の予想利益を現在の株価と比較したもので、その先に企業利益がどの程度成長していくのかまでは直接反映していません。
企業の利益成長率が高ければ、足元の益回りが国債利回りを下回っていたとしても、その後の利益拡大によって株価が上昇することは十分に考えられます。実際、株式益回りと国債利回りの単純比較では、株式の将来の利益成長を捉えきれないことはFedモデルの限界の一つとして指摘されています。
「将来の利益成長」を考慮すれば日本株の投資魅力はさらに高まる
つまり、イールドスプレッドは、将来の高い成長を織り込まずに、足元の予想利益と金利だけから株式の相対的な魅力を測る、いわば保守的な比較指標と捉えることができます。その観点から日本株をみると、足元のイールドスプレッドはなお大幅なマイナス圏にあります。
今後、日本企業の利益がさらに成長していくのであれば、金利との比較でみた日本株の投資魅力は、イールドスプレッドが示す以上に高い可能性もあると考えています。
