AI銘柄・非AI銘柄の逆相関
日経平均が高値をつけた6月下旬から、かれこれ1か月半。この間、凄まじい売りに押されて調整してきた感があるが、実は下がっていたのは日経平均だけで、TOPIXはごらんのようにほぼ横ばいだ(グラフ1)。
これはAI・半導体以外の主力株、代表的なものでは銀行株などが7月下旬までほぼ一本調子の上昇基調を続けたからだが、他にもAI・半導体株相場の「裏」で低迷していたIT企業、例えば日立製作所(6501)、NEC(6701)、富士通(6702)などが堅調だったからだ。日経平均が高値をつけた6月22日を起点とすると、これらの株価はむしろ上昇している(グラフ2)。グラフ2の紫の線は日経半導体株価指数だ。ここから見て取れる通り、半導体株が売られる局面で、これらの企業の株は買い戻されてきたということだ。
ヘッジファンドのポジションのアンワインド
今回の調整は、ポジションの巻き戻しが主因だった。日本の報道では、おもに個人投資家の信用取引についての言及が多く見られたが、実はそれら以上にグローバル市場を動かしているのはヘッジファンドのポジションである。
ZeroHedgeは7月29日、「Historic Carnage: Worst Day For Hedge Funds Since The Covid Crash」と題した記事を掲載し、ゴールドマン・サックス[GS]のプライムブローカレッジのデータを引用しながら、「ヘッジファンドにとってコロナショック以来最悪の一日」と報じた。
背景には、ヘッジファンドの典型的なポジションがあった。2026年前半、多くのファンドはAI関連半導体株を買い持ち(ロング)する一方、AIの普及で逆風を受けると考えられていたSaaS(Software as a Service)企業などを売り持ち(ショート)していたとみられる。AIという一つのテーマに資金が極端に集中した結果、「AIロング・SaaSショート」は今年最も混み合った(crowded)トレードの一つとなっていた。
その巻き戻しが始まると、市場は典型的なショートスクイーズ(空売りの踏み上げ)とロングの投げ売りが同時に発生した。キオクシアホールディングス(285A)などが大きく下落する一方、これまで低迷していたSaaS関連の代表格であるラクス(3923)やSansan(4443)などには資金が戻る動きが見られた(グラフは省略するが前掲の日立製作所、NEC、富士通などとまったく同じ値動きである)。
この1か月半の市場の動きは、ファンダメンタルズではなく、ポジション解消の売買が株価を大きく動かした色彩が強い。
戻りには時間がかかる
もっとも、足元ではこうした急激なポジション調整は一巡した可能性がある。AI・半導体株の信用倍率や投資家センチメントには改善の兆しも見え始めており、パニック的な売りは峠を越えつつあるように見える。実際、日経平均は急落後に下げ止まり、半導体株も自律反発局面に入っている。代表的な半導体株のキオクシアホールディングスの株価で言えば、「半値8掛け2割引き」になったところで底が入った。まだまだ不安定な値動きが続いているが、さすがにこの水準は底値と見ていいのではないか。
しかし、他の銘柄については個別の事情はバラバラでAI・半導体株全体が「底打ち」と結論づけるのはまだ早い。AIロング・SaaSショートというポジションは依然として完全には解消されていないと考えられ、ヘッジファンドのリスク削減(デレバレッジ)はしばらく続く可能性がある。近年のリスク管理ではボラティリティが高まるとリスクを落とせという指令がしばらく続くからだ。
これまで何度も述べてきたことだが、「価格の調整はついても玉の調整がつかない」ということだ。価格はものすごく速く下がる。「上昇100日、下げ3日」という格言通りである。だからこそ、逃げ遅れたひと、売りそびれたひとが大量に生まれる。株価が戻りに入ると、そういうひとたちからの「やれやれの売り」「戻り待ちの売り」で頭を抑えられることが多発する。
キオクシアホールディングスで言えば、まずは3分の1戻し(6万2000円前後)をクリアできるかどうかが、当面の戻りの目途として意識される。
